第2章 現役退魔師、TRPGマスターと出会う

第1話 西洋魔術系退魔師 絶華 輝夜

絶華たちばな 輝夜かがや


今、俺は南関東大学の入学式を終えて、

昼食でも取ろうかと食堂まで来たんだが・・・・


一瞬、反射的にポケットからスマホを取り出して

ウチの一族全員を集める緊急コールを発信しようとしていた。


「なんだ、あのは?」


そのバケモノは、食堂の隅のテーブルに1冊のノートを広げて

何かを書き込んでいた。


強烈な霊力が極彩色の竜巻の様にバケモノを中心に渦を巻いている。


この日本ひのもとの退魔師の1人として、この事態を放置するわけにもいかず、

俺は音を立てない様にバケモノに近づいていく。


ノートの横には空のドンブリが置いてあり、割りばしと、空になったコップと一番安いが切れ端となって置いてあった。


どうやら、バケモノは、ここの学生のをしているようだ。


バケモノをつぶさに観察する。


座っているのでハッキリしないが背はそれほど高く無いようだ。


ぼさぼさの髪にガリガリの外見だ、見た事は無いが付喪神つくもがみ貧乏神びんぼうがみたぐいだろうか?


バケモノが顔を上げ呟いた


「あっ、ガイダンス行かなきゃ」


そこで、俺が観察しているのに気が付いたようだ。


警戒しているのか動こうとしない


しかたない・・・

「(お前は)何だ?」


バケモノは頭を掻きながら

「えっと、ゲームのシナリオを書いています」


「ゲーム?」

まさかデスゲームってやつか? 何かの虐殺計画か?


「はい、TRPGテーブルトーク・ロールプレイングゲームです」


「何だ?」


「すみません、ガイダンスに遅れそうなので行って良いですか?」


まだ、学生のフリをするのか? それなら


「どこの所属だ?」


「英文科1年の星埼昂志ほしざきこうじです」


ほう、まだ人間のフリをするか。どこまで、踏ん張るかな

「俺は経済学部1年の絶華たちばな 輝夜かがやだ、後で行くからな」


「はあ」


まあ、ここまで脅せば逃げるだろう。






そして翌日


「やあ、タチバナ君」


バケモノの方から、恐る恐る声を掛けてきた。


いや、訂正しよう人間、星崎。


「ああ、星崎。説明してもらうぞ。昨日、何をしていたのか」


「たちばな君、説明するより実際に体験してもらったほうが早いと思う」


「体験だと?」


「ああ、TRPGフェノメナ・カーニバルの

 ソロシナリオ『アレイスターの遺産』だ」




そうして今、俺は大学食堂のカフェスペースに来ている。


俺の前にはバケモノ・・・もとい星崎がいる。


しかし、視界が歪む程の霊力だ。


「まず、説明するとTRPGというのは昔からあるアナログゲームの一種なんだけど、タチバナ君はRPGロールプレイングゲームって知ってるかな?」


「ああ、あまりやらないがゲームソフトのジャンルだよな? 」


「そう、もともとは、このアナログゲームの名称がRPGだったんだけど・・・・

ゲームソフトが爆発的に売れてしまって、

色んなゲーム会社が同じようなゲームを作りだした結果、

そのゲームソフトの方にRPGって名前が定着しちゃったんだ。

だからわざわざ、コッチには頭にテーブルトークと付けるようになってしまった」


「そうなのか」


「まあ、アナログゲームのつねで遊ぶのに何人か集まる必要があるし、

 プレイ時間も必要だしね。

 そのプレイ時間も、たまにサイコロを振る以外は

 話し合っている時間がほとんどなんだ

 だから、テーブルトークRPG」


「今は、俺1人なんだが」


「うん、プレイヤー1人用のシナリオだから、その辺は大丈夫」


「色々なシナリオがあるんだな」


「メーカーから市販されている物もあるし、自作する人も多いよ」


「それじゃあ、今回の『アレイスターの遺産』は?」


「これは、自作シナリオ。じゃあ、キャラクターは男性で、お試しだから出来合いのキャラを使ってみよう。

たちばな君、西洋系魔術師と西洋宗教系、神道系、仏教系、どれにする?」


絶華家ウチみたいな西洋魔術系の退魔師は、日本国内では稀な存在なんだが

ソレにも対応しているのか。ちょっとうれしいな。


「じゃあ、西洋系魔術師で」


「それでは、このキャラクターの能力値とスキルについて説明するね・・・・」


そうして、俺は初のTRPGテーブルトーク・ロールプレイングゲームなる物をする事になったが、

その衝撃で再起不能のなりそうだった。


【TRPGセッション】《オリジナルソロシナリオ『アレイスターの遺産』 》


『5年前に閉館となった旅館で時おり外から明りが見える、

 人の声や物音がする、しかし中には誰も居ない。

 そういった心霊事件を受けて、やって来た君は大広間の隅に妙な物を見つけた、

 何かのカードみたいだ』


「おお」


「キャラクターの知識に該当するものがあるかを判定するのに、

 タチバナ君、その赤と透明の20面体ダイスを振ってください。

 今回は赤いダイスを10の位として使います。

 これがオカルト知識ロール。

 難易度はイージー(簡単)だから【オカルト知識】×2で成功

 君のキャラクターの【オカルト知識】が35だから2倍にして

 70以下の目がでたら成功です」


俺は言われた通りに2個の変わった形のサイコロを振った。


「赤が4で透明が5だから、45。70以下だから成功だね。

 君の知識では見た事が無い図柄なんだけど、

 似たデザインのカードが存在するのを思い出した」


「へ~、何を思い出したんだ。俺は」


「君は気が付いたんだ。このデザインと色使いは

 『トートタロット』に近いモノだとね」


「ぶっ!!」


「どうしたの? タチバナ君」


「いや、なんでもない」




今の話、もしかしてウチの魔術系統の話だよな?


