第四十二話「ハンナの告白」
「ありがとう!
本当に、本当にありがとう……!!」
無事盗賊を全員捕まえ、誘拐された村の女性二人を保護し終えた僕たちは、夜が明けた早朝に村に戻った。
村に戻ると村長のジョパスさんは僕たちの帰りを待ってくれていて、僕たちの報告を聞くと泣きながら感謝の言葉を伝えてくれた。
「娘を助けてくれてありがとう!
この恩は一生忘れない!」
それから保護した村の女性達は母親と父親と泣きながら抱き合い、家族揃って僕たちに感謝の言葉を伝えてくれた。
「あなたたちすごいわね!」
「最初はただのガキ共だと思ってたけど、やるじゃねえか!」
「お前らは村の英雄だ!」
「ホワイトワークス万歳!!」
村人たちからも僕らは讃えられた。
たくさんの村人から何度も感謝の言葉をもらい、握手も求められた。
僕たちは照れながらも、村人たちの感謝の気持ちを受け取った。
村人たちが嬉しそうにしているのを見て、僕はこの仕事を受けてよかったなと思った。
これにて一件落着である。
村の人達からは沢山感謝の言葉をもらい、盗賊のアジトでは盗賊が溜め込んでいた金品なども獲得することができ、結果としては大成功であった。
そして一仕事終えた僕たちは、そのまま日の出を見ながら帰ることとなった。
帰りの馬車の中では行きの馬車であれだけ騒いでいたのが嘘だったかのように静かだった。
マリリンさんは、心ここにあらずといった様子で外の景色を見ながら呆けていた。
神であるベアルージュと対面して精神を擦り減らされたようで、砦をでてからずっとこの調子である。
まあ、あれだけベアルージュに殺意を向けられれば、こうなってしまうのも仕方がない。
盗賊討伐に大きく貢献してくれたマリリンさんにはとても感謝しているので、今は心を休めてほしいところだ。
ハンナはというと僕の隣にちょこんと座り、ときどきチラチラと僕の方を見ては顔を赤らめてもじもじしていた。
ハンナもハンナで意識を取り戻してからずっとこの調子である。
ハンナがこうなっている理由は明白だ。
「だって、ハンナちゃんはコット君のことが好きなんだもの」
あのベアルージュの発言のせいだろう。
正直に言えば、僕もあのベアルージュの発言のせいでハンナのことを意識してしまっている。
ベアルージュが消え、ハンナが意識を取り戻したとき、ハンナは顔を真っ赤にしながらも何も言わなかった。
ただただ俯いて恥ずかしそうにしていた。
僕はそんなハンナの態度を見て、もしかしてハンナは本当に僕のことが好きなのでは? と思い始めていた。
ベアルージュが身体を乗っ取っていたときの記憶が残っているのは、前にハンナから聞いたので確認済みである。
であれば、もしハンナが僕のことをなんとも思っていないのであれば、ハンナは意識を取り戻すと同時にベアルージュの発言を否定しそうなものである。
しかし、ハンナは否定しなかった。
ハンナはただ顔を赤くしながら、僕のことをチラチラ見て恥ずかしそうにしているだけだ。
それはもう恋をしている乙女のような振る舞いであった。
流石にハンナのそんな態度を見れば、今まで恋をしたことのない鈍感の僕でも「ハンナはもしかしたら僕のことが好きかもしれない」と察しがつく。
そして、まさかハンナのような可愛らしい女の子に好かれるとは思っていなくて、僕はドキドキしていた。
それと同時に複雑な気持ちだった。
まず前提として、ハンナは十年来の幼馴染であり親友である。
親友に対して恋心を持つなど、それこそ関係崩壊の危機ではという不安があった。
正直、僕は今まで恋愛というものをしたことがないので、ハンナから好かれることでハンナとの関係がこの先どうなるのか予想がつかないのだ。
そして、もう一つ前提として、ハンナは僕が作った冒険者ギルドの冒険者だ。
ブラックポイズン時代にギルドマスターのボルディアが冒険者の女性に手を出してギルドが悪化していくのを見てきたので、僕はギルドの冒険者には絶対に手を出さないと決めている。
そのため、僕はハンナに好かれようとハンナとは恋愛関係にはなれない。
もしかしたら、そのせいでハンナとの関係が崩壊してしまうかもしれない。
そんな漠然とした不安が僕の中にあるのだ。
マリリンさん、ハンナ、僕の三人は三者三様に思いを馳せながら静かに馬車に揺られていると、馬車は突然ゆっくりと止まった。
目の前にはホワイトワークスの二階建ての事務所が建っていて、ようやく帰ってこれたことを理解する。
僕達は馬車を出してくれた、御者をしてくれた村の人にお礼を言ってから馬車を降りた。
すると、降りてすぐにマリリンさんが口を開く。
「お疲れ様〜〜……。
私はなんだか疲れたから今日は帰るにゃ〜〜……。
報酬とかはまた今度貰いに来るにゃ〜〜…」
マリリンさんは相当疲れた顔をしていて、気だるそうに言った。
「分かりました。
お疲れ様です、マリリンさん。
今日はありがとうございました」
僕がお礼を言うと、マリリンさんは小さく頷いてトボトボと歩いて行ってしまった。
どうにか元気を取り戻してほしいところだ。
そして、その場に残ったのは僕とハンナ。
お互い無言で、目も合わせられない。
いつもならこんなことにはならないだけに、なんだか気まずい。
「じゃ、じゃあ、ギルドに戻ろっか……」
それだけ言って、ささっとギルドに向かおうとすると。
「こ、コット!!」
後ろからハンナに呼び止められた。
反射的にハンナの方を振り返ると、ハンナは顔を真っ赤にしながら僕のことを真っ直ぐに見ていた。
「ど、どうしたの…?」
僕はハンナと目が合ってドキリとする。
そのクリっとした人懐っこい目と、綺麗な白い肌に真っ赤な唇。
全てのパーツが完璧で愛らしいハンナの顔を見ると、顔が熱くなってくるのを感じる。
「あ、あのさ!
ベアルージュ様が言ってたこと!
あれ、
ハンナは顔をタコのように真っ赤にしながら、叫んだ。
その表情から、恥ずかしさを我慢しながら勇気を出して僕に告白しているのだと分かる。
そして、段々とその言葉が僕の頭の中で処理され始める。
ベアルージュが言ったことが全て本当?
それはつまり……。
「じゃ、じゃあ、そういうことだから!!」
僕の思考が結論にたどり着くより少し早くハンナはその場から駆け出し、僕より先にギルドに戻ってしまった。
そしてギルドの扉がパタリと閉じたとき、僕はようやく理解した。
「ハンナは僕のことが好きなのか……」
どうしていいかわからず、僕はドキドキしながらその場に立ち尽くした。
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