第2話 でっち上げ

聖愛魔導学園ラブマジシャンズアカデミーは、勇者以外は基本女子しかいない。

勇者の花嫁候補を育成する場所だからだ。


召喚された勇者は、全員この学園に通う事になる。

そして自らの気に入った相手を囲い、ハーレムを形成するのだ。

それこそが種馬たる者達の仕事。


さて、めでたくE判定を受けた俺な訳だが――絶賛ボッチ街道驀進中だった。


花嫁候補?

誰一人として近寄って来やしねぇ。

こっちから挨拶しても、よそよそしい塩対応だ。


俺、此処に何しに呼ばれたんだろうか?

せめて顔が良ければ多少はマシだったんだろうが。


え?

顔が不細工なのかって?


まあな。

そこまで酷いとは思っていないが、とにかく召喚された他の勇者が全員イケメンなんだよな。

当然その花嫁候補たる女生徒達も、全員超が付く美人揃いだ。


お蔭で場違い感が半端ない。

犬の品評会に、小汚い野良犬が紛れ込んだ感じである。


力もなく、見た目も悪い。

そうなると、好き好んで近づいて来る奴もいないだろう。

女生徒は勇者のハーレム候補ではあるが、決定権は本人達にあり、嫌な相手と結ばれる必要はないそうだからな。


クッソ広い校庭の端にあるベンチに腰を下ろし、俺は呟く。


「しっかし、何でE判定なんだ?」


それが分からない。

最初は平和な世界での力だからと思っていたが、手に入れた力の一つである鑑定を使ってみた所、俺が超強い事が判明する。


戦闘力を数値で表すなら、Bランクの勇者はだいたい1000万ちょいぐらい。

Aランクで最も高い奴でも、3000万いってないレベルだ。


んで、俺自身の鑑定数値は……


軽く10億を超えていた。


Aランク勇者の40倍近い数値である。


「これはやっぱあれか?神の力は測定できないとかいう感じの」


所詮学園にある水晶は、勇者を鑑定する為の物でしかない。

そんな物では、神から授けられた力は測れないという事なのだろう。


だとしたら、どでかい力を見せつけて認識を改めるべきだろうか?

でもなぁ、力をひけらかすのは好きじゃないんだよな。

しかも貰い物だし。


バイオレンスなんて物騒な仇名を付けられていた俺だが、力をひけらかしたり、何もしてない奴に暴力を振るった事は無かった。

俺が殴るのは、揶揄って馬鹿にしてきたり、敵意を向けてきた奴らだけだ。


だからこそ両親も、俺の事を叱る事は決してなかった。


「まあ勉強しながら様子見だな……」


理事長曰く、元の世界に帰す手段はないそうだ。

そのため、モテなかろうが何だろうが、俺はこの世界で生きていくしかなかった。

取り敢えずまじめに勉強して、この世界の事を知るとしよう。


「まあそれに、男はハートって言うしな」


まだ学園生活は始まったばかりだ。

そのうち俺の魅力に気付いてくれる子だって、出て来るかも知れない。

まあそんな物が俺にあれば、の話ではある。


それから1週間ほど、孤独な学園生活が続く。


相変わらず女生徒は俺を避けている。

他の勇者連中も、Eランク判定を受けた俺には興味がないのだろう。

すれ違った際に挨拶しても、綺麗に無視される始末だ。


まあいいけどな。

挨拶も出来ない幼稚な奴だと思うだけだし。


「墓地。理事長がお呼びだ」


教室で一人寂しく飯を食っていると、禿げ散らかした教師が教室にやって来て俺に声をかけた。

教師連中は他の勇者には様付けしているが、俺は呼び捨てで命令口調だ。

分かりやすい対比である。


まあでも、この程度では俺も怒らないさ。

一応教師と生徒な訳だしな。

勇者だからと言って、敬語で接する方がどうかしてるってもんだ。


まあ勝手に召喚しといてって部分があるので、若干引っかからなくもないが。


「なんです?」


俺は一応ノックしてから理事長室に入る。

中はかなり広く、長机やいすが並んでいるので、個室というよりは会議室と呼んだ方がしっくりくる。


中には十人程人がおり、全員長机の椅子に座っている。

何人かは授業で見た事のある顔――教師――だ。

そして最奥の豪華な席には、髭を生やした老人――理事長が座っていた。


「座り給え」


言われて手近な席へと腰を下ろした。

見ると、全員難しい顔をしている。

一体俺に何の用だろうか?


「実は、君に対する女生徒からの苦情が多くてね」


「苦情ですか?」


俺は理事長の言葉に眉根を顰めた。

完全にスルーされている状態で、何の苦情があるというのか?

まさか不細工だから不快とか、そういうハラスメントな苦情じゃないだろうな?


「ああ。勇者である事を良い事に、君が更衣室を覗いているという苦情がある」


「は?」


覗き?

何言ってんだ?

当然そんな真似をした事はない。


「それと、頻繁に女生徒にわいせつな行為を求めているともだ」


髭面のおっさんが、これまた意味不明な事を言い出す。

話も真面にできない状態で、どうやってそんな真似をしろと?


「それと――」


次々と、身に覚えのない悪事が周囲の連中から告げられていく。

女生徒の笛を舐めただ。

全裸を見せつけただ、と。


ただ俺も馬鹿ではない。

なぜそんな話が出て来たのか、それぐらい直ぐに分った。


要はでっち上げだ。

勇者を学園から追放、もしくは処刑する為の大義名分を得るための。

まあ弱い勇者はいらないって事だろう。


「で?何が言いたいんです?」


話を聞くのも飽きてきた俺は、さっさと答えを求める。

こいつらの話をこれ以上聞くのは、時間の無駄以外何物でもない。


落ち着いてる?

馬鹿言え。

ぶちぎれ寸前だ。


やられたらやり返す。

人の事を勝手に呼び出しておいて、こんな真似をされて許す謂れなどない。

せっかくなので、戦闘力10億オーバーがどの程度か少し試してやるとしよう。


「不埒な真似をしておいて!何てふてぶてしい態度なの!」


唯一の紅一点。

20代位の女性が、どんと長机を叩いた。


彼女も教師だろうか?

その顔は憤怒に歪んでいた。


ふむ……どうもこの女は、本気で俺が勇者の権限をかさに着てやりたい放題してると思っている様だな。


女性からは本気の怒りを感じる。

もし俺をハメる気での行動なら、此処までの怒気は放っていない筈だ。


「反省の意志はない様だな」


「していない事を反省する余地はないし」


「何てやつだ!私はこの学園から墓地無双ぼちむそうを追放する事を求めます!こんな男に勇者たる資格はありません!!」


「「「「賛成!異議なし!」」」」


ちょび髭男の言葉に、周囲の人間が全員一致で賛成を返した。

見事なハモりだ事。

練習でもしてきたのだろうか?


「いいだろう!墓地無双!勇者の称号を剥奪し、勇者の名を貶めた罪で終身刑を言い渡す」


理事長が席から立ち上がり、手にした扇子を俺に向けてそう宣言した。


はい、こいつら死刑。

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