ケモ耳少女①


翌日のことだった。

流石に昨日は言い過ぎだと思った僕は、朝の挨拶と一緒に謝ろうとしたのだが──。


「先に行くから」


「えっ?」


喋った?

いつも相槌を打つだけの詩織が?

それに「先に行く」って。

やっぱり昨日のは不味かったか。


「待って!」と彼女を止める。

しかし、僕の意図を察していたのか。

彼女は少し口角を上げると、口を開いた。


「大丈夫よ。 本当に用事があるだけだから」


「用事?」


その言葉に少し違和感を感じる。

だが、その答えを知る前に詩織は先に行ってしまった。


「……」


通学路には僕1人だけが残された。


そのまま時間は過ぎていき、朝礼。

午前の授業。

そして目お昼の時間になる。

今日も毎日のように、彼女と一緒にお昼ご飯を食べていたのだが──。


「これ……食べる?」


「ありがとう?」


何と言えば良いのだろうか。

いつも以上に食べ物を渡してくる。

彼女のおかずを食べる事はよくあるが、今日はやけに多い。

違和感。

ちょっと変だ。


「何かあったの?」


気になる。

そう思った僕は、話を区切って幼馴染に尋ねる。

しかし、彼女は「何も無いわ」といつも通りの無表情。

でも、それは何処か誤魔化しているようだった。


「……」


もう少し時間を掛けてから訊いてみるか。

それこそ、家に帰った後とか。

それが一番、手っ取り早い。

もし彼女が口を聞いてくれなくても、こちらには最終兵器が残っている。


「一応、帰り道に補充しておくか……」


普段とは少し違う日常。

僕は何もする事が出来ず、そのままその日を過ごしていった。

やがて時間は過ぎ、放課後になる。


「ふぅ……」


オレンジ色に染まった路上。

僕は1人で帰路に着いていた。

昨日まで隣を歩いていた幼馴染はいない。


──やはり何かあるんだ。


「とりあえず、コンビニに寄って行くか」


話を聞くくらいなら、僕にでも出来るはずだ。

通学路の途中にある駅前の小さなコンビニに立ち寄り、お菓子と彼女用の秘密兵器を購入する。

近くのスーパーでバーゲンセールがやっていたので、夕食の材料も買っておいた。


「買いすぎたかも……」


「はぁ……」とため息を吐きながら、見慣れた道を歩く。

両手にはビニール袋。

かなり重い。

やがて、自宅が見えてきた時には、腕の時計の針は6の数字を指していた。

その奥にある家の窓にまだ光はない。


「まだ、帰ってきてないのか?」と鍵を取り出す為に、買い物袋を地面に置く。

そして、ドアを開けるために鍵を差し込むのだが、ここで不気味な事が起こった。


「あれ?」


差し込んだ鍵を右に回し、ドアを開けようとする。


しかし、どうしたことか。

ガチャンと大きな音を立てるだけで、ドアは開かなかった。


「……」


冷たい何かが背中を通る。

冷や汗だ。

一度深呼吸をして、もう一度、鍵を回してみる。

今度はドアが開いた。


「……鍵を閉め忘れた? でも、それなら詩織や母さんが教えてくれるだろうし……」


怪訝に思いながらも、ドアを開ける。

そこには見慣れない靴があった。

長さは……だいたい24cmくらいだろうか?

見慣れない黒のローファーがあった。


「誰かいる……」


母さんにしては小さすぎるし、もし、ずっと帰っていない姉さんが家に戻って来たなら、母さんから連絡が来るはずだ。


「……」


警戒心を持ちながら、ゆっくりと家の中に入って行く。

1歩、1歩、音を立てずに慎重に進む。

それはまるで、泥棒なった自分が他人の家に侵入しているような気分だった。

おかしいな。

ここが僕の家なのに……。


しかし、リビングにも洗面所にも台所にも人の姿はない。

運が良いことなのか、僕は階段に到着するまで誰とも出会うことは無かった。


「……」


気のせいかな?

そんな事を思いながら、階段を登る。

相当古い家だからか、階段を1歩踏むごとに、ギシギシと嫌な音が鳴った。


「そろそろ改築した方が良い気がする」


そんな事をぶつぶつと呟きながら、2階に到着。

そこで、僕はまた違和感を感じた。


「あれ? ドアが閉まってる?」


朝出た時は開いていたはずなのに。

仕事に行く前に、母さんが閉めたのか?

でも、ドアを開けっぱなしにしなさいと言ったのは母さんだ。

言った本人がするとは思えない。


「……」


やっぱり誰かいる。

疑問と恐怖を感じながらも、僕は銀色に輝くドアノブに手を掛ける。

ガチャリと良い音が聞こえ、半日ぶりの我が居城が見えて来る。

そして、最大までドアを部屋に入ろうとした時だった。


「えっ?」


──部屋にそれはいた。







「にゃー」


「……えっ?」


えっと……どうことなの?

玄関あけたらサ◯ウのごはんじゃないけどさ……。

ドア開けてたらケモ耳少女?

何言ってるんだろう?

とにかく!


「にゃー」


ドア開けてたらケモ耳少女がいた。

あれ?

よく見たら、詩織じゃん。

……何やってんの?

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