「無表情アイドルと同棲しています」改

第1話

こんなことはフィクションの世界でしかない そう僕も彼女も思っていた

これは僕と彼女の不器用で幸せな物語――








 高校生、それは青春に汗水垂らしながら過ごす人生でも幸せな期待の3年間。

 そんな高校生活はフィクションの中の出来事に過ぎない。


 友達はできず、一人教室の隅っこで本を読むような陰キャ生活を送りながら、一人暮らしのためのお金をコンビニのバイトで貯めてきた期待とは正反対の1年間。

 

 高校二年生になるこのタイミングで一人暮らしを決意した僕、斉藤景久さいとうかげひさは引っ越しの準備に明け暮れていた。


 元々友達も居ないため、1年間で稼いだバイト代は本の新刊にのみ使い、そこそこお高めなマンションに住める程度には貯まってきた。

 僕の通う八奥やおく高校から自転車で20分くらいの、立地のいいマンション。値段こそ高いが、防音設備が整っているいい部屋にこれから住むんだ。


 これからの一人暮らしに思いを巡らせ、早速一つ目の段ボールを開封した。

 それと同時にドアの開く音がする。鍵は閉めたはずなのに。段ボールがまだあったのか?しかしさっき業者の人は終わった、といって帰って行ったばかりだぞ。

 家に呼んだ人も居ないし、それこそ家族すら僕には興味がないって言うのに。もしかすると強盗かもしれないと思い、急いで玄関に向かった。だが僕は、玄関で目にした光景に唖然とした。

 僕の目の前に居るのは強盗と遠くかけ離れた女性だったからだ。強盗が来たとしてもここまで驚かない。


 しばらく玄関で女性も僕も動くことなく、ただただ凍った時間が流れていった。

 なんとなく気まずい雰囲気になったから僕から女性に恐る恐る声をかけた。


 「あっあの…僕に何か用ですか?」

 「…この部屋に住む予定の七瀬です。…業者の方ですか?」

 あれ?この部屋は僕が借りて僕がこれから住む予定なはずなのだ。なのにどうして見知らぬ女子がやってきて私が住みますなんて言われたんだ?

 「すみません。僕もこの部屋に住む予定で荷物を運び終えたところでして…」

 「…そうですか…マンション側の手違いですかね。」

 マンション側の手違いにしても入居予定の部屋が被るなんて滅多にないことだろ。男性ならまだしも女性だからちょっとまずいかもしれない。

 「部屋に着いてからで申し訳ないんですが、今から管理人室に行きませんか?」

 七瀬さん…彼女は静かにこくりと頷いた。


 その後マンションの一階に降りて管理人室にいるおじいさんのところに二人で訪ねに行った。このマンションは立地もよく、値段のおかげで防音設備も整っているのに、管理人が65歳くらいのおじいさんだからたまに手違いがあると誰かから聞いたことがあった。

 二人のうち先に手続きをしたのは七瀬さんのようだったから七瀬さんが借りたことになっているらしいが、僕も手続きをしてしまっていて50万くらいの金額がパーになってしまった。 つまり僕はまた50万くらいかけて部屋を借りることになるらしい。

 なんとも無責任なおじいさんである。


 とりあえず部屋に戻って今後どうするかを頭の中で考えていると、七瀬さんが口を開いた。

 「…あのもしよかったら、私が借りてるこの部屋で、あなたも一緒に住んだらどうですか?…」ゆっくりで控えめな声量で彼女は言った。


 …ん?一緒に住む?この女性と?

 どうやら僕の一人暮らしは平穏に済みそうにない。

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無表情アイドルと同棲しています 漆黒の白竜 @shikkokunohakuryuu

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