新婚さん②
「ごちそうさま」
「お粗末様」
箸を置き、コップに入った水で口の中を綺麗にする。
「美味しかったよ」
「なら、良かったわ」
朝食を食べ終え、お皿を洗い場に運ぶ。
朝から豪華な詩織の手料理を食べさせて貰ったのだ。
せめて食器の後片付けくらいしないと。
そう思い、スポンジを手にする。
しかし、ここで幼馴染のストップの手が入った。
「大丈夫よ。 私がやるから」
「でも……」
「出来ないでしょう?」
無言の圧。
何も言っていないのに……。
怖い。
「……すみません」
トボトボとリビングのソファーに座る僕。
女の子に言い負かされる男って。
情けない奴もいるんだな……。
僕の事だけど。
そんな事を思いながら、ふと時計を見てみる。
すると、時刻はすでに7時を回っている。
学校に行くまであと1時間弱と言ったところだ。
「テレビでも見てて」
「そうするよ」
食卓から少し離れた場所に置いてあるソファーに腰掛け、リモコンの電源ボタンを押す。
買ったばかりの大きな4kの画面の映ったのは、野球のハイライトシーンだった。
どうやらアメリカで活躍している有名な選手がまた凄い事をしたらしい。
「凄いんだな……」
正直よくわからない。
野球とかしたこと無いし。
そんな感想を抱きながら、目の前で映っている事を無心で見る。
スポーツニュースが終わり、エンタメのコーナー。
そしてCM。
どうやら天気予報はこのコマーシャルの後にやるらしい。
テロップにそう書かれてあったのだ。
「……」
遠慮のない大きなあくびをしながら、幼馴染の後ろ姿を見つめる。
普段は下ろしている銀色の髪が、今はポニーテールに纏めている。
……綺麗だな。
特にうなじ。
うまく言葉に表せないけど、なんか良い。
いやいや、何を考えているんだ僕は?
コホンと誤魔化すように咳。
そんな事をしているとCMが終わり、天気予報の場面に切り替わった。
「今日の東京の天気は──」
ニュースキャスターのおじさんと可愛らしい番組のマスコットが一緒に解説している。
彼らによれば、今日は降水確率が40パーセントと不安定な模様らしい。
どうやら、今日は傘が必要だな。
僕は席を立ち上がり、洗い場に直行。
コップを洗っていた彼女の隣に立ち、その肩を叩いた。
「どうしたの?」と幼馴染。
僕は「午後から雨が降るらしいよ」と伝えた。
するとだ。
「そう……」
何を勘違いしたのか。
彼女は「今日は洗濯は出来ないのね」なんて答えが返ってきた。
「えっ?」
洗濯?
どう言う事?
「いや、今日は雨が降るって……」
「だから、外で干せないのよ?」
「当たり前でしょう?」と言わんばかりにキョトンとしている幼馴染。
洗濯、外干し……。
……ちょっと待った。
どうやら話が食い違っているみたいだ。
おそらく洗濯の話だと思ったんだろう。
確かに洗濯も大事だけど、そうじゃない。
「いや、僕は傘が必要だよって言いたかったんだけど……」
午後に掛けて雨が降るらしい。
おそらく、帰る頃には雨が降るだろう。
「傘?」
「うん」
「そう……」
素気ない返信。
何とも思っていないとでも言いたのだろう。
表情だけを見れば、そうにも見える。
しかし、その手はしばらく固まっていたのだ。
「大丈夫?」
「ええ……でも洗濯も大事よ」
「うん」
確かに。
これからしばらくは1人暮らしになるのだ。
何もしないのはまずいだろう。
「でも……」
「ん?」
「さっきの会話って、なんか夫婦みたいね」
ボソッと言葉にする幼馴染。
彼女の何処か嬉しそうな表情を見て、僕はただ黙って見ているだけだった。
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