第五十話「迷宮探索」
次の日の朝。
僕とハンナは、
「準備は出来てるハンナ?」
「うん、ばっちり!
ちゃんと指輪も着けてるよ!」
そう言って、右手の人差し指に着けた隠密の指輪を僕に見せてくるハンナ。
「よし、じゃあ行こうか」
僕はそう言って、
見上げると、
これほどの大きさの建造物は
また、遠目では分からなかったが、
それほど大きな岩が何千個何万個と積まれているのだ。
一体どのようなバランスで綺麗な四角推の形を保てているのか不思議である。
そしてもっと不思議なことに、この
偶然にしては綺麗にそれぞれの方角を向いているので、何か大きな自然の力が働いているかのように僕は感じる。
そんな四面ある
丸太のように太い岩の柱で支えられた大穴が、北側の面の中央下部をくり抜くように空いている。
そこは多くの冒険者が行き来しており、僕とハンナもその流れに沿って大穴へと足を運ぶ。
「現在、迷宮で暴れている冒険者がいる模様!
危険なので注意されたし!
繰り返す!
現在、迷宮で暴れている冒険者がいる模様!
危険なので注意されたし!」
大穴を通るとき、入口で門番をしていたライズ王国の兵士が、迷宮に入る冒険者達に向けて呼びかけをしていた。
僕はその気になる言葉を聞いて、兵士に近づいた。
「その暴れている冒険者について、もう少し詳しく教えていただいてもよろしいですか?」
僕が聞くと、兵士は呼びかけを一旦止めて僕の方を向いた。
「ああ。
最近、迷宮の奥で暴れている冒険者がいるみたいでな。
『魔神は俺たちの物だ』とか言って、近くにいる冒険者を襲ってくるらしい。
そいつらのせいで最近は怪我人が多くてなあ。
噂の魔神が
お前らも気を付けるんだな」
兵士はそれだけ言って、再び呼びかけに戻る。
「コット。
今のって……」
「うん。
十中八九、不法入国してると噂のブラックポイズンの冒険者のことだろうね」
僕は溜息をつきながら言った。
どうやら不法入国したブラックポイズンの冒険者は、相変わらず他国の冒険者に暴行を加えているらしい。
ブラックポイズンの誰が暴れているのかは知らないが、そのことがライズ王国全体に知れ渡れば、今度こそライズ王国とビーク王国の関係が崩れてしまう。
「急ごう」
僕は、足早に
入口からまっすぐ進んで通路を抜けると、開けた空間に出た。
基本的に迷宮は、通路となっている狭い空間とモンスターなどが潜む広い空間の連続だ。
今回出た広い空間は岩壁に囲まれているが、周りにはいくつもの岩穴がある。
これらの岩穴は全て通路となっており、先に進める通路もあれば、行き止まりや罠部屋などに誘いこむ通路もある。
通路の選択がこの先の命運を分ける。
そのため周りを見ると、どの通路に入ろうか迷っている様子の新米冒険者パーティーや、既にどの通路を通るか決めていたようで迷わず決めていた通路に入っていく熟練冒険者パーティーらしき一団もいたりする。
「コット。
たくさん穴があるけど、どこを通ろう?」
ハンナはたくさんある穴を眺めては、うーんと悩んでいる様子だった。
「大丈夫。
道に関しては僕に任せて」
僕は魔法鞄をごそごそと漁り、とある紙の束を取り出す。
「それは?」
ハンナは僕の取り出した紙束を興味津々な様子で見てくる。
「僕が五年前に
当時通った道は全て記してあるから、これを使えば
説明を聞いてハンナは目を丸くする。
「すごーい!
じゃあ、その地図さえあれば迷宮内のどこにでも行けるし、迷うことは絶対にないってことだね!」
確かにハンナのいう通り、この地図さえあればある程度迷宮内の移動は簡単になるだろう。
しかし、これは五年前に作成した地図。
迷宮とは、時間が経つにつれて内部構造が変わってくるものだ。
もしかしたら新しい道が出来ていたり、構造自体が変わっているところもあるかもしれない。
そう考えると、この地図が完全に頼りになるというわけではなくなってくる。
だが、そんなことをハンナには伝える必要はない。
ハンナにこの地図が完璧だと思わせておけば、安心して迷宮攻略に挑むことができることだろう。
「そういうこと。
じゃあ、最初はあの道から行こうか」
僕は、隅っこにある小さな穴を指さす。
五年前の情報を頼りにするならば、あの通路が上層にもっとも早く行ける比較的安全な道のはずである。
そして、僕は周りを警戒しながらハンナの前を歩く。
ここは一番最初の部屋だからモンスターや罠があることは基本的には無いのだが、油断すると痛い目を見ることは五年前に迷宮攻略をして何度も痛感している。
いつ何時モンスターが出てきてもいいように、僕は地図を持っていない方の手で風魔剣を構えながら進む。
そして警戒しながらハンナと共に通路に入り、慎重に奥へと進んで行くと再び開けた空間に出た。
「あっ……」
通路を抜けた途端、ハンナが何かに気づいたように小さく声を出した。
通路を抜けたその先には、モンスターが一体いたのである。
ロックゴーレム。
C級モンスターとしてモンスター図鑑に登録されているモンスターだ。
動きは鈍く機動性は低いが、身体が岩でできているため耐久性が高く、攻撃力もそれなりにあるモンスターであり、C級モンスターといえど注意が必要なモンスターである。
とはいえ、C級モンスターであれば風魔剣を使えば一撃だ。
耐久性が高いとはいっても、A級モンスター相手でも傷を与える風魔剣にかかればC級モンスターは余裕である。
隠密の指輪をつけているおかげか、ロックゴーレムはこちらの存在に全く気づいていない。
気づかれていないうちに倒してしまおう。
そう考えて、僕が風魔剣を構えたとき。
「待って、コット」
後ろからハンナに小声で呼び止められた。
「どうしたの、ハンナ」
僕はロックゴーレムから目線を外さないようにしながら、ハンナに小声で返事をする。
「今回は私があのモンスターを倒すわ」
その言葉を聞いて、僕は思わずロックゴーレムから視線を外してハンナの方を振り返った。
「……どういうこと?」
僕にはハンナの思惑が分からなかった。
ハンナの神聖術に、モンスターを攻撃する技は無い。
つまり、ハンナ一人でモンスターを倒すことは不可能なのである。
「なんだか、今の私ならできる気がするの。
お願い。
今回だけは、私に任せて。
私、コットの足を引っ張りたくないの」
ハンナは強い信念のこもった目で、僕の方を真っすぐに見てくる。
ハンナが、モンスターに攻撃する手段を持っていないことに悩んでいたことは昨日聞いたばかり。
僕の足を引っ張りたくない。
そこまで言われては、僕には断ることはできなかった。
「分かったよ。
でも、危なくなったら僕が倒すからね」
僕が言うと、ハンナは真剣な顔でコクリと頷いた。
「ありがとう、コット。
でも大丈夫、任せて」
それだけ言って、ハンナは僕の前に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます