彼女の家で①


放課後。

8時間に続く監獄生活も終わり、ようやく待ちに待った帰宅の時間だ。

これで家に帰れる。

やっとゲームが出来る。

こんなに嬉しい事はない。


僕は筆箱と教科書を鞄にしまい、颯爽と教室を出ようとする。

しかし、それを阻止したい者がいたようだ。

いきなり袖を掴まれたと思えば、再び牢獄に引きずり戻されてしまった。


誰なんだ。

こんな事をするなんて……。


「帰ってゲームしたいのも分かるけど、少し待ってくれる?」


「何だよ……」


尻もちをついていたため、見上げるように襟を引っ張った犯人の顔を見る。

彼女は胸ポケットから僕が誕生日にあげたピンク色のスマホを取り出していた。


「これ、メール」


「メール?」


そう言って、さっと画面を見せる幼馴染。

そこには一件のメールが表示されていた。


要件は……端的に言えば、詩織の家でお世話になりなさいと書かれてあった。

そして、明日からの2日間は彼女の母さんの所に行きなさいとある。

僕の母さんと彼女のご両親は親友で、実家同士も近い。

それが理由だろう。


「……」


マジか……。

少し泣きたい。

明日から休日。

せっかくゲームの周回ができると思ったのに。

どうやって、家に侵入しようかと考えていると「ねぇ」と詩織の声が聞こえてきた。


「ん?」


顔を上げる。

そこには少しだけ顔を赤らめていた幼馴染がいた。


「えっと……今日から3日間よろしくね?」


「……うん」


ゲームは……帰ってからでも間に合うか……。


「それじゃあ帰りましょう」


「ん」


近くに転がった鞄を回収。

幼馴染と一緒の教室を出る。

それからいつもみたいに彼女と一緒に帰宅した。


「一旦戻るの?」


「いや、そのまま行くよ」


「そう……」


彼女の家は隣にある。

だから、うまくやれば屋根を使って行き来が可能だ。

実際に子猫のしおりんもやってったぽいし。

そういえば……。


「しおりんはどうしたんだろう……」


貰った手紙にはいつでも会えるって書いてあった。

それに詩織のペットとも。

なら、もう一回くらい合わせもらっても良いはず。

そんな事を思いながら、チラリと隣にいる幼馴染の顔を見る。


どう答えるだろう。

ちょっとした好奇心。


しかし、僕の予想とは裏腹に、彼女の表情に変化は一切無かった。

それどころか──


「あの子は帰ったわ」


「あっ、うん……」


帰ったのね。

……残念。


玄関の茶色の扉を開け、詩織宅にお邪魔する。

いつもは彼女が僕の家に来てるから、この家にお邪魔するのもかなり久しぶりだった。

最後に来たのは確か2ヶ月前のこと。

詩織がインフルで倒れた時だ。

あの時は、あの詩織も病気になるんだなって驚いていた。


「ただいま」


「お邪魔します……」


僕達の声はシーンとした廊下に響いていた。

誰もいない為、返事はない。


「お茶とか用意するから」


「部屋で待ってて」と彼女はささっとリビングに姿を消した。


「分かった」


脱いだローファーを綺麗に整え、廊下を進む。

突き当たりにある階段を登り、2階に到着。

彼女の部屋は一番奥にあった。


ガチャリと扉を開け、部屋にお邪魔する。

この部屋に来るものだいぶ久しぶりだった。

部屋に入り、鞄を脇に置く。

しばらくすれば、「お待たせ」とお盆を持って彼女はやってきた。


「好きな所に座って」


「ああ、ありがとう」


座布団の上に着座。

彼女からコップを受け取る。

中身は麦茶だった。


「それにしても……」


幼馴染の部屋を見渡せば、至る所に写真とぬいぐるみが置かれてあった。

いつもは無表情な彼女も、その部屋のレイアウトは明るい女の子みたいだ。

そのギャップにちょっと驚きを感じる。


そんな事を思いながらお茶を飲んでいると、いつも間にか詩織がベットの上でお姉さん座りをしていた。

そして、今の彼女はスカートを穿いていたから……。


「……」


見えた。

色は……黒かな?

なんか大人っぽい。


「……」


いや、落ち着け。

彼女は幼馴染だ。

あの詩織だ。

冷静になろう。

ただ、ちょと無防備が気がする。


「詩織さんや……」


「何?」


「いや……その……床に座ったら?」


「どうして?」


ふふっと微笑む幼馴染。

そんな彼女の表情を見て、僕は嫌な予感を感じていた。

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