第5話 魔導書(仮)
サークルルーム
【絶華 輝夜】
「え~っと、星崎。前回の愛知県での話をしようと思ったんだが、その前に・・・
その、両手に1つずつ持った紙袋は何かな? 気になって話に集中出来そうにないんだが?」
「やだな、タチバナ君。この間言ってた本のレプリカだよ」
「だから、なんで2つあるんだ? お前が1つずつって言ってなかったか?」
星崎が頭を掻きながら・・・
「部屋に帰ってから、今まで作った本を取り出して見たんだけど・・・
他の本は絶対に教会には置いちゃいけない装丁の本だった」
と、言い切りやがった。
「・・・お前が、教会に置くのを躊躇う本か?」
「うん、アレはダメだ。あんなモノを教会に置いたら場面効果が加わって
呪われた本にしか見えない。僕なら教会に行きたくなくなるレベル」
「・・・と言う事は、持ってきたのは別の本なんだな?」
「うん、これならギリギリ大丈夫だと思う」
「ギリギリかよ、とりあえず見せてくれ。盤動さんもいいかな?」
「はい、私も見てみたいです」
そして星崎が紙袋から取り出したのは、漆黒の皮の装丁が鈍く光り、装飾された古い金物で四隅を止められた、大きな本だった。
同じ漆黒の皮ベルトが巻かれてうて、丸い微細な模様の金具で止められている。
「なんというか、迫力があるな。この本」
「存在感というか、歴史を感じますね」
「サイズもデカイ分、圧倒されるな」
「すみません、言葉が出ないです」
「これは、架空の小説にある『無銘祭祀書』がモチーフにしているんだ。作中でも『黒の書』とか呼ばれている魔導書をイメージして作ってみた小道具だね」
「すごいな、星崎。確かに迫力があり過ぎるかもしれないけど、これならギリギリ行けそうじゃないか?」
「でしょう? だから、もう一つはちょっとアウトかもしれない」
「星崎が、ちょっとアウトか。君の感性を調べるいい機会だな、見せてくれ」
「ははは、こっちはちょっと重いから運ぶときに注意してね」
そうして、取り出した本は・・・・
「これは、金属製の表紙なのか? 表面に細い凹凸で模様の様に装飾してあるみたいだが」
「さっきの黒い本より古い物に見えるな」
「より魔導書っぽいでしょうか?」
「鎖を巻きつけたら似合いそうね」
「これが『妖蛆の秘密』という魔導書がモチーフ。見た通り鉄の表紙なんだ。重いから取り扱い注意かな?」
「ワ~ スゴイ。盤動さん・・・・どっちにするの?」
「わ・・・私が決めるんですか?」
「がんばって天梨紗ちゃん。巌止教会の代表としてキッチリ決めてね」
「盤動さん、少しは同情するが、こればっかりは我々は口が出せないな」
盤動さんは少し考えてから・・・
「星崎さん、お願いがあります」
「はい、盤動さん。なんでしょう?」
「この本・・・・両方下さい」
「へっ?」
「黒い本を巌止教会で、鉄の本をイギリス本部の教会で使わせて頂きたいです」
「いいけど、こんな重たい本をわざわざイギリスまで運ぶの?」
「今度、母がイギリスから帰って来ますから、その時に持って帰らせます。いいですか?」
「いや、使って貰えるなら気にせず持って行ってください」
「ありがとうございます」
よし、本の件は片付いた。
「よし、本の件はそれで決まったな。それでは本題に移ろうか。星崎、今回の愛知遠征はどうだった?」
「ひつまぶしが大変おいしゅうございました」
よし、順調に食育が進んでいるな。
「あそこは海上保安庁第4管区の御用達らしい、あの艦長さん、いい店を紹介してくれたな」
「次の日の手羽先も、味噌煮込みも大変おいしゅうございました」
「そうか、よかった。実は夏休みにサークル合宿旅行を企画立案中だ。盤動さんの夏休みの日程と合わせるが期間は大体1週間程、行き先は秘密にする予定だから楽しみにしていてくれ」
「また、ミステリーツアーなの?」
「もちろんだ。そういえば星崎、夏休みは大阪の実家に帰るのか?」
「いや決めてないけど。帰るとしたらお盆くらいかな? 寿富堂でのアルバイトの予定もまだ聞いてないしね」
「よし、合宿は、こちらで鋭意計画中だから楽しみにしていてくれ」
「そうだね、僕もシナリオ作りがんばるよ」
「それじゃあ、最後に、このサークルの名前を決めてしまおうか」
