第4話 オカルト体験記 永久封印指定『御崎の大海瘴』後編
「前方に目標の砂浜を確認しました。これより上陸します」
僕達を乗せたボートはかなりのスピードで砂浜に直進していく。そして東条さんが後部のエンジンユニットを引き上げた後、その勢いのまま砂浜に乗り上げるようにして停止した。
東条さんが真っ先に砂浜に飛び降りて、係留ロープを引っ張る。それを見て、僕達3人はボートから飛び降り、ボートを波打ち際から引き上げる手伝いをする。
「ご協力ありがとうございました。ところで、私は皆さんに同行の指示を受けているのですが、これからの行動はどうされますか?」
「はい、地元の神社に残っていた文献には、島の中央の丘にある
東条さんが地図を見ながらタチバナ君と話をしている。
「では、進路上に特に障害物が無ければ、このまま北東方向に進む形ですね」
「はい、はぐれるとは思いませんが。まあ、何が居るか分かりませんから一緒に行きましょう。星崎、今度は石碑を蹴り倒さないように気を付けてな」
「タチバナ君、恥ずかしいから思い出させないで」
そうして僕たちは、不自然に、まばらに生えた木の間を抜けて歩いていった。
「何か違和感を感じるね。なんだろうこの島?」
僕の言葉にタチバナ君と志堂君が、失礼なくらいあからさまに驚いた顔で反応した。
「・・・霊感の無い星崎が感じるんだから、もしかしてよっぽどなのか?」
「いやいや、そういうのじゃなくて。もっと単純な違和感だと思う。ここには何かが無いような気がするんだ」
「なあ、星崎。無いのが気になるのか?」
志堂君、そんなに唖然とした顔して、どうしたの?
「そうなんだけど・・・・そうか」
わかった。
「ああ、そうか。虫がいないんだココ」
ウチの実家なんて、この時期だとどこも虫だらけなのに、ここでは1匹も見つからない。
「でも、星崎、それだと生態系がおかしくならないか?」
「
「それで、島の植物の生態系も影響を受けてまばらなのか? 原因は何かな?」
「ゲームだと、呪いだとか有毒ガスの影響に違いない・・・とかセリフを入れる所だね」
「星崎、リアルだと、どうだと思う?」
「開発業者が何か有毒なモノを持ち込んだか、火山性ガスが有力かな? でも、今の季節こんなのどかな場所で、しかも虫がいないなんて。逆に虫嫌いのキャンプ好きが聞いたら殺到しそうですね」
「
「まあ、そんな事があったら、上陸許可がおりないでしょうね」
そうしている内に開けた所に出た・・・・
「なに・・・ここ?」
ひび割れたコンクリートの地面にまばらに草が生え、ブルドーザーやパワーショベルが朽ちて放置されている。
「中止された、開発の跡だな」
「本当に工事の最中に放置されてるな」
「工事車両が、そのまま放置されているのは気持ち悪いな」
「祠は、どこだろう?」
「星崎、また蹴とばすなよ」
「タチバナ君、今度は気をつけるから大丈夫だよ」
進むうちに、ひび割れたコンクリートで覆われた地面が終わって、草むらになってきた。
メキッ!
