ケモ耳少女②


一旦、部屋の外に出る。

おかしい……幻覚でも見ているのだろうか?


目を擦って、もう一度ドアを開ける。

そこにいるには、「にゃー」と鳴くケモ耳少女。

どうやら、幻覚ではないようだ。


「……」


ジーッと彼女を見る。

まず1番最初に目に入ったのは段ボールだった。

みかんのイラストが書かれた薄茶色の箱。

正面には堂々と『拾ってください』なんて書かれた紙が貼られてある。


そして段ボールの中には猫のマネをしているだろう。

ケモ耳のカチューシャを付けた銀髪の少女。

かわいいと評判のうちの学校の制服を着ているし、よく見てみると、その背中の方には尻尾もあった。


「えっと……詩織?」


「にゃー」と首を横に振る幼馴染。


「……」


いや、詩織だよね?

何が違うんだろう。

すると、彼女は手招きしてもう一度「にゃー」と鳴いた。


「……」


えっと……どうリアクションをすれば良いんだろう。

朝から様子がおかしいばと思ったら、いきなり「にゃー」と猫のモノマネをするばんて。

しかもいつもはほとんど感情を出さないからな。

ギャップ萌えと言えば良いのか。

上目遣いや、ケモ耳の相性効果もあって、いつもよりも可愛い。


「……」


沈黙が部屋を包む。

しばらく時が経ち、僕は「何やってんの……」と訊いてみるが、返事は「にゃー」の鳴き声のみ。


……どうすれば良いんだろう。

彼女のお母さんに連絡する?

でも、忙しいだろうしな……。


うーんと悩んでいると、段ボールの近くに『しおりん取り扱い説明書』と書かれた1つの冊子が置かれているのに気がついた。


「……」


しおりん?

この子猫の名前かな?

そんな事を思いながら、冊子を手に取る。


「まずはこれを見ろと言うことか……」


僕の呟きに「にゃー」と答えるしおりん(?)

パラパラと冊子を捲れば、ある1枚の紙が床に落ちた。

そこには何か書かれてある。



悠くんへ。

いつもお話出来なくて、ごめんね?

私って、素直じゃないからいつもあういう態度になっちゃうの……。

だから、嫌いにならないで?


それと、お詫びに私が飼っている猫ちゃんのしおりんを送る事にしたの。

しおりんはご主人様の言う事を何でも聞く凄いネコちゃんなのよ?


この子は蓮くんのモノ。

これで、許してくれると嬉しいな。


あと、いつかは私の魅力で堕としてみせるからね。

バイバイ。


※しおりんの扱い方はこのトリセツを読んでね?



「……」


子猫のしおりんね。

どう見てもご本人のように見えるけど、しおりんで良いんだね?

あと、悠くんとか久しぶりに言われたかも。

何ヶ月振りだろう……。


「とりあえず、扱い方はこれを読めって事か……」


もう一度、パラパラと冊子を捲る。

だが、冊子には『“聞けない命令”を言わなければ、ご主人様が命じた事は何でも言う事を聞きます』としか書かれていなかった。


「……」


もう一度、視線を目の前にある段ボールに移す。

そこには「今にも命令してくだい」と言わんばかりの表情をしていたケモ耳少女がいた。


「……何でも言う事を聞くんだね?」


「にゃー」と両手を顔の横に上げるしおりん。

かわいい。


「じゃあ……まずはその段ボールから出てきてくれるかな?」


僕の命令に従うのは本当らしい。

「にゃー」と段ボールから出るしおりん。

そして、彼女はそのまま、僕の目の前でお座りした。


「お手」


「にゃー」と鳴き、右手を前に出すしおりん。

えっ……何このかわいい生物。

お持ち帰りしたい。

あっ、ここ家か。


「……お回り」


もう一度、「にゃー」と鳴き、目の前まで一回転する。

意外と楽しいな。

彼女の動き回る姿を見て、僕はどんどん命令していった。


「立て」と言えば、四つん這いになり、バンと指鉄炮で銃を撃つ真似をすれば、ゴロンと倒れる。


「あっ……」


しばらく遊んでいると、僕はある事に気がついた。

かなりまずい事だ。

非常に言いにくいのだが、彼女がゴロゴロと動き回ると……その……見えるのだ。

特にゴロンと倒れた時ははっきりと見えてしまった。

スカートの下に見えるアレが。


「……」


まずいな。

ただでさえかわいいのに……。

ちょっとヤバいかもしれない。


昨日、彼女に「興味ない」と言ったんだ。

さあ、治るんだ。


そんな事を思っていると「にゃー?」と僕の目の前まで首を傾げるしおりん。

表情がキョトンとしており、頭の上には、はてなマークが見えていた。


「いやっ……何でもないよ」


誤魔化すように、視線を窓に向ける。

外はもう真っ暗だった。


「そろそろご飯の時間か……」


もう終わりかな。

そんな事を呟くと、しおりんの口から「くぅーん」と寂しそうな声が出ていた。

同調するように、ケモ耳や尻尾までもがうなだれている。


「……」


やめて、罪悪感を感じちゃう。

僕は「ごめんね」としおりんの頭を撫でる。


「でも、お別れの時間だからさ?」


「……」


不貞腐れたのか、横に振り向くしおりん。

どうやら、これは“聞けない命令”らしい。

参ったな……。


「えっと、ほら、明日も会えるし……ね?」


なんとか上手く説得してみる。

すると、しおりんも分かったのか、小さく「にゃー」と鳴くと、ノコノコと窓の方へ向かっていった。


「ん?」


何をするつもりだ?

……まさか。

彼女はゆっくりと窓を開ける。

どうやら、そのまま隣の家に行くみたいだ。


「気を付けてよ?」


彼女の家とはそれほど離れていない。

子供の頃は糸電話を繋げて遊んでいたくらいだ。

しおりんはもう一度、「にゃー」と鳴くと、そのまま外へ出ていった。


「かわいいな」


……明日も来るのかな?

その前にトイレ行っておくか。

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