「まだ決めて無かったのか?」
「そういえば、忘れておりましたね」
「そうでした」
「決まらなければ、自動的に『TRPGサークル星崎』に決定だが異存はないな」
「絶対に反対。お願いだからやめてタチバナ君」
「しかし、名前を付けるならゲームの名前かGMである星崎の名前からかな?」
「フェノメナと星崎昂志か、名前のイメージは完全に夜空の
「志堂君、それを言われるのは恥ずかしいからやめてください」
「志堂さん、
「夜空に見える星の集まりだな、枕草子にも書かれている」
「ロマンがありますね」
「それじゃあ、『TRPGサークル昴』かな?」
「ごめん、自分の名前が入っているのは恥ずかしい」
祝永の姉さんが少し考えて
「日本では
「それじゃ、『TRPGサークル・プレアデス』これでいいな」
「僕の名前が入って無ければ文句は言わないよ」
「よし、文句が無いなら代表者は星崎で問題無いな」
「よし、決まった。さて盤動さん」
「はい」
「景浦さん呼ぶから、教会までその本を持って行こう。さすがに重くて運べないはずだ」
「そうですね、多分無理だと思います」
「涼慶、すまないが鉄の本を頼む。星崎、よく両方とも持ってこれたな」
「意外と平気だったよ。でも女性には鉄の方は無理だと思う」
「と言う訳で、今日は解散でよろしく」
「じゃあ、また明日」
寿富堂
【盤動 天梨紗】
絶華さん、志堂さんと《本》を持って帰って来た。
「おとうさん、設置室1つ開けて。この本を設置したら鍵は3つかけて」
「えっと天梨紗、星崎君の作った本を受け取りに行ったんだよね?」
「こんな圧迫感のある本は、間違っても普通の所に置いておけないの。」
2人に手伝ってもらって設置室に2冊の本を設置する。中身が白紙だってわかっているのに、本に触れる手が震えてしまう。
運ぶのを手伝ってもらったお二人には、お礼を言って帰ってもらった、
お父さんと2人になって・・・
「それで? お母さんから連絡はあった?」
「無いけど」
「そう」
自分でも、ぞっとするような冷たい声が出た。
「それなら、私から来たくなるようなメッセージを送っておくわ」
《母へ、こちらの霊的基点に使う本と一緒に、そちらの教会の基点に使える本を入手したの。
もし必要無ければ他所に譲るけど、いい? 至急連絡を乞う》
ほら電話がかかって来た。
『天梨紗ちゃん、それ、どういう事?』
「お母さん。本は入手して、ウチの設置室に2冊共置いてあるわよ。とりあえず、止教会の基点を入れ替えたいのだけど・・・・・・まだこっちに帰れないの?」
『まだ、
「私、夏休みには関東を離れて、おそらく永久封印対応に行く事になっているから。おそらく一週間以上ココの結界から離れなきゃならないんだけど、それまでに・・・間に合うの?」
『え?』
「せっかく、そちらで使えそうな基点の本も見つけたのに・・・確認しなくていいの?」
『天梨紗ちゃん・・・・・』
「
『天梨紗ちゃん、なんとか都合つけて、そっちに行くから。お願い、もう少しだけ、もう少しだけ待ってよ』
「今は『曼陀羅呪物』に余裕が出来て、タチバナと祝永神社と風念寺が協力してくれているのよ。このタイミングを逃したら、関東の12結界を張りなおすのは、事実上不可能だと思う。だから、なるべく急いで3人目も連れてきて」
『なんで、そっちは急にいい方向に動くのよ。こっちは面倒な柵で動けないのに』
「だから、基点の本を理由にしてさっさと帰って来なさい。本の保管に設置室を使っているから、このままだとウチの受け入れもできないわよ。じゃあね」
『天梨紗ちゃん、待って・・・』
まあ、これでお母さんも何か理由をつけて帰って来るでしょう。夏の合宿までは祝永神社と風念寺訪問だけの予定だから・・・・その間に、じっくりと新しい結界の実験をして、
自分自身のレベルアップをしないとサークルのメンバー内で私だけ役に立たないのはさすがに恥ずかしい。
よし、気を取り直して・・・・・・・・・・と、思っていたのに。
どうして、こんなに事件が。立て続きに起こるの?
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