第4話

* 千代田区の国営放送局


 誘拐された女性が殺害されてから1週間にもならない4月20日土曜日。国営放送局の十勝川キャップの下に封書が届いた。キャップが開封し手紙を読むと、大雪山美鈴(たいせつさん・みすず)21歳を誘拐した。身代金1億円と国会議員の田鹿浦宝蔵議員の悪事を暴けと書いてあった。そして、ヒントが五つ前回と同じく書いてある。

即、十勝川は警視庁の万十川課長に電話を入れ「十勝川です。大雪山美鈴さんを誘拐したと脅迫状が届きましたが?」その後は言わずもがなかと思い反応を待った。

「そうですか、今、そのお宅にお邪魔しているんだ。で、内容は?」

予想通りの反応だ。

「前回と同じ、身代金1億円と田鹿浦議員の悪事を暴け、で、ヒントも五つ書いてあります」

「ヒントは同じ?」

「ええ、同じです。あと、身代金は浅草の中学校のグラウンドの真ん中に22日月曜の午後11時半、バッグに入れて置けと書いてあります」

「バッグは送られて来なかったのか?」

「はい、脅迫文だけだわ」

「すまんけど、持ってきてくれないか?」

「じゃ、すぐ行きます。住所は?」

「浅草の・・・・」十勝川は聞いた住所に直行した。


* 大雪山宅


 1時間後、十勝川が大雪山宅に着いて、万十川課長にメモを渡す。課長はそれを父親の洋行(ようこう)氏にみせ、心当たりは?と訊く。父親は首を振る。

十勝川は父親に挨拶したあと「お父さんの職業は?」と尋ねる。

「田鹿浦議員の秘書をしてます。先生には話を通してあり、身代金は出してくださると仰って頂きました。ただ、悪事については俺は知らないと仰っているので困っております」自分の娘も殺されるかもしれないと心から心配している苦しそうな辛そうな表情だ。

「課長!議員にはきっと何かあるに違いありません!捜査してるんですか?」十勝川ははっきりとしたきつい口調で訊く。

「勿論だ、捜査員にヒントに関わる関係者の洗い出しをさせている。その中に犯人がいる可能性が高いと考えている。それに犯人が自分だけ蚊帳の外に置くために、ヒントに入れていない可能性も有るから、それも視野に入れて捜査させてるんだ」課長も表情は厳しい。

「お父さんは、ヒントについて何か知らないのかしら?」

十勝川が父親の方を向いて質問すると「自分は秘書だが議員の全てを知っているわけではないし、子供の頃の話は全く知らない。

会社へは行ったことも無いのでわからない。自分は議員がそんなに悪いことをしてきたとは思えない、犯人の勘違いじゃないんだろうか?」と答えて髪の毛を掻きむしる。混乱しているようだ。

「わたしは、勘違いは無いと思うのよ。だって、人を殺してるのよ。それも女性の小指を切り落としてからよ。相当な怨みと確信がなければそこまではできないと思うのね。違うかしら?」

父親は納得できない様子で「でも、自分の娘が殺されるとしたら、その理由は何ですか?自分にも怨みがあるんでしょうか?」と十勝川に救いを求めるような眼差しを向ける。

「あなたが議員の近くにいる人だからよ。ねえ課長?」

「そうだな。直接怨みはないけど、議員を脅迫する材料にはなると犯人は考えたんじゃ無いかな?」相変わらず威圧感のある落ち着いた声だ。

「そうねぇ、被害者は可哀想だわねぇ」十勝川は心から被害者を心配し胸を痛めている。

父親は「何故そんな理由で娘の命が失わなければならないのか?」と納得できない様子だ。

「今、議員の秘書20名と家族にも護衛をつけている」課長はそう話すが、後手後手になっていることを悔やんでいるようだ、拳を強く握って膝を叩いている。

「で、捜査の方はいかがですの?」と課長に質問すると「あまり喋れないが、関係者を13名ほど洗い出していて、夫々話を聞いているが、行方の掴めない人もいるので時間がかかっているんだ。・・それと、お父さん、土台建設の合併前に手抜き工事や法外な請求など黒い噂が立って、それで仕事が減って資金繰りが悪化したという話を取引先数社から聞いたんだが、知りませんか?」課長が答えに余り期待していないような口ぶりで尋ねる。

父親は、それを感じたのだろう「いやあ、知らないですねえ」と噛んで吐き出すように言った。

「16歳で自殺した金山真一さんのお母さんが日立市の老人ホームに居て、捜査員が当時の話を聞こうとしたんだが、全く口を開かなかったようなんだ。辛い思い出なんだろうが〜訊く方も仕事なもんで、辛いのは一緒なんだが・・・」課長も苦慮しているようだ。

「捜査はまだまだのようだわねえ。お父さん!、娘さんのために議員に何とか言わせて下さい!何かあるはずだけど、警察が裏を取ってからじゃ、遅すぎる。その前にお嬢さんも殺されてしまうかもしれない!お父さん!」

十勝川は何とか議員の証言を翻らせたいと願い、父親に行動を強く促した。

「はい、明日議員に話します。美鈴は何にも悪くない。なんとしても、なにか言ってもらわないと娘の命が・・」声を詰まらせる父親。

 母親は逆探知機が添えられた携帯電話の前に座って、一言も話さず携帯を睨みつけている。洟をすすりハンカチを目頭に当て、顔色を失っている。言葉がかけられないほど悲痛さが身体から溢れ出している。

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