閑話4 学内小会議室C【退魔師の内緒話】


【盤動 天梨紗】


どうやら、他人が混乱しているのを見る事で、自分を取り戻す事が出来るというのは真実だったらしい。


「すまない。いつもなら俺が話を進めるんだが・・・今は無理だ。誰か進めてくれないか?」


「ごめんなさい、私もダメ。太古の呪術について誰も検証してこなかった、そんな現実を見せつけられた気分なの。今は何も考えたくない」


「1000年以上を経た神社の御神木を使った、そんな数珠をもらった寺の僧侶は、いったいどうしたら良いんだろうか?」


うん、大変だ。

「私のもらった、銀のロザリオの衝撃を軽々超えて行きましたね」


あれ? みなさん、どうしてそんなめた目でコッチを見るんですか?


「何を言ってるんだ盤動ばんどうさん、君は星崎に確認していないだけじゃないか」


「そうよ天梨紗ありさちゃん、きっとそのロザリオにも使うのを躊躇うようなモノが隠されているに違いないわ」


「術具の理解を深めるのは大切な事だ、さあ一緒に星崎に確認に行こう」


やめてください、私は絶対に知りたく無いです。


「何、被害者を探しているんですか? そもそも絶華たちばなさんは注文通りじゃ無かったんですか?」


いつもクールな絶華さんだが、今は血走った眼をしている。


「先祖伝来の『ネフティス・タロー』は経年劣化で本来の色では無くなっているんだ。作られた当時の色彩なんてアレからは想像もつかない。

図案集も残ってはいるが、ご丁寧に暗号記載されてて内容は半分も解読出来て無い。

そもそも、あいつには以前から、アレイスター・クローリーの『トート・タロット』は占い用で、別に魔術用のセトかネフティスの名前のカードがあるはずだって説明されてたんだ」


それって、タチバナの使う術式の事ですよね?


「なんで、そんな事が分かるんですか? 公表された資料なんて存在しないでしょう?」


「あの、トラブルメーカー・・・・アレイスター・クローリーがトート神、古代エジプトの知恵の神に頼ったカードを使うだろうか? たったそれだけの事で、ソコに辿り着いたみたいだな。

あいつの言う通り、ネフティスのカードだったわけなんだが」


「うわ~」


「そこまで調べた上にあの霊力でブーストを掛けられたカードだぞ。コレはもう本物以上になってしまっている。そして、なにより俺自身が納得してしまっているんだ」


「それって、実際に使えるんですか?」


「この間もらった『トート・タロット』でも、俺が使っているレプリカ・ネフティス以上に使えた。これは間違えなく、伝来の『ネフティス・タロー』を越える代物だ」


でも、そうなると・・・・・

「それじゃあ、今後タチバナの持つ最高の術具はソレになりますね」


「ああ、それで間違い無いな・・・これは使わずに後世に残すか」


「ウチの父も言ってましたが、マスター基金が税務署に見つかる前に星崎さんに説明しないと不味いですよね?」


「そうなるな、できれば年末、最悪でも来年の春までには打ち明けないとダメだと思う」


「それならそのカード、全部打ち明けた後で、もう1セット作って貰えば良いじゃ無いですか?」


「そうだな、こちらの良心の呵責に耐えきれなくなる前になんとかしたいな」


「そうですよ、絶華さん」


絶華さん、どうして、そんな眼で私をみるんですか?


「他人事のように言っているが、俺のカードに使ったラピスラズリも、君のロザリオのスターリングシルバーも、金額にしたら払ったアルバイト代を遙かに超えているはずだぞ。大丈夫かなあいつ?」


手の中のロザリオが急に重く感じた。

「タチバナさん、それを先に教えてくださいよ。星崎さん、ちゃんと食べてるんですか?」


「あいつの食事に関しては、祝永さんにお願いしているから大丈夫だ・・・祝永さん、どうした?」


「いえ、この勾玉を身に着けてみたんだけど、これ、肩の呪いに干渉し続けているみたいで」


「もしかして、このまま着け続けているとアノ呪いの進行が止められる?」


「その可能性も・・・あります。どうしましょうか? コレ金額なんて付けられない」


「祝永さん、落ち着いて。今回のお披露目の為に、星崎が食費をつぎ込んだ可能性がある。すまないが管理してやってくれ」


「はい、ダメなら、ほんとうにウチの神社で預かりますから」


「沙姫さん、その時はウチの教会に星崎さんの貸し出しの継続をお願いします。星崎さんを止められたら、ウチと関東一帯が終わります」


「それより、結界の要の本を準備する方が先じゃ無いのか?」


「でも、要の本なんて作って貰っても、設置した後は教会から動かせませんよ。ゲームの小道具なんて星崎さんに説明が出来ないんです」


「あいつの事だ、過去に何冊か作っているかもしれない、今度聞いてみよう」


確かに、前に持ってきた小道具の中にも本がありましたよね。


「頑張って雑談の中で聞き出してみます」


「失敗した、お披露目のショックで次の予定の話をするのを忘れてた」


絶華たちばなさん。次の土日は何をする予定だったんですか?」


「お披露目が終わったら、祝永神社の地下収納庫見学ツアーか風念寺の逆さ仏塔見学ツアーのつもりだったんだ、それから夏休みはサークル合宿なんてどうだろうか?」


「祝永神社の呪いの人形の封印倉庫と風念寺の封滅堂じゃないですか。封印倉庫はともかく、封滅堂は300年毎に中のモノごと焼き払うんじゃ無かったですか?」


あれ? 志堂さん?

「その300年の区切りまで、あと50年もあるのに封滅堂ふうめつどうはもう限界なんだ。

この間の冨士の風穴で見つかった自然呪物もある。新規の受け入れは不可能だな」


「どこも同じですか?」


「このままだと、封滅の儀を50年前倒しで行う必要があるかもしれない」


「それは・・・大変ですね」


「封滅の儀を行えば、封滅堂ふうめつどうを再建するまで、その後15年は受け入れ施設が無くなる事になるが・・・寿富堂じゅふうどうは大丈夫か?」


「絶対に無理です。是非50年後でお願いします。」


「流石にウチの寺は2、3年は大丈夫だと思ってたんだが」


勾玉の効果か沙姫さんの調子が良さそうだ。

「でも合宿は面白そうね、絶華君合宿の場所の候補は考えているの?」


「関西方面の永久封印に行ってから、星崎の実家訪問なんてどうかな?」


「絶華さん、星崎さんに今回の仕返しとか考えてないですか?」


「ソ・ン・ナ・コ・ト・ワ・ナ・イ・ヨ・・・・ハハハハハ」


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