第3話 オカルト体験記 『退魔師堕とし』裏


※ワンボックスカー 留守番組

祝永いわなが 沙姫さき



日本家屋に向かう3人を見送った後


私は、いままで、無理やり作っていた笑顔をかなぐり捨て、

周囲を警戒しながら指示をだした。


「景浦さんは運転席から動かないでね。

 天梨紗ちゃんは車の結界をもう一度確認して。

 あと、さっき渡した身代わり符は変色したりしてない? 」


「祝永様、私の方は大丈夫なようです」


沙姫さきさん。こちらも大丈夫です」


「ひとまず安心かな?」


思わず深いため息がでた。左肩の痛みが酷くなってきた。


「沙姫さん、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」


「さすがに、ここは私には相性が悪いわ。左肩の痛みが出てくるのは、

しょうが無いわね」


「しかし、あの3人、平気で行きましたね。あの濃厚なを」


天梨紗ちゃんは若干乾いたような声になっていた。


「台風の渦の中心は無風だから大丈夫よ」


私は自分に言い聞かせるように、声に力を込めて言い切った。




「ところで、沙姫さん。日本家屋って? 

 私には、この瘴気で何も見えないんですが?」


「安心して、私も見えてないから。過去の記録を読んで話を合わせているだけよ」


「絶華さんも、志堂さんも見えて無いですよね」


「当然でしょう。景浦さんはどう?」


「私は眼が良くないですから。濃い霧の中に建物の輪郭くらいは薄っすらと見えてますよ」


「星崎さんの周りの何かが、瘴気を霧散させながら行くから道が出来てました。

あれでも星崎さん、自分の強烈な霊力に気が付かないんですか?」


「逆に強烈過ぎて気が付かないみたいね」


「でも、沙姫さん。この場所って、あの【退魔師堕たいましおとし】なんですよね」


「そうよ、どんな退魔師も手が出せないからのね。

 景浦さん、今回の件について、何か聞いてる?」


なんで、こんな無茶な依頼がくるかな?


景浦さんには珍しく、苦笑を浮かべながら

「はい、どうやらここにリニアが通るそうです」


私はもちろん、天梨紗ちゃんも絶句している


「まさかの、そっちの事情。確かにこれじゃあ調査も出来ないか」


「国と県のせめぎ合いで、なんとか決まりそうになったコースの上に、

まさかのコレですから。国交省も頭を抱えたみたいですね」


「いやだって、この場所にリニアを通すのは、いくらなんでも無理でしょう」


「ですが、愛知で星崎さん。


そもそも私たちが連れて行ったのが原因だけど、

星崎君がやっちゃった、アノ件を思い出す。


「【御崎みさき大海瘴だいかいしょう】ね。バブル期に開発会社が海洋信仰の神域を壊して

瘴気が噴出して大規模霊的災害になりかかったのよね。

当時、日本中の霊能者が封印の為に総動員されたっておばあさまに聞いたわ」


「よりにもよって、その封印が壊れたんですよね」


「ええ、船舶事故で封印が壊れて。封印回復までの時間稼ぎに呼び出されたのよね」


「あの時の星崎さんも、すごかったですね。船は転覆しそうになるし。なんか色々消し飛んでました」


「でも、不思議よね。普通にしてても嵐か台風みたいな霊力なのに、セッションに集中するとあんな竜巻みたいな霊力になるのよね」


「しかも、一緒にセッションしている私たち迄、霊力の底上げが起きますよね」


「どこの宗派でも、こんな事例は聞いた事が無いって言ってるわ」



「でも、沙姫さん。こんな事、いつまで続けるんですか?

 いつまで星崎さんに内緒にするんですか?」


天梨紗ちゃんの目が座ってきた。


「今回の報酬がいくらなのか知りませんが。どう考えても億単位の報酬ですよね。

 星崎さん名義で作ったマスター基金の口座残高、誰か確認しているんですか?」


「祝永様、盤動様、今回の報酬は20億です。国土交通省とJRから年2億の分割が打診されています」景浦さんから、補足情報がすかさず入る。


「星崎さんの【本当の】バイト代振込も数が多いですから、もう都内にビルぐらいは簡単に買えちゃうんじゃないですか?」


「天梨紗ちゃんのお父さんの方ね」


「星崎さんがウチに持ち込まれる呪われた品に触れるだけで、

解呪不可能と言われた厄介者が数百万、数千万になるんですよ。

これはもうオカルトロンダリングです」


「いいじゃない、ちゃんと報酬はマスター基金に入れてるんだし」


「ダメです。星崎さん名義のマスター基金に入れているとはいえ、

星崎さん本人には一般的なアルバイトの時給しか払って無いんですよ。

それなのに、『いつもありがとう』って感謝されるんです。

聖職せいしょくくものでありながら・・・

私の心は、こうやって、どんどん汚れていくんです」


まあ、気持ちはわかるけど・・・


「私も、もう、けっこう限界かな。でもね天梨紗ちゃん、今更、『実はTRPGには興味が無くて、必要なのは星崎君の霊力だけ』とは言えないでしょ」


「かといって、『実はあなたは、歴史上まれにみる程の強力な霊能力者です。』って。真実を話しても嘘にしか聞こえませんよね」


「そうよね、質の悪い冗談か悪質な詐欺にしか聞こえないわよね」


「星崎さんに『そのストーリーには説得力が無い』って怒られますよ」


「そういう所は、色々調べてシナリオのリアリティにこだわりそうね」


「沙姫さん・・・星崎さんに影響受けてますよ」


「あなたもよ。天梨紗ちゃん」


その時、車内全員が何か空間が振動するのを感じた




「沙姫さん、今のって?」


「おそらく、【退魔師堕たいましおとし】の断末魔ね」


「永久封印指定【退魔師堕たいましおとし】を堕としちゃいましたか。

 そういえば、いつの間にか晴れてますね」


車内から今までは見えなかった丘が見える。

丘の上に確かに古い日本家屋があるのがやっと見えた。

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