第3話 オカルト体験記 永久封印指定『御崎の大海瘴』前編
中部空港海上保安航空基地
【星崎 昴志】
「わ~い、海上保安庁の巡視艇だ。『いせゆき』だってカッコイイな~」
「ほら、星崎。現実逃避してないで、さっさと乗れ」
山育ちの僕には、あまり馴染の無い潮の香りの中、タチバナ君の言葉が僕を無理矢理現実に引き戻した。
「あれ?
「彼女なら、もう、巡視艇に乗っているぞ」
「・・・いつのまに」
「俺と
巡視艇『いせゆき』内
【
「盤動さん、指示通りの位置に耐水処理をした結界符を貼ってあります」
「はい、ありがとうございます。それではこれから、その結界符を基点にして、種類の違う3種の結界を張っていきます。1ケ所ずつ行いますので案内をお願いします」
巡視艇『いせゆき』艦橋
【絶華 輝夜】
「艦長、神名島に上陸する事は可能でしょうか?」
「指示された安全距離からの目視確認では、島の桟橋は残っていませんでした。上陸するなら複合型ゴムボートによる上陸になります」
「神名島には我々の内3人が上陸する予定なんですが、そのゴムボートには何人乗れますか?」
「この艦に搭載しているのは7mクラスなので、最大で18人乗る事が可能です」
「けっこう大きいですね、それって俺と
「本来なら2級小型船舶操縦士の資格が必要なゴムボートになります。こちらで操縦者を出しましょうか?」
「この船は
「その場合、操縦者の安全は確保出来ますか?」
「おそらく怪我をする事は無いと思いますが・・・ただ、現実にはあり得ないモノを見たり聞いたりする可能性がありますので、その方の精神面が心配ですね」
「精神面ですか? 東条、行けるか?」
艦長が艦橋にいた背の高い男性に声を掛けた
「艦長、私は、そういう物をあまり信じていない人間なのですが?」
「東条さん、島の中で何が起きても、『目の錯覚だ』とか『今のは気象状況の変化だ』とか思ってくれればいいですよ」
「東条さんにお願いしたいのは、ゴムボートの操縦と、島では我々から絶対に離れない事です」
「あなた方からですか?」
「一番安全なのは、島に一緒に行く3人目からです。彼の傍にいれば厄介な物は絶対に近づけませんから」
「そんなスゴイ方がいるんですね」
「あと東条さんには、行く前に大事な注意点を説明させてもらいます」
「現場での注意ですか?」
「いえ、彼の取り扱いについての注意です。本人には絶対に秘密ですよ」
巡視船『いせゆき』空き船室
【星崎 昴志】
案内された船室で祝永さんと待っていると、ほどなく盤動さんが入って来た。
「お待たせしました」
「天梨紗ちゃん、お疲れ様」
「盤動さん、お疲れ・・・え? 何かしてたの?」
「い・・いえ、この船に父の知り合いがいるので、預かった、お土産を渡してたんです」
「そうなんだ」
そして、タチバナ君と志堂君と・・あれ
「お待たせ、こちら今回、ゴムボートを操縦してくれる東条さんです」
「操縦担当の東条です」
「祝永です」「盤動です」
「星崎です、今日はよろしくお願いします」
あれ? なんだろう。 東条さんから、ものすごい
「ところでタチバナ君、ゴムボートって何?」
「どうやら目的の島の桟橋が破損しててね、この巡視艇では停泊出来ないらしい。
それで上陸するのに海上保安庁の複合型ゴムボートに乗せてもらう事になったんだ。
島には東条さんも一緒に上陸してくれるから、そのつもりでな」
「それは助かるけど、なんていう島に行くの?」
「ああ、神の名の島と書いて
「へ~、でも海上保安庁の方が行かないと上陸出来ないなら、その場所って無人島なんでしょ?」
「元々は宗教上の禁足地で立ち入りは絶対に禁止。島への上陸が許されるのは、たとえ神職でも年に1度の特別な祭りの日だけ、それも祈りを捧げる数時間だけだったそうだ。だから、この周辺の住民は伊良湖岬の祠で日々の祈りを捧げてたらしい」
「らしいって? 今は信仰されてないの?」
「なんでもバブルの頃に島の開発に入って、事故やトラブルが多発して開発が中止になった、いわゆる呪われた島だな」
「タチバナ君・・・これってガチじゃないの?」
「海上保安庁管轄のとっておきのオカルトスポットだ、マスター、レア中のレアだから楽しんでくれたまえ」
東条さんが、イヤホンで何か聞いている。
「そろそろ、神名島付近に到着したようです。みなさん救命胴衣を装着して複合型ゴムボートに乗船をお願いします」
「はい、まずは俺と涼慶と星崎が乗せてもらうから。祝永さんと盤動さんはコッチで待機ね」
甲板に出ると巡視艇の船縁にゴムボートが設置されて昇降クレーンのワイヤーも取り付けられているのが見える。
先に東条さんが乗り込んで、声を掛けてくれた。
「どうぞ、足元に気を付けて乗ってください」
僕達3人が、ぞろぞろと乗り込んでシートについてベルトを固定する。
それを確認すると、東条さんが合図を出してクレーンが動き出した。
「搭乗者のベルト確認。ゴムボート降下」
「ゴムボート降下」
「それじゃあ、出発しますね」
東条さんはゴムボートを出発させる。
空には雲1つ無いし、思ったよりも波も穏やかだ。
「はい、今日はよろしくお願いします。しかし、いい天気でよかった」
「そ、そうですね」
東条さんが、唖然とした顔で応える、どうしたんだろう?
結構なスピードで僕達を乗せたゴムボートは進んで行く。
「そういえば、桟橋が使えないんですよね。ゴムボートはどこに上陸するんですか?」
「島の南西に小さな砂浜があるようなので、そこを目指します」
「のどかだね、風が気持ちいいな」
「ああ、そうだな」
「しんじられない、光景だな」
いや志堂君、きれいだけど。信じられないはちょっと違うと思う。
※海上保安庁 第4管区所属 はやぐも型巡視艇『いせゆき』
実在する船のお名前を使わせて頂きました。
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