閑話1 学内小会議室C【退魔師の内緒話】

 


絶華たちばな 輝夜かがや


 星崎の件を相談するため、西洋魔術系の退魔師である俺は仏教系退魔師の涼慶すずよし

 神道系退魔師の祝永いわながさんに来てもらった。


 祝永いわながさんは、相変わらず顔色が悪い。


「急に呼び出してすみません。今回の件は緊急事態だと判断しました」


「まずは状況を説明してもらいたい所だが、輝夜かがや、お前、何か変じゃないか?」


「ええ、絶華たちばな君から感じる霊力ちからが、いつもよりかなり強いわね」


霊視に切り替えると、全身から放出されている霊力ちからがいつもより強く光って見える。

星崎の影響はまだ残っているようだ。


「おそらくですが、けた違いの霊圧にさらされていた影響ですね」


「けた違いの霊圧って、いったい居たの?」


「俺が食堂で出会った、この霊圧の主は英文科1年の星崎昂志ほしざきこうじです」


「人間? しかも、ここの学生だったの? まったく聞いた事が無い名前だけど、どこの派閥の退魔師なの?」


「いえ、知識としてオカルトには詳しいみたいですが・・・全くの一般人です」


「一般人なのか? そんな霊力ちからで」


「ああ、涼慶すずよし。しかも、自分の霊力ちからに全く気が付いて無いんだ」


「それで、今回は派閥を越えて監視するわけか?」


「それもあるんだが、彼が趣味にしているゲームに1時間程付き合って遊んでいたら。

 彼の集中力の上昇が関係するのか、彼の霊力ちからが膨れ上がってね、

 それに釣られるように俺の霊力ちからまで引きずられたみたいなんだ」


「1時間なの? それで」


「それも、ですよ。彼のオカルトに関する考察が刺さって

 精神的にダメージを受けた以外、体調に変化はありません。

 一時的なモノかもしれませんが、単に霊力ちからだけが上がったみたいですね」


「それは・・・うらやましい、話ね」


「なので、彼にサークルを作らせて3人で監視体制を維持しながら?」


「え?」


「まずは、2人には星崎に会ってもらいます。途轍もない霊力ちからは持ってますが

 本人に害意は無さそうなので」


「ほうとうに・・・大丈夫なの?」


「食堂で霊力の竜巻みたいな状況は困るので、涼慶にはサークルルームを

 確保して欲しいんだ」


「部屋は直に確保できるが、本当に危険は無いのか?」


「まあ・・・2人共、一緒に体験してくれ。

 きっと永久封印指定レベルの霊圧が体験できるから」





そして、翌日。俺は星崎を確保したサークルルームに呼び出した。

部屋の中で祝永の姉さんと涼慶と一緒に待っていると


「失礼します」


恐る恐るといった感じで星崎が入って来た。


あいつは俺の顔を見るなり

「たちばな君、この部屋は何?」



よし、一矢報いた。にっこり笑って、親指を立ててやる。


「俺達が今後使用するサークルルームだ。こっちの志堂に頼んで確保した」


おお、うろたえているな。人間らしくて何よりだ。


「いや、僕も調べてみたけど、この大学の規約だとサークルの申請には

20人以上のメンバー登録と担当顧問が必要で、

その上、月に1回の学内会議の承認が必要だって書いてあったよ」


「星崎だったか? 私は志堂涼慶しどう すずよし、仏教学科の1年だ。

 ウチの教授に顧問を頼んで、了解をもらってある。

 あと、サークル申請の受け付け枠には一般のサークル申請以外に

 各学科で確保してある分があってな、

 今回はそちらを使っているから問題はないぞ」


「それなら安心? って。それは、英文科うちでいう『中世イギリス文学研究サークル』とかと同じ扱いだよね。さすがにTRPGはまずくない?」


「大丈夫だ、『仏教美術研究サークル』が無くなって仏教学科所有のわくだけが余っている。せっかく使わせてくれるんだから使わなければもったいないぞ」


「そうなの? 後で他のサークルからクレームとか来ないかな?」


「大丈夫だ、黙らせるから」


毎度毎度、食堂で霊力の竜巻を起こされても困る。ここなら天井と床それに両方の壁に多重結界を施したから周囲への影響は最小限のはずだ。


「まあ、部屋に関してはそれくらいで。私は国文科2年の祝永沙姫いわなが さき

TRPGは初めてだけど、お茶とお菓子を用意してきたから、良かったら食べながらでも説明をお願いね」

「すみません、英文科1年の星埼昂志ほしざきこうじです。ありがたく頂きます。

よろしくお願いします」





そうして、初顔合わせを終わらせて。

今日は説明とキャラクターメイキングを行った。

その後、帰宅をよそおい3人はいつもの会議室に集合する。


「二人共、どうだった、星崎に会った感想は」

「なんだアレは、すまないが反射的にテーブルの下に隠れそうになったぞ」

「志堂君、すごいわね。私は逆に動けなかったわよ」

「しかも、途中で霊力が上がって行くんだぞ。あれは、まるで悪夢のような光景だった」

「絶華君、3人で監視してても、あの霊圧には抵抗できそうに無いわよ」

「すまないが・・・違うぞ。今日はキャラクターメイキングだけだったから、霊力はそれほど上がって無いんだ。最終的には竜巻みたいな霊力になるから、意識的に霊視を塞ぐようにしないと神経がもたないぞ」

「あれで途中なの?」

「あれより上がるのか?」

しかし、それよりも驚いたのは・・・


「祝永の姉さん。気が付いている? 顔色がすごく良くなってるよ」

「うそっ?」

バッグから手鏡を取り出している。

自分の顔を確認した後で、自分の左肩にそっと触れて、小さく呟いた。

「信じられないわ、少し小さくなってる」


涼慶も一緒になって驚いている。

「すごいな、祝永のアレに干渉できるのか? それなら大抵の霊障どころか永久封印指定レベルでも対応できるようになるんじゃないか?」

「まあ、前回のゲーム中には最終的に極彩色の竜巻みたいな霊力になった。いっそのこと、ゲームの後に星崎を霊障現場に連れて行ってみるか? おそらく何一つ残らず消し飛ぶんじゃないか?」


涼慶がポケットから数珠を取り出して。

「どうやら我々の霊力も底上げされているようだな」

「とりあえず、俺達3人の連名で監視対象兼協力者として登録申請を出す形でいいかな?」

「ああ、それで行こう」

祝永ウチの呪いに干渉出来る存在ですからね。絶対に守りますよ」





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