僕が言ってしまったある一言のせいで、無表情系幼馴染がグイグイ来る。

綿宮 望

プロローグ


僕には幼馴染がいる。

とびっきり可愛い女の子だ。

街中を歩いている10人の通行人に尋ねれば、その10人全員が「可愛い」と答えるだろう容貌。


セミロングの白銀の髪。

丸っこい葵色の瞳。

雪のような白い肌。

彼女曰く、その血には北欧のものが流れているらしい。


体型は……スレンダーとでも言っておこう。

あまり深くは言えない。


そして、そんなハイスペックな容貌を持ち、学校でもかなりの美少女と言われている彼女は、学校の成績の方でも優秀だった。


運動神経はそれなりにあり、過去に数回ほど成績優秀賞を貰っている。

前述した通り、かなりの人見知りではあるが、その一匹狼性が更に彼女の魅力に拍車を掛けてもいた。


容姿、成績、人柄と全てに置いて最高値。

それが僕の幼馴染である。。


だが、天は二物を与えても三物までは与えなかったようだ。

そんな彼女にもある欠点があった。

それは──。


放課後。

学校が終わり、自由時間がやってくる。

僕はさっさと家に帰ろうと、鞄を教科書などを詰め込んでいると、幼馴染の少女が僕の目の前に現れた。


「課題とかあったけ?」


「何もないわ」


「ありがとう」


「じゃあ、帰ろうか」と自宅へ続く通学路を並んで歩く。

幼馴染同士なら、ここで何かしらの会話があるんだろうけど、僕たちにはそれはない。

ただ、オレンジ色に染まった通学路を無言で歩くだけ。

ここまで来れば分かるだろう。

見た目も成績も完璧な彼女であるが、彼女はかなりの口下手だったのだ。


そんな無口少女の名前は白河詩織。

僕の昔からの友人だった。


彼女との関係は語れば、語るほど長くなる。

今から10年とちょっと前だろうか。


親同士が親友ということもあり、産まれた頃からの古く長い付き合いで、彼女とはまるで家族のように接していた。

どこに行くにも一緒。

でも彼女の性格上進んで動くことは少なかったのでもいつも僕の後を着いてきた。

僕が兄で、詩織が妹と言った感じだろう。


また彼女のご両親は海外に出張する事が多く、長い時は3ヶ月以上も同じ家で暮らしていたこともあった。

僕の記憶が間違っていなければだが、おそらく詩織とは、彼女のご両親よりも彼女と一緒にいた時間が長いだろう。

それにしても──。


「ちょっと……」


「……なに?」


無口な幼馴染──詩織とは、随分と距離が近い気がする。

さっきみたいに、毎日のように机の近くにやってきたり、いつのまにか友人達との会話の中に入っていたり……。

彼女と会話をする事こそはあまり無いが、いつものように僕の近くにいたり、いつも視界の中に入っているような気がする。

空気が薄いせいか、いつの間にかそこにいたという事も度々あった。


「……少しは離れて欲しいんだけどな」


「いやよ」


即答。

そして、それは「何、変なことを言っているの?」と言わんばかりの口調だった。


「距離が近いと思うけど……」


「そんなこと無いわ」


「……」


彼女と親しいこと自体は嫌ではない。

寧ろ、こんな絶世の美少女と一緒に入れるのだ。

喜ぶべきだろうし、大歓迎だ。


ただ……四六時中居るのはかなり困る。

僕だって男だ。

何とは言えないが、溜まってしまう物もある。

今だってかなりヤバい状態なのだ。


「そう言えば……今日の数字のテスト、どうだった?」


無理矢理、話題を変更。

そうでもしないと、嫌な想像が理性を蝕んでしまう。


「出来たと思うけど……」


「マジか……合っている気がしないよ」


「残念」


そんな会話していたら、やがて自宅が見えてくる。

僕と詩織は家が隣同士。

屋根を超えて互いの部屋に行き来出来るくらいの近さだ。


「今日も寄ってくの?」


「そうするわ」


「分かった」


鞄から鍵を取り出し、帰宅。

洗面台で手を洗い、私服に着替える。

詩織は制服のままだ。

「着替えてから来れば良いのに」とは思ったが、彼女曰く時間が勿体ないらしい。


「それとも見たいの?」


「ん?」


見たいって?

何を?


「下着」


「……」


いつも通りの口調でぶっ飛んだ事を言う幼馴染。

しかも、彼女の事だ。

僕が頷けば、本当に脱ぐ可能性もある。

それこそ、ああ言う事も平然としてしまうだろう。


よし、待った。

一旦、落ち着こう。

彼女は幼馴染、

出来るだけ、冷静にいなければ、


「いや、大丈夫だよ……それに、そう言うことをするなら、もっと僕を興奮させてからにしないと」


──襲わせるくらいにね?

僕はリビングで淹れた温かいお茶を飲んで、感情を沈める。

すると、その直後だった。

温かったお茶を飲んでいるはずのに、一気全身に鳥肌が立つほどの冷たい風が流れたのだ。


発生源は──詩織?

彼女は「ふふふ」と妖艶な笑みを浮かべていた。


「……興奮させれば良いのね?」


目には影が差しており、それはまるで世界制服を企む魔王のようだ。

そして、僕が「しまった」と思った時にはもう遅かった。


「いや…‥そうではないけど」


何とかして、彼女の誤解を解こうとするが──。


「じゃあ、またね」


詩織は小さな声で呟くと、そのまま隣の家に帰ってしまった。

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