第2話 オカルト体験記 風念寺 封滅堂『通称 逆さ仏塔』

TRPGサークル・プレアデス サークルルーム


【星崎昂志】


午前中のセッションを終えて


スマホを手に、どこからかの電話を受けていた志堂君が・・・


「なあ、みんな。急な話だが、今夜、風念寺ウチめしを喰いに来ないか?

親父が、すき焼きでもどうかと言ってるんだが?」


・・・突然こんな事を言い出した。



「いきなりだな? どうしたんだ、涼慶すずよし?」


「今、親父から電話があってな。食肉関連の仕事をされている檀家さんから、けっこう良い牛肉を頂いたみたいなんだ」


「・・・なあ、涼慶すずよし。お前、【山伏の碑】で確か、今は大事な法要前で肉が食べられないって言ってなかったか? その法要は?」


「まだ・・・終わって無いんだ。今、風念寺ウチの人間は肉を食べれないからな。 せっかく頂いた牛肉を冷凍するのも悪いし、良かったらみんなで食べに来ないか?」


「ちょっと待て、涼慶すずよし。お前もその法要には参加するんだろ? だったら、お前だってその牛肉は食べられないんじゃないか?」


「実は・・・その法要の当日に他の寺の行かなければいけない用事が入っていてな、参加出来なくなったんだ・・・うれしい事にな」


「お前ってやつは・・・すまないが、俺はこれからチョット用事があるんだ。夕方までには風念寺そっちに行くよ。星崎は問答無用で参加するとして、2人はどうかな?」


「タチバナ君。僕は、問答無用なんだね・・・」


「ごめんなさい、私も午後から祝永神社ウチに来客がある予定なの。でも夕方までには行けるわよ」


「すみません、私も教会で打ち合わせが入っていまして、それが終わったらスグに伺います」


「それじゃあ、星崎。実は迎えはもう来ているんだ、行くぞ」




いつも景浦さんが車を止めている所に、今は黒い軽ワゴン車が止まっている・・・

そしてその運転席には墨染すみぞめ袈裟姿けさすがたのマッチョなお坊様が窮屈そうに座っていた。


志堂君は後席のドアを開けて、僕に乗るようにすすめてくれる。


「失礼します」

「親父、待たせたな。彼が星崎だ」


運転席にいるお坊様が振り向いて挨拶してくれた


涼慶りょうけいがいつもお世話になっている。父の浩慶こうけいです」


「あっ はじめまして。星埼昂志です。志堂君・・・『りょうけい』って?」


風念寺ウチの決まりでな、戸籍上は涼慶すずよしなんだが、僧侶として名乗る時は涼慶りょうけいと名乗っているんだ」


「そうだったんだ」




そして車で約1時間・・・


「志堂君・・・ここ本当に東京?」


「星崎、前にも同じ話をしたような気がするぞ」


車は杉林の中の細い林道を抜けて、アスファルトで整備された駐車場に到着した。


「参拝客は表の山門側から来てもらっていて、こっちは身内用の駐車場になる。

自宅スペースは社務所の裏にあってな、こちらからの方が近いんだ」


志堂君のお父さんは僕達を降ろすと、次の用事があるとかで軽バンに乗って行ってしまった。


志堂君の後について社務所に向かうと、前の方がちょっと騒がしい・・・


「なんだ、騒がしいな・・・何かあったのか?」





見ると3人の作務衣を着たお坊様が、大きな声で話し合っている。


「頼んだアルバイトのヒトはまだ来ないのか?」


「ああ、どうやら急用で来れなくなったらしい」


「困ったな、僧侶である我々は触れてはいけないし・・・どうしよう?」




なんか、変な感じで話しているな・・・


「騒がしいな、どうしたんだ?」


「すみません、涼慶りょうけいさん。今、連絡がありまして、封滅堂ふうめつどうから開祖かいそ枕石まくらいしを取ってくる人が急用で来れなくなったらしくて。アレは我々僧籍そうせきにあるものは、触れてはいけない事になってますし・・・どうしましょうか?」