「あれっ?」
「星崎、何をやった? 何か蹴ったのか?」
「星崎、別に怒らないから正直に言ってくれ」
僕は、そっと足元を見た・・・・
「ゴメン、地面に落ちていた木製のお地蔵様みたいな物を・・・・・踏んだと思う」
二人が近くにきて、同じように僕の足元を覗き込む。
「星崎、見事にコナゴナだな」
「星崎、ケガは無いか?」
周囲には朽ちた木の板などが散乱していた。
「どうやら、祠は壊れていて中の秘仏か何かは地面に落ちていたみたいだな」
「まあ、壊れた物はしょうがない。気を取り直して洞窟に向かおうか」
丘を越えて傾斜を下っていく、こちら側は岩場になっていた。
「この辺りに洞窟があるはずなんだが、洞窟って岩場の裂け目かなんかかな?」
「どうだろうな、波で削られた海洋洞窟かもしれないぞ」
「あの~、すみません。ちょっと止まって貰えますか?」
東条さんの声で、皆が止まった。
「どうしました? 東条さん」
「すみません、何か聞こえませんか? 風の抜ける音だと思うんですが」
全員が耳を澄ませると低く響く風の音が聞こえる
「コレみたいだな、東条さん、良く気が付いてくれた」
「いえ、お役に立てて良かったです」
音を頼りに探すと、海岸近くに大きな岩場の裂け目を見つけた。
東条さんから、ヘルメットとヘッドライトを渡され、それを身に着ける。
「さて、洞窟探検は初めてだな」
「足元と頭上注意だな、星崎、気を付けろよ」
「大丈夫、もう蹴とばさないし、踏まないよ」
「いや、そうじゃ無くて。ケガしない様にしてくれよ」
「ごめん、そっちだね。志堂君ありがとう。気をつけるよ」
4人でゆっくりと洞窟の中に入っていく。どこかで繋がっているのか、風が抜けて声のように響いている。
「まるで、声みたいに聞こえるね」
「ああ、風が強くなったのか、大きく聞こえるな」
「まるで、洞窟全体が響いているみたいだな」
奥に進んで行くと、広い空洞が現れた。向こうに巨大な祭壇だろうか、大きな石の台が見える。
その石の台の向こう側に石の衝立があって、まるで巨大な椅子のようにも見える。
「すごいね、まるで玉座みたいだね」
僕は好奇心にかられて祭壇に近づいた。
緑色の岩を削ったのか、見た感じはテラテラ光って見える。
感触が気になって祭壇をペタペタ触っていると、いきなり突風のような風が起きてヘルメットを持って行かれそうになった。
右手で祭壇に触れたまま左手でヘルメットを押さえる。
風がまるで叫び声のようだ。ようやく風が収まって、
「いや~すごい風だったね」
あれ? 振り返るとタチバナ君と志堂君の顔色が、紙のように白くなっている
「二人とも、顔色が悪いけど大丈夫かな?」
「「・・・・・・・・・」」
「え~と、本当に大丈夫?」
タチバナ君はやっと僕の言葉に意識が追い付いたように、唐突に
「ああ、星崎、すまない、すこし潮の香りで酔ったかもしれない」
志堂君は顔を右手で覆って、左手はポケットの中で何かを握りしめているようだ。
「すまない、星崎、私は少し混乱しているようだ」
これは、いけないな・・・
「東条さん、一度船に戻りましょう」
僕達は洞窟を出て、慌てて巡視艇に戻る事になった。
丘を越えて砂浜でゴムボートに飛び乗り、いそいで巡視艇にたどり着く。
巡視艇の中でも、何故か海上保安庁の職員さんが皆、酷く疲れた表情をしていた。
祝永さんや盤動さんも船に酔ったのか、顔色が良くない。
タチバナ君と志堂君の顔色は、洞窟の時よりもずいぶん良くなったみたいだったが。
「すまないな、艦長に話があるからちょっと行ってくる」
と2人共艦橋の方に行ってしまった。
巡視艇『いせゆき』艦橋
【絶華 輝夜】
「艦長、緊急でウチの上に連絡をお願いします。神名島の霊障は消滅、島中央の祠は、中にあったと思われる秘仏が破壊されて消滅。島の北東部洞窟内の祭壇に居た存在も消滅したもよう。船に戻るまでの間で島の中に瘴気は感じられなかった。おそらく今は島の探索が可能です」
「わかった、タチバナ君、通信士、すぐに通信の準備を。ところでタチバナ君、君達が島に上陸してから2回、謎の衝撃波で船が大きく揺れたんだが何かあったのかな?」
「1度目は中央の秘仏破壊が原因だとおもいます。2回目は洞窟の中にいた物の断末魔ですよ」
「2回目の衝撃波は特に凄まじかった、この船が転覆するのではないかとひやひやしたよ」
「こっちでも、暴風雨に叩き込まれた気分でした」
「しかし、これで危機は回避できた訳だね」
「はい、準備していた伊良湖岬周辺の住民の避難も必要ありません」
「そいつは良かった。君の顔色も酷いモノだ、通信の跡、ゆっくり休んでくれ」
「はい、すみませんが、そうさせて頂きます」
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