退魔師の関係者でも知られて無い内容のはず。


偶然ていうのは、本当に怖いな。


「ちなみに『トートタロット』を作ったアレイスター・クローリーって人は

日本だと明治時代くらいの頃の有名な神秘主義者でイギリスの人なんだけど

魔術団体を作っては色々なメディアに叩かれてフランス、イタリア、ドイツと

転々としたみたいだね」


「へ~、そうなんだ」


表向きにはそうなっているよな。


「でも調べてみると、それって、ちょっと変なんだよね。

 当時、ドイツでヒトラーの台頭があったせいで居ずらくなって

 ドイツを出たって書かれている物が多いんだけど、

 ヒトラー自身もかなり神秘主義に傾倒してたはずなんだ、

 実際には、主義的に衝突したか、もしくは実は同調して

 衝突を演じたんじゃないかな? 」


「ぶふっ!!」


「ど、どうしたの? たちばな君」


「いや、なんでもないんだ、ほんとうに」


確かに、そんな記載とのとれる内容があったような。


「そうなの? それにね、どう考えてもドイツから出た時期が早すぎるんだよ。

 ヒトラーがドイツを掌握するかなり前に既にイギリスに移動している。

 イギリスに帰れば、当時のメディアに叩かれるのは間違い無いのに、変だよね。

 タチバナ君、なんで頭を抱えてるの?」


「いや、ほんとうに想像すると楽しいな」


『そうして、情報を調べる内にアレイスタークローリーの遺産が、

 2冊の本と1組のカードである事にたどり着いた』


「ねえ、たちばな君。どうしてテーブルに伏せているの?」


なんで、ウチの秘伝書グリモアの件がゲームにされてるの?


「なあ、星崎。ちょっと聞きたいんだが?」


「何かな? たちばな君」


「いや、このシナリオは、そのアレイスター・クローリーって人について

 調べた上で作った物だと思うんだが。

 その人は『トートタロット』で有名な人なんだろ? 

 なんで別の絵柄のカードがあるなんて設定を思いついたんだ?」


俺の話を聞いて、星崎は、事も無げに。


「古代エジプトのトート神は知恵の神様だから、

 占いに使うカードとしては良いと思うけど。

 アレイスター・クローリーって、

 なんか破天荒な人だったみたいなんだ。

 他の団体とも随分もめてたみたいだし。

 そんな人が、わざわざ知恵の神の占いカードを作って、

 それも大々的に発表するんだよ。

 絶対に裏で別の事をする為の、大げさなブラフでしょう」


「裏で別の事って、何をやってたんだと思う?」


「同じ古代エジプトの神だとしたら、

 戦いの神セトか人の死を司るネフティスに関係した、

 それでいてカードを使った魔術かな?」


俺のジャケットの右ポケットに入っている

『ネフティス・タロー』が熱くなった気がした。




「なあ、星崎。これは何人くらいでやるゲームなんだ?」


「大体、GM1人にプレイヤーが4~5人かな」


「よし、ちょっと人を集めてみるわ」


「え? でもマイナーなゲームだし。時間も必要だよ」


「確かにな、よし、サークルの登録と部屋も確保するぞ」


「ええ~、さすがに無理でしょう。そもそも5~6人で

 サークル登録なんて出来たのかな」


「その辺も、なんとか当たってみるから星崎、連絡先教えろ」


無理矢理、星崎と連絡先を交換する。


「とりあえず、何人か集めて連絡するからな」


「うん、たちばな君、今日はありがとう」


「いや、こっちも中々の体験だった」


俺は食堂から外に出て、スマホを取り出して電話を掛けた。


「すまない、涼慶すずよし。緊急に会って相談したい事がある。会議室を確保してくれ。祝永いわながの姉さんにも、こっちから声を掛ける。すまないが最優先で頼む」


『ちょっと待て、輝夜かがや。私だけじゃなく祝永さんまでって、何が起きたんだ』


「詳しくは言えないが、派閥だの言ってられない事態だ。後は会議室で話す」


『わかった、いつもの会議室を押さえるよ』


「すまない、あとでな」


よし、もう1ケ所


「すみません、祝永さん。緊急に相談したい事があるので会議室に来てもらえますか。志堂も呼んでます」


絶華たちばな君、急にどうしたの?』


「少なくとも我々三家で監視しなければならない対象と接触しました」


『そんな、危ないモノとどこで接触したのよ』


「ウチの大学の食堂ですよ」


祝永ウチの人間を集めた方がいいの?』


「いえ、ひとまず友好関係を結びました。監視と対応について相談させてください」


『わかった、すぐに行くわ』


「すみません、お願いします」

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