しおりんの裏話


──かわいい。


彼の言葉がリフレインする。


「かわいい」って言ってくれた。

嬉しい。

心が幸福に包まれる。


──でもダメ。


嬉しいけど、「かわいい」だけじゃ足りない。

もっと彼をその気にさせないと。


まだ彼には言っていないけど、私は彼の事が好き。

昔からずっと。

子どもの頃、居場所が無かった私を彼が見つけれくれた。

だから好き。

今も。

そして、これからもずっと。


でも彼は──。


つい、先日の事を思い出す。

いつものように彼のお家に寄り道した時の事。


彼が「着替えてから来れば良いのに」なんて言ってきたから、つい「下着、見たいの?」って言い返してしまった。

今思えば、何言ってるんだろうと思う。


もっと雰囲気が大事なのに……。


でも半分くらい本気だった。

彼が「うん」って頷けば、スカートをたくし上げていたし、その先の事も──。


だけど、現実はその逆。

彼の返答は「興味ない」だった。

しかも「襲わせてみな」って。


聞いていて「ばか」って思った。

「この鈍感」って思った。


このままいけない。


だから決めたの。

意識させるって。

私の体は貧相だけど、絶対にぎゃふんって言わせる。

そうしたら、彼と──。


「あっ……」


いけない。

つい、悪い事を考えちゃった。


いつかはするけど、まだ早い。

まずは彼を振り向かせないと。

その為には今のままじゃダメ。


もっと距離を近くするべき。

彼に“女”だと意識させないと。


だから試しにネコちゃんの真似をした。


両手を上げて、「にゃー」って鳴く。

恥ずかしかったけど、これも未来のため。


ネットの知識で調べた事やテレビの特集でやっていた事を思い出してやってみた。


高評価だった。

頭を撫でてくれた。

「かわいい」って言ってくれた。


幸せな気分。


でも、手を出してくれなかった。

あれだけくっついていたのに。

……いくじなし。


「にゃー」


小さな声が部屋に消える。

猫ちゃんも良いけど、このままじゃダメ。

もっと距離を詰めないと。


……明日はどうしようかな。

そんな事を考えながら、ベットに入る。

手を出してくれなかったのは悲しいけど。


明日も頑張ろう。


「おやすみなさい」


隣の部屋にいる彼に向かって挨拶。

今日もいい夢を見れるといいなぁ。


──でも、猫ちゃんも楽しかったから今度もやろうっと。

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