「それは困ったな。あれに触れてもいいのは僧籍そうせきに無い人間か・・・星崎、ちょっと頼んでいいか?」


「どうしたの、志堂君。その開祖の枕石って、何?」


風念寺ウチに伝わる伝説なんだけどな。ウチの宗派の開祖が、悟りを開く修行に1度は失敗したんだそうだ。修行の最中に眠気に負けて、その石を枕に眠ってしまったんだと」


「あまり、良くないお話しだね」


「まあ、一種のいましめとして、この寺に代々保管されているんだが。修行の失敗の元になっているからな、僧籍にあるモノは触ると縁起が悪いと避けられているんだ」


「確かに修行の失敗に関するモノだから、縁起が良く無いか・・・」


「ただ、今回の法要には、開祖からのいましめのあかしとして、保管場所から取り出して玄関に飾る事になっていたんだが、それを頼んだ人が来れなくなってな。今夜、法要の打ち合わせに来られる僧侶の方々にも見てもらう予定だったんだ」


「その枕石、そんな重いモノじゃ無ければ僕が運ぼうか?」


「そうしてもらえると助かる、こっちだついて来てくれ」





志堂君について行った先に、小さな瓦ぶきのお堂が見えて来た。


だね、あれが封滅堂ふうめつどう?」


しかし、建物に近づいて初めて、それが大きな間違いだと気が付いた。


大きくて深い縦穴の中にお堂が建てられている。地上に突き出ているのは、最上階だけ?


穴の底は見えない、地上から最上階に渡るための木製の橋が掛けられていた。


「驚いたか、星崎。これが風念寺ふうねんじ封滅堂ふうめつどう。別名、さか仏塔ぶっとうだ」


「びっくりした・・・まさかこの塔を下まで降りて行くの?」


「いやいや、開祖の枕石はその見えている最上階の一つ下の階に置いてある。たぶん2~3分で到着するよ」


「良かった、かなり深そうに見えたけど、どう考えてもエレベーターが必要な深さだよね」


「そうだな、はエレベーターを提案してみよう」

おっ、僕の冗談を、志堂君が軽く返してきた・・・


志堂君が橋を渡って、お堂の正面にある観音開きの扉を開けて中に入っていく。


お堂は八角形をしていて、その中には下に降りる階段の開口と手すりが見えていた。


「枕石はそこの階段を降りてすぐだ、台の上に青黒い石が置いてあるはずだ」


志堂君にヘッドライト付のヘルメットをかぶせられた。


「わかった。青黒い石だね」


暗い階段をヘッドライトの灯りを頼りに降りて行くと、確かに木製の台が置かれていて、その上にヤシの実位の大きさの青黒い色をした石が置いてある。


その石は、どういう訳か木製の台の上でカタカタと音を立てていた。


一瞬だけ、開祖の方には失礼だけどだとか考えてしまった。


「まあ、ある意味塔の最上階近くだからね。建物の揺れの影響は受けるよな」


石を両手で掴んで持ち上げる・・・うん、やっぱり石からは振動は感じない。さっきの音は建物が揺れたせいだね。


手に石を持ったまま、階段を登る


「志堂君、お待たせ・・・顔色が悪いけど大丈夫?」


「ああ、ありがとう・・・こっちに持って来てくれ」





志堂君に案内された先、社務所の正面玄関。大きな衝立ついたての前に木目が鮮やかに浮き出た低い台が置かれている。


「星崎、枕石はその台の上に頼む」


僕は台を傷つけないように、ゆっくりと枕石を据えてみた。


「どう? この方向からの方が見栄えがいいかな?」


「ああ、そうだな。それで良いと思う・・・さあ、牛肉が私達を待っている行くぞ星崎」






奥の座敷には、もうすき焼きの準備がされていて。ほどなく用事が終わった3人が合流してのすき焼きパーティーが始まった。


盤動さんだけが、酷く疲れたような顔をしていたけど、教会の打ち合わせってそんなに大変だったのかな?





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