第8話
* 岡引探偵事務所
丘頭警部が届けてくれたメディアと髪の毛を写した写真。
再び無惨な殺人に一心以下全員、怒りに満ちている。
「数馬!何か掴んだか!」一心も言葉使いがいつもより荒くなっている。
「おー、ヒントの一つ目、16歳に起きたのは金山真一の自殺しか見当たらない。同級生だった田鹿浦と同じく同級生の都地川源(とちがわ・げん)がいつも連んでいたことをクラスメイトから聞き取りした。そして、いじめをしていたのはその二人らしいが、みんなそういう噂を聞いたとしか言わない、確証を持ってるやつはいない。でも、探し出す。それで、いじめはその二人だと断定してやる」
「そっか、もう一歩だな。丘頭警部からの情報だと、その金山真一の母親が日立市の老人ホームにいるらしい。捜査員が面談したが、自殺の原因を話してくれなかったらしい。言いづらいのか、知らないのか不明、ということだ。それと、ヒントの4番目。土台建設には合併前、手抜き工事とか法外な請求など黒い噂が立ってたようだが、合併後には噂は消えた。おかしいだろ?合併前にした工事なら合併した後でもその噂が消えるなんてことないだろう?不自然だと警察も考えているようだ」
一心はみんなにメモのコピーを配る。
「それは、関係者の一覧だ。その人たちを今警察が調べている。参考にしてくれ。ただし、これが全てではないと思ってな」
「そりゃそうだわ、警察も見逃しはあるからな」数馬がメモを睨みながら呟く。
* 一人めの被害者の山陽麗衣さん自宅
22日昼過ぎ、一心は一人目の被害者宅を訪れた。
「今日は、お電話した岡引です」
奥から「はい」と重い声がする。
顔を見せたのはお母さんのようだ。
「電話した岡引です」そう言って名刺を差し出す。
お母さんんは名刺を手に「どうぞ」と言ってリビングへ招いてくれた。
一心はソフアにかける前に「この度はお嬢さんが大変なことに、お気の毒です」と言うと、言葉を遮るようにお母さんが強い口調で言葉を発する。
「いえ!娘の遺体を見たわけじゃありませんから!そうよ!生きてる。指は切られたかもしれないけど、あんな動画信じません!」涙が頬を伝っている。
「そうですね、信じましょう!麗衣さんの無事を!」一心はそう言うしか無かった。
「ごめんなさい。わたし信じられないんです。だっていつも通りの朝で、いつも通りに主人と元気に出勤したはずだったのに・・」言葉を詰まらせるお母さん、見てるだけでも涙を誘われる。
「お察しします。お母さん!一刻も早くお嬢さんを救い出すためにも、協力してください。警察も、報道機関も犯人を追っています。自分も田鹿浦議員の秘書さんから捜査を依頼されたんです。それで、色々お聞きしたい。何度も同じことを話してるかもしれませんが、娘さんのためと思って、自分にも話してください!」
「え〜勿論です。で?」
「まず、言いにくいかもしれませんが、議員との関係です。お嬢さんの実の親が議員と聞きましたが?どういきさつで?」
「それが事件と関係あると?」
「わかりません。しかし、一つでも疑問があると、先へ進めません。口外は絶対にしません。探偵業に誓って他には言いません。信じて下さい!」
お母さんは頷いて話を始める。
「わたし議員の経営する会社で事務員をしていたんです。それで議員から声をかけられ、強引な人で、関係を持って子供が出来たと伝えたら、議員の親が出てきて、今は子供はダメだ、早すぎる、と言うんです。わたしは産むって言ったんです。そしたら、父親が家柄とか選挙があるとか色々言い出して、それで一人で産むからいいです、と言って会社辞めて実家に戻ったんです」
「それはひどい」
「わたしは、子供ができたことが嬉しかった。議員のことは端からそんなに好きでは無かったし。そしたら実家に今の主人がきたんです。当時は親の田鹿浦道山の秘書をしていたんです。そこを辞めてわたしを迎えにきたと言うんです。わたしは議員が世間体を考えて、この人に押しつけたんだと思ったんです。実際そうだと今でも思ってます。それに議員は自分の子供だと認めないんです。外の男の子だろうと言って」お母さんは一つひとつ考えながら話してくれた。
「とんでもないことを考える人なんですね〜議員の人柄がそれでわかるようです」
「でも、主人は違うと言うんです。前からわたしのことを好きだったって、でも、議員と付き合ってるなら身を引こうと思っていたらしいんです。で、こうなってその事情も議員から聞かされた上で、迎えにきたと言うんです。わたしより親が喜んで、というよりその人柄をすっかり気に入って、わたしに一緒になれって、生まれてくる子には父親がいた方が良いって言ったんです。調子に乗った主人が議員の血液型も聞いて来たらしくって、同じだから子供が大きくなって、その辺を気にしても大丈夫だからって、大きな声出して笑うんです。その笑顔を見てわたし決心したんです」
「そうでしたかあ、それで浅草のお店で働くようになったんですね?」
「そうです」
「それを知ってる人は?議員の周りの他にいますか?」
「そんなことわたしらは誰にも話せませんし、そもそも議員が違うと言ったら証拠がないんです。母子手帳もどっかにいっちゃって」
「そうですよね。その辺警察には?」
「同じく答えました」
「漏れるとしたら議員の秘書とか経営していた会社の役職員ってことになりますね?」
「刑事さんもそう仰ってました」
「自分は、何故、娘さんが一人目だったのか疑問なんです。議員を脅迫するなら、議員の子供を誘拐するんじゃないですか?」一心は一番の疑問をお母さんにぶつけてみた。
「警察も首を捻ってました。わたしもそう思います。そしたら麗衣が今もここに・・」
そう言ってまた涙を流す。
「議員があっさりお金を出したのもそういう事情があったからなんですね」
「そう思います。あの〜、娘は議員のこと知らないので、くれぐれも内密にお願いします」
「わかりました。それと、何故、議員はヒントを拒否するのではなく、別の言い方をしなかったんでしょうねえ?それと証拠も集めますよ。有無を言わせないための」
お母さんは何も言わず、頷いてタオルで目頭を押さえ、嗚咽している。
「すみません。嫌なこと沢山聞いてしまいました。きっと探し出します」
一心はそう言って頭を下げて家を出た。
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