彼女の家で②


「何がとは言わないけど……見えてるよ?」


「何がって?」


ニヤニヤと笑う幼馴染。

いかにも、わざとらしい。

あからさまである。

それに……ちょっとキャラ変わってない?


「ノーコメントにしておくよ」


「そう」


「……それとも」と言葉を続ける幼馴染。

彼女はゆっくりと僕の隣に移動すると、その頭を肩に掛けた。

彼女の髪の匂いや鼓動が直に伝わる、


「見たいの?」


「……」


あの詩織さんや。

貴方、キャラがどんどん崩壊していってるだけど……。


「冗談よ」


クスッと笑った彼女はそのまま立ち上がる。

そして「ちょっとリビングに行ってくるから」と部屋を出て行った。


ガチャリと扉が閉まる。

この部屋に取り残された僕。

しかし、それは更なる不幸を呼んでしまった。


「……」


これは……かなりまずいかもしれない。

僕が履いているのは学校指定のズボン。

そしてそれはベルトで固く締めている。


要はあそこが苦しいのである。

ここが自分の家なら処理出来たのに。


「……」


まずいですね。

こうなったら、お茶を飲んで鎮めるか。

でも、残念な事にお茶もそんなに残っていない。


「……どうしよう」


トイレを借りる?

でも、流石に失礼だろう。

勢いよく階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

彼女が戻ってくる。

普段はゆっくりめな彼女がバタバタしているなんて珍しい。


「もっと、ゆっくり来て欲しいな」


どうにもならない事である。

深呼吸をして、なんとか冷静を装う。


「……机で上手く隠すしかないな」


深呼吸。

足音。

深呼吸。

足音。

深呼吸。

そして、ドアが開く。


「お待たせしました」


「ん?」


吹き出しそうになった。

何故なら、彼女が姿があまりにも予想外過ぎたから。


さっきまで制服を着ていた彼女。

しかし、今の彼女を包んでいるのは、メイド服である。


普段なら「どうしたの?」なんて質問をするのだろう。

それとも「着替えるの早くない?」とか。

しかし、今はちょっとまずい。


「如何でしょうか? ご主人様」


「いや、どこで覚えてきたの……そのセリフ」


あと格好も。

いや、本当に。

よく見る雑誌のメイドキャラにそっくりなんだけど……。

しかも、いつもは無口な彼女だから、性格もマッチしている。


「如何でしょうか?」


「……良いんだと思う」


遠い目。

そうでもしないとやってられない。

僕が僕であるうちに。


「左様でございますか……では少々お待ちください」


──失礼します。

そう言って、退出する幼馴染(メイドver)


出て行った。

……ってことは、また戻ってくるの?


「……」


一体、今度は何をするつもりなのか。

ちょっとした期待半分、苦しさ半分。

渦巻く複雑な内心で、彼女の後を見送る。


「……どうしてこうなった」


その呟きは何処ともなく消えていった。

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