詩織の裏話


何で?


どうして気づかないの?


あれほど近くにいたのに。


あれほどアピールしたのに。


……鈍感。


どうやら今回はダメだったみたい。

心の中で大きなため息。

外に漏れる事は無かった。


子猫しおりんが上手く行ったから、その第二弾として、朝早くから起きて。

部屋の棚にしまってあった中学生の頃のエプロンを取り出して。

こっそりと家にお邪魔して。

悠くんが好きな料理を作って。

時間になったら彼を起こした。


最初はバレならどうなるかなって、少しドキドキしたけど、結果は成功。

彼は喜んでくれた。

しかも新婚さんみたいって言ってくれた。


でもね?


どうして手を出さないの?

しかもずっと後ろを向いていたんだよ?

色気を出すために好きなポニーテールにしたんだよ?

台所で襲うのが普通でしょう?


おかしい。

悠くんが持っていた漫画にはそう書いてあったのに……。


でもな……悠くんだし……。

気付かないのもしょうがないよね。

いつも落ち着いているように見えるけど、結構おっちょこちょいだから。


これなら、私ももう少し積極的に行くべきだったかな?


でも、それはちょっと怖いかも。

私が私じゃないみたい。


……どうしよう。


机に座って考える。

いつも何を考えているのか分からないって言われているだけど、今日はそれが幸い。

悠くん取り込み作戦がバレずに済む。


今日はお母さんがいない。

そして、確か彼のお母さんも仕事でしばらくいないって言ってた。


これは使えるかも。

親がいないから、今晩は一緒に泊まる事にして。

昔みたいに一緒にベットに入って、後は──。


いけない。

ここは学校。

お家じゃない。

知っている人から知らない人までみんないる。

だから、変なことを考えちゃダメ。

落ち着かないと。


首を横に振る。


問題はどうやって悠くんを誘うか。

失敗はいけない。

ちゃんとその気にさせて、ああ言う事をしなければ。


考える。


考える


考える……。


今度こそ上手く行くと良いなぁ……。

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