第三十五話「ドッジ村到着」
「ハンナちゃんのその恰好、シスターみたいだね~~」
「え、シスターですよ?」
「え~~!?
そうだったのにゃ~~!?」
揺れる幌馬車の中で、ベアルージュ教の修道着を着たハンナとマリリンさんがそんな会話をしていた。
相変わらずマリリンさんは呆れるほど騒がしい。
なぜ現在僕がこの二人と一緒に馬車に乗っているかというと、盗賊の捕縛依頼をこの三人パーティーで受けることにしたからである。
本来であればA級冒険者であるマリリンさん一人でもこなせるであろう仕事ではあるのだが、一応マリリンさんの初のホワイトワークスでの仕事ということでギルドマスターの僕も同行することにした。
またハンナを連れてきた理由としては、仕事の経験を積ませるためというのもあるが、一番大きい理由としては単純に治癒術者が欲しかったからだ。
治癒術者がいれば万が一にもマリリンさんが怪我をしたときに助けることができる。
治癒術者は一人いるだけでパーティーの生存率が一気に跳ね上がるので、こういった危険な依頼には絶対に連れて行きたい存在であるのだ。
とはいえ、ハンナとマリリンさんは昨日初めて会ったばかり。
二人だけでは気まずいだろうと思って僕が仲介役をしてあげようなんて思っていたのだが、既に仲良さそうにくっついて話している二人を見ると必要なさそうである。
「いや、マリリンさん。
お昼にハンナが治癒依頼を受けてたのを見てなかったんですか?
あのときハンナが使ってたのは、ベアルージュ教の神聖術ですよ?」
僕が言うと、さらに驚いた顔をするマリリンさん。
「え~~!?
ハンナちゃんって、ベアルージュ教のシスターだったの~~!?
なんでそんなすごい子がコットくんのギルドにいるのにゃ~~!?
コットくんって実はかなりやり手~~!?」
ハンナと僕の顔を交互に見るマリリンさん。
いや、やり手ってどういう意味だろうか。
僕とハンナは単純に幼馴染というだけなのだが。
「そろそろ村に着くぞう!」
マリリンさんとの会話が途切れたタイミングで、前方の御者台の方から声がした。
声をかけてきたのはジョパスさん。
お昼に依頼を受けた後、早速ジョパスさんの村に行くことになった僕たちは、ジョパスさんの運転する馬車で移動することになった。
南区の外れとなると、徒歩では東区に事務所があるホワイトワークスからそれなりに時間がかかってしまうので、ジョパスさんが馬車に乗せてくれて本当に助かった。
「あ!
あれじゃない?」
ハンナが指を差したので僕もその方向を見ると、草原の中に簡素な木製の家が立ち並ぶ小さな村が見えてきた。
それと同時に段々と馬の進むスピードがゆっくりになり、そして馬車は村の中心部で停止した。
「着いたぞ。
ここがドッジ村じゃ!」
言いながらジョパスさんは馬車を降りたので、僕たちもそれに続いて順番に馬車を降りる。
周りを見渡すと、そこは平凡な村だった。
畑が多いが人は少ない小さな田舎村、といった印象。
そして目につくのは、そこらかしこにある荒らされたような跡。
家の入口が破壊されていたり、畑がぐちゃぐちゃに破壊されていたり。
どうやら盗賊が来たというのは本当のようだ。
すると、馬車から降りた僕たちを見つけた村人が数人こちらに集まってきた。
「村長、お帰り!
怪我は大丈夫だったの!?」
「おい、誰だよその人たちは!
また盗賊とか言わねえだろうなあ!」
村人たちは村長であるジョパスさんの怪我を心配すると共に、よそ者である僕らを怪訝な目でじろじろと見てきた。
よく見れば村人達はみんな包帯を巻いた怪我人ばかり。
おそらく盗賊にやられた傷なのだろう。
「おいお前たち、そんな変な目でこの人たちを見るんじゃない!
儂の治療をしてくれたのはこの人たちじゃ!
この人たちはホワイトワークスという東区にある冒険者ギルドの人たちでなあ!
儂らのために盗賊を捕まえに行ってくれることになったのじゃ!」
村長がそう言うと、村人たちは胡散臭そうに僕らを眺め始めた。
「その人たちが冒険者……?」
「女ばっかじゃねえかよ……」
「こんなガキ三人集めて盗賊を倒せるかよ……」
「ホワイトワークスなんてギルド、聞いたこともないぞ?」
「騙されてんじゃねえか?」
村人たちは僕らを見た目だけで判断しているようだ。
確かに、僕らは見た目だけみれば全員若いし、僕以外は二人とも女性。
村をめちゃくちゃにした盗賊を捕まえられると思えないのも無理はない。
だが、ハンナはベアルージュ教のシスターであるし、マリリンさんはA級の冒険者でこういった討伐依頼を何度もこなしている。
見た目以上に能力は高いメンバーであり、依頼を受けるのに申し分ない実力はある。
それをどうやってこの人たちに説明しようかと頭を掻いていると、ハンナが一歩前に出た。
「私は、ハンナと申します!
ベアルージュ教のシスターです!
怪我をしている方は私のところまで来てください!
私の神聖術で治療します!」
ハンナは村人たちにニコリと微笑みかけながら元気に言った。
胡散臭そうに僕らを見ていた村人達も、ハンナの「ベアルージュ教のシスター」という言葉を聞いて表情が変わった。
どうやら、こんな田舎村でもベアルージュ教のことは知れ渡っているようだ。
そして、村人達の中から右手に包帯を巻いた若い青年がこちらに歩み寄ってきた。
「じゃ、じゃあ俺!
右手を怪我したんだ。治してくれないか?」
「はい!
今治しますね!」
すぐに青年に近寄って神聖術で治療するハンナ。
包帯を外した青年の右腕には紫色に腫れた深い切り傷があったが、ハンナの神聖術によって一瞬で綺麗さっぱり治ってしまった。
まるで最初から傷なんてついていなかったかのように治った青年の腕を見て、住民全員の顔つきが変わった。
「おい姉ちゃんすげえな!
俺の怪我も治してくれよ!!」
「あ、あたしも!
足の骨を折っちゃって……」
「すげえ人達が来た!
こ、この人達なら、本当に盗賊を捕まえてくれるかもしれないぞ!」
ハンナの神聖術を見て、一気に沸き立つ村人たち。
先ほどまで胡散臭い目を向けていた人たちはどこへやら、全員ハンナに群がるように集まりだした。
「怪我した人は私の前に順番に並んで下さーい!」
ハンナは昼にあれだけギルドで治療してきたばかりだというのに、まだ全然余裕そうだ。
ニコニコしながら村人たちを手招きしている。
「おい、コット君……。
勝手に治療されても、治療費を払う金なんてないぞ……?
金目のものは全部盗賊に盗まれたばかりでのう……」
ハンナに治療される村人たちを見ながら、不安そうに僕に言ってくるジョパスさん。
「いいですよ、お金なんて。
あれはハンナが勝手にやってるだけですから」
いつもであればハンナが神聖術で治療をすれば治療費の銀貨一枚を要求するところではあるが、今回はそのつもりはない。
ホワイトワークスはホワイトなギルドを目指しているので、弱者にお金を無理に要求するようなことはしない。
お金なんて払えるときに払ってくれればそれでいいのだ。
村は盗賊に襲われたばかりでつらいとき。
それに、こういうときはお互い様だ。
助け合っていこうじゃないか。
「ありがとう……ありがとう……」
僕の言葉を聞いて、その場で泣き崩れるジョパスさん。
僕はそんなジョパスさんを見て、ギルドを作ってよかったなと思った。
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