第7話
* 千代田区の国営放送局
翌朝のニュースで報じられたのは、田鹿浦議員がヒントに関して、自分は悪事と言われるようなことをした事はない、と断言している様子と、また身代金が夜中に奪取されたという内容だけだった。
犯人に繋がる証拠は何一つ出ていないというのが現状だった。十勝川キャップは朝から機嫌が悪い。昨夜の悔しい思いがそうさせている。
夕方、また十勝川キャップのところへ、岐阜市の山田太郎という差出人名で封書が送られてきた。十勝川はまたかと思いつつ指紋に気を付けて開けると、メディアと女性の髪の毛が輪ゴムでまとめられて入っていた。即、警視庁の万十川課長に電話を入れる。
「もしもし、課長!メディアと髪の毛が
送り付けられてきました。来ますか?」
暗い声の課長が応える。
「あ〜、今向かう」
15分後、課長が姿を表す。十勝川は先に髪の毛を渡す。
「多分、大雪山美鈴さんの髪の毛かと・・」
「ん」それだけ言って、課長は画面の正面に位置どる。
「加瀬くん、始めて」
動画が始まる。前回と同じ部屋のようだ。中央に置かれた椅子に女性が縛られて座っている。大雪山美鈴さんだ。誘拐された時の衣服そのままだ。椅子に縛り付けられているようだ。そして首にも紐が巻き付けられている。
「あ〜、やっぱり、まただあー」十勝川が思わず声を上げる。
課長は画面を睨み続けている。
さるぐつわもされていないので、女性の悲鳴が、泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
「きゃー、いやー、助けてー、ダメー・・」
首を大きく振り、いやいやをしている。
椅子も大きく揺れてガタガタと音を立てている。紐が次第にきつくなって、苦しさが顔を一層すさまじいの形相に変えてゆく、そして動きが小さくなって、声が出せなくなってきたようだ。充血して真っ赤な目が白眼になり、口をだらしなく大きく開いて、涙と鼻水と唾液を流し続ける、歪んだ顔。そしてガクッと首が後ろに折れる。少しして、黒尽くめの犯人の後ろ姿が画面に現れ、数拍の間女性を見ている。それからおもむろに紐を解く。
ドサっと勢いよく床に崩れ落ちる女性。もう動くことは無かった。
誰も、喋らない。課長は黙ってメディアをもらって立ち上がる。
「俺は、かつて、これ程犯人を憎んだことは無い」そう言い残して出ていった。
「夜9時のニューに流すよ!準備してー」十勝川も課長と同じ気持ちだった。本当に憎い犯人、腸が煮え返る思いだ。
「取材チームは、何か掴めないのか?」十勝川が問うと「警視庁とも、あの探偵らとも情報交換しながら進めてるんですが、時間が必要です」と応答が返ってくる。
「急げ、一回目と二回目の間は10日しか無いんだ、万一次があれば月末か月明けか、だからそれまでに、なんでも良いから掴め!」十勝川の祈りに近いような叫びに「おー」30名余りの取材班が力を込めた返事をする。
十勝川は、誘拐犯もこの上なく憎いが、田鹿浦議員も憎く思えてきた。被害者を何とか助けようという言葉を一切発しない。きっと悪事の裏をとってやる。強く決意した。
視聴者からも議員に対する批判が相次いでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます