第2話 サプライズにもほどがある

土曜日のサークルルーム


今日は、オリジナルシナリオ『魔鏡連鎖まきょうれんさ』の3回目のセッションだ。

シナリオも第2章に入って、

『前回、博物館から盗まれた古代の鏡【集呪鏡しゅうじゅきょう】。その行方を調査している途中で浮かび上がった、天文台観測イベント参加者の集団変死事件。

天文台周辺で目撃された、背の高い黒いフードの人物を、物理的証拠と霊的視点の両方から調査し、潜伏場所を特定した所でセッションを終えた・・・』




そして、午後・・・


「タチバナ君、今日は遅くなるかも知れないから、着替えを持参って言われたけど、どこに行くの?」


「このあいだのサプライズを予想外の方向から潰されたので、今回はリベンジだ。星崎は、だまってサプライズされるように」


「あれは酷かったからね、そうか、その分気合いが入っているのか?」


「ああ、もう車も呼んである。さっさといくぞ」


「タチバナ君と志堂君はともかく、祝永さんと盤動さんが手ぶらなのはどうして?」


「ごめんね、星崎君。私たちの荷物はもう景浦さんの車の中なの」


「ごめんなさい、星崎さん」


そうして景浦さんの車に乗り込んでの、星崎だけが行き先の知らないミステリーツアーが始まった。





『タチバナ特殊案件』ワンボックスカー車内


【星崎 昴志】


「ところで星崎、前にゲームの小物で古い本みたいなのを持って来てたけど。ああいうのって、よく作るのか?」


「ん、あの本? あれは『フェノメナ』の前にやってたTRPGの小道具だよ。そういえば本は結構作ったな・・・どうして?」


「ああ、実は巌止教会の中の祈祷台に、教会の設立当時の祈祷書が置かれているんだ。これがまあでな、そろそろ文化財保護の登録されることになってな」


「すごいね、盤動さん」


「えっ・・・あっ、はい。そうなんです」


「そうなると、教会の中に無防備に置いておくことも出来ないだろ。祈祷書は教会本部に保管してもらって、何かレプリカっぽいものを代わりに置けないか相談されてたんだ」


「・・・そうなんです」


「そうなの? 中身が白紙でいいなら、何冊か作った本があるから、今度持って来るよ。けっこう重たいから1冊ずつで良いかな?」


「ああ、ぜひ見せてくれ。ところで星崎、『フェノメナ』の前にも本が小物になる様な別のTRPGをやってたのか?」


「うん、20世紀初頭が舞台のをやってたよ」


「それは、もうやらないんだな」


「ゲームの中の世界観がね、終末思想というか。人類の滅亡は決まっていて、それを少しでも先延ばしにしようと行動する、そんな話が多いゲームなんだ」


「暗いというか・・・うつになりそうなゲームだな」


「世界的に熱烈なファンの多いゲームなんだけどね、シナリオ中盤から後半でキャラクターの死亡や退場が多いから大変だよ。以前プレイした既成シナリオでのセッションは本当に大変だった。小さな島の漁村で海の邪神復活が画策されて、それを阻止する内容だったんだけどね」


「すっごくいやな予感がするけど・・・どうなった?」


「邪神の復活が阻止出来ずに。その影響で港に赤いアメーバみたいなのが溢れ出して、結局島もメンバーも全滅しちゃった」


「「げっ」」


「その後は、島から溢れ出した赤いアメーバが、陸に上陸する直前になって海中に消えていって。実は復活の儀式には星の位置が適切でなかった、邪神は再び眠りについた・・・という事にして。キャラクターを全員作り直したんだ」


「「ぶっ!!」」


え~と、何かまずい事を言ったかな?


「どうしたの? タチバナ君、志堂君」


「いや、これから行く心霊スポットが実は島なんでな。一瞬、どこかで星崎にこの情報が漏れたのかと思った」


「星崎、これから島にみんなで行くのに、全滅とか縁起が悪すぎるだろう」


「それはゴメンね。でも僕も、あのゲームのシナリオを作っている内に毎晩悪夢を見る様になってね、だから封印してるんだ」


「どれだけ熱中しているんだ。さあ星崎、に到着するから降りるぞ」


僕はタチバナ君の言葉が信じられなかった。


「いや、ちょっと待ってよタチバナ君。さっき海って言ったよね。なんで港じゃなくて空港なの?」


「安心しろ星崎」


「何を?」


「「行き先は国内だ」」





中部国際空港セントレア


「ち・・・・・中部国際空港に来ちゃった。タチバナ君、これってサークル活動の息抜きじゃなかったっけ?」


「ああ、十分に息を抜いてくれ。ここから迎えの車でお待ちかねの港に行くぞ」





空港を出た所で、次のサプライズが待っていた。


「ねえ、タチバナ君」


「どうしたのかな? 星崎」


「迎えの車の人、制服着てるね」


「ああ、カッコイイな」


「車のボディに『海上保安庁』って書いてるね」


「どうだ、サプライズだろう」


「羽田から飛行機の時点で、十分サプライズだよ」


「あのサプライズを潰されたんだ。こんなモノで済むと思ってもらっては困るな。星崎」


「いや、大学のサークルで行っていい所なんだよね、これから行く所」


「大丈夫だ、許可が取れたんだから。それは行っていい所なんだろう」


「それにしても、海上保安庁の職員さんの手を煩わせるのはどうかと思うんだけど。現地の漁師さんとか観光船とか頼めなかったの?」


「それは無理だよ。星崎」


「どうして?」


「これから行く所は地元の漁師さんや観光船も入っちゃいけない場所だから。

海上保安庁以外の船だと逮捕されるぞ」


「いや、その人たちがダメなら、大学のサークルはもっとダメでしょう」


「タチバナの方ですね。お待ちしていました。どうぞ」


「はい、よろしくお願いします。さあ、星崎。さっさと乗れ」


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