閑話 お披露目 壱


【星崎 昴志】


6月に入った、ある日のこと。今日、このサークルルームでは、タチバナ君に借りた加工部屋で作った、ゲーム用小道具のお披露目をする事になっていた。


「さて、どんな物が出来たのか楽しみだ」


「タチバナ君、プレッシャーになるから、あまりハードルを上げないでくれる?」


さてと、まずは


「まずは、これが盤動さんに作ったロザリオです」


 小さな巾着袋に入れたままで手渡した。


盤動さんが巾着を開けて取り出して、まじまじと見つめている。


「ほお、ちゃんと金属製か。初の金属加工品だな」


「そうなんだ。盤動さん、すまないけど、つい凝っちゃって銀で作たんだ。その巾着の中に手入用のクロスがあるから時々磨いてもらわないと曇ると思う」


盤動さんのロザリオを持つ手に力が入る。


「へ? これってシルバーなんですか?」


「そうだよ、電気炉が使いたくてシルバークレイで作って焼いてみた。ちゃんとしたスターリングシルバーになってるはずだよ」


「あの、チェーンのビーズも綺麗ですけど」


「うん、自然石の加工練習で水晶のビーズと黒瑪瑙の少し大きな珠になるように削って磨いたんだ、初めてだったけどきれいに出来てよかった」


あれ? 盤動さんが目を大きく開けて固まっている、どうしたんだろう?





「よし、星崎。次に行ってみようか」


「うん、そうだね。次は、この勾玉の首飾りなんだけど、ちょっと独特な感じになったのでダメだったら作り変えるね」


 祝永さんに巾着を渡す。


「独特ですか? どんな風にでしょう楽しみです」


中から取り出して、今度は祝永さんの動きが止まった。


「おい、星崎。透明の勾玉は水晶か? この黒い勾玉はなんだ?」


「黒曜石、天然のガラスに近いかな」


「なんと珍しい物を使うな」


「硬いモノに当てると割れる可能性があるから気を付けてくださいね」


タチバナ君が何か考え込んでいる・・・そして

「星崎、黒曜石を使ったのって、もしかしてオカルト的に何か意味があるのかな?」


「まあ、邪馬台国の時代に使われていたのは翡翠と黒曜石みたいなんだ」


皆の眼が僕に集中する。


「なんだって」


「翡翠は原型もとどめて残るけど、黒曜石は砕けてしまうからね。恐らく勾玉を作っても後世には残らなかったんじゃないかと思ってね、再現してみました」


「つまり、太古の祭司はコレを使っていたと?」


「仮説だよ、あくまで。とんでも系のね。まあ、あの時代、黒曜石が色々な事に使われていたのは事実みたいだけどね」


あれ? 祝永さんも目を大きく開けて固まっている。





「よ~し、星崎。次に行ってみようか」


タチバナ君の声が掠れてきた。


「そうだね、次は志堂君に数珠じゅずを作って来たんだ」


「そうか、数珠なら安心だな」


「安心て何なの、はいコレです」

巾着を渡す。


志堂君が巾着を開けて中から飴色をした数珠をとりだした。


「なかなか立派な物だな、玉の木目も綺麗じゃないか」


「そうでしょう、ウチの近所ではけやきが喜ばれるから欅材けやきざいで作ってみたんだ」


「ほ~ けやきか、もしかしてこれもオカルト的な意味で凝っているのかな?」


・・・珍しく、星崎が言葉に詰まった。またも、星崎に視線が集中する。


「ごめんね、志堂君。これに関しては黙秘してもいいかな?」


「ちょ・・・ちょっと待て星崎。お前が言い淀むなんて、どういう事だ?」


「いや、志堂君。ちょっと罰当ばちあたりかなと思っただけで、別に犯罪行為はやって無いから・・・きっと大丈夫」


「星崎、僧籍に身を置く者として罰当ばちあたりの方も問題だ。お願いだ・・・気になって眠れなくなりそうだ。ここでの事はみんな内緒にするから教えてくれないか?」


「わかった、絶対に内緒にしてね。絶対だよ」


「分かった、みんないいな?」




何度も念を押してから、僕は観念して・・話しはじめた。


「その数珠の元になった欅の枝はね、僕が小学校の遠足に行った先で拾った物なんだ」


「小学校の時の遠足? なんで、その話が内緒になるんだ?」


「欅の大木から目の前に枝が落ちてきてね。僕、なんとなく気になって・・・それを持って帰って来たんだ。結局、実家で10年程乾燥させたから十分加工できる状態だったよ」


「すまない、星崎。もう一度聞くが、それのどこにも内緒にする理由がないぞ?」


「そうだ、何が罰当たりなんだ?」




「えっと、怒らないでね」


「怒らないから、そもそも怒る必要無いだろ」





「後で調べたら、あの樹、樹齢1000年を超える、その神社の・・・だったんだ」


ああ、志堂君の数珠も持つ手が震え出した・・・


「ご・・・御神木ごしんぼくだと」


「もうひとつ加えると・・・・天然記念物だね」


ああ 志堂君が動かなくなった・・・





「最後はタチバナ君だけど、これは言われた通りに作って来たから説明はいいよね?」


「ああ、特殊なタロットだからな。図柄を変えられても困るしな」


小箱を受け取って、中を確認している。あ、止まった


「ち・・・ちゃんと、変えて無いよ」


「星崎、確かに図柄は変えて無いよな。でも、この青の色が渡したサンプルとかなり違うんだが? 何をしたのかな?」


・・・さすがに気付くよね


「いや、だって設定は近代西洋魔術だよね? たぶん市販品のタロットならサンプルの、この色を使ったんだと思うけど」


「思うけど・・・どうしたんだ?」


「ほら、前に話したトートタロットのアレイスター・クローリーの事を思い出してね。もし使ラピスラズリを混ぜた、このウルトラマリンを使ってたんじゃないかと思いついて・・・面白そうなので使ってみた」


「・・・・・」


「テーブルに突っ伏して・・・どうしたの? タチバナ君?」






※ウルトラマリンよりもフェルメールブルーの方が有名だと思います。


※関西圏で欅の御神木、しかも天然記念物となるとほぼ特定されてしまいますが

あくまでフィクションです。


※オカルト関連のお話しには何の根拠もございません。マニアの方、笑い飛ばしていただけるとありがたいです。

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