第二十話「コットの奥の手」
「はあっ!」
僕は掛け声に合わせて勢いよくレッドコングに向かって風魔剣を振る。
同時に風魔剣の剣身から風の刃が放たれ、中距離ほど離れているレッドコングに向かって一直線に進んだ。
ウホッ!
レッドコングは危険を察知したのか、風の刃が当たる直前に横に素早くジャンプして風の刃を難なく躱した。
近くにある大木の幹にしがみつき、そのまま木の幹から僕の所めがけて思いっきりジャンプする。
「やばいっ!」
僕はレッドコングがジャンプした瞬間、危険を察知して後方に全力で飛んだ。
すると数瞬前まで僕が立っていた場所目がけて、上空から飛来したレッドコングが両手を結んで作った大きな拳を勢いよく地面に叩き落とす。
ドゴオオォォォォォン!
レッドコングの拳を叩き落とされた地面にはひびが入り、物凄い振動が轟音と共に僕の所まで伝わってくる。
「コット!
大丈夫!?」
先を行くハンナがこちらを振り返り、僕を心配してくれる。
だが、僕はハンナに返事をする余裕はなかった。
おそらくこの一瞬が、レッドコングを倒すチャンスだからだ。
レッドコングが僕への攻撃を外して生まれた一瞬の隙。
この隙を逃す手はない。
僕は風魔剣を今度は三度連続でレッドコングめがけて振った。
それによって風魔剣の剣身から三本の風の刃が放たれ、レッドコングの心臓部を狙う。
いくらレッドコングが素早かろうと、攻撃直後の隙を狙った攻撃は躱せないだろう。
三回連続で風魔剣を振ったのも、躱しにくくするためだ。
予想通り、レッドコングは先ほどのようにジャンプして躱す余裕はなかったようだ。
しかし、僕の攻撃に反応はできていた。
風の刃が当たる直前に身体を屈め、大きな両腕を盾のように構えて全身を守るレッドコング。
そして、三本の風の刃はレッドコングの両腕に直撃した。
レッドコングの赤い体毛で覆われた両腕には傷ができ、傷から少し出血しているのが見てとれる。
「……嘘でしょ?」
僕は風の刃が三本もレッドコングの両腕に直撃したのに、両腕が切断されるどころか少し出血する程度に傷を抑えたレッドコングの頑丈さに唖然とした。
僕が持っている風魔剣は、とある
風魔剣は名前の通り風の魔法が使える剣で、略して風魔剣。
勢いよく振れば風の刃が放てるというのが最大の特徴なのであるが、その風の刃の威力が物凄い。
風魔剣から放たれる風の刃は、太い丸太ですら簡単に切断してしまうほどの威力がある。
そのため、これまで出会ってきた大抵のモンスターは風の刃で簡単に一刀両断できた。
B級以上の守りが堅いモンスターであっても、当たれば確実に血しぶきは上がる。
その風の刃を三発も当てたのに、傷が少しつく程度で済んでいるレッドコングの頑丈さには驚かされる。
こんなことは初めてだ。
ウホオオォォォォォ!!
レッドコングは腕に傷がつき、完全にキレていた。
体毛の赤毛は逆立ち、鼻息が荒く、顔も真っ赤になる。
そして、レッドコングはゴリラのように胸を両手で叩きながら、こちらを威嚇してきた。
まずい。
レッドコングは怒ると炎を吐くと聞く。
炎を吐く前にかたをつけたかったが、風の刃が効かなかったためそうもいかなくなってきた。
僕は頭の中で瞬時に、レッドコングの対処法を考える。
風魔剣の風の刃が効かないほど頑丈なモンスターが相手となると……もう
あれは体力を使うからあまりやりたくないのだが、緊急事態なので仕方ない。
僕は風魔剣を地面に放り投げて捨てた。
直立不動のまま両手を広げ、手を合わせて集中する。
身体の隅々にまで感覚を研ぎ澄ませると、段々全身から湯気が立ち上ってきた。
「コット!!」
後ろから聞こえたハンナの声にはっとして目の前を見ると、ぷっくりと頬をふくらましたレッドコングがこちらに照準を定めていた。
僕が瞬時に避けようとすると、レッドコングは逃がすまいと急いで僕にむかって口から炎を放射する。
「崇高なる慈愛の神、ベアルージュ様!
どうか、かの者をお守りください!
《
レッドコングの口から炎が放射されたとき、後ろからハンナの祈祷呪文が聞こえた。
それと同時に、僕の目の前に太陽のように発光する透明の壁が空中に浮かぶようにして現れる。
そして、目の前に現れた壁はレッドコングの炎を真正面から受けたのだった。
レッドコングの炎は物凄い勢いで壁に迫るが、壁はびくともしない。
なすすべもなく段々と勢いを落として消える炎。
この壁は先ほどの祈祷呪文から察するに、ハンナの神聖術によるものなのだろう。
ベアルージュ教の神聖術にこんな防御壁を張る技があるなんて知らなかったので驚いている。
正直、この壁が無くても僕は炎を避けることはできた。
だがハンナが壁を張ってくれたおかげで森が炎上せずに済んだ。
このハンナの働きはかなり大きい。
昨日あれほどモンスターを見ては腰を抜かしていたハンナが、今日は僕のサポートをするために防御壁を張るとは物凄い成長ではないだろうか。
それだけでもハンナを連れてきたかいがあったというものだ。
「ありがとう、ハンナ!!」
僕は後ろを振り返らずにハンナに感謝を伝える。
ハンナのおかげで準備は整った。
次は僕の番だ。
僕はレッドコングの炎が消えたのを確認して、すぐに壁の脇から飛び出した。
炎を吐ききって少し疲れた様子のレッドコングの隙を狙う。
ウホォ!?
僕があまりにも一瞬で間合いを詰めてきたものだから、レッドコングは驚いた顔をしている。
それもそうだろう。
僕は今、いわゆる覚醒状態というやつなので、先程までとは全く違う動きになっている。
人間の限界を超えた僕の動きは、傍から見たら瞬間移動のようにも見えるかもしれない。
「はっ!」
僕は掛け声とともに、レッドコングの顎を思いっきり蹴り上げる。
すると、レッドコングは僕の何倍も体が大きいというのに空中に浮いた。
空中に蹴り上げられたレッドコングは万歳した状態になり、心臓ががら空きになる。
当然、僕はその隙を逃さない。
がら空きの心臓に向かって、両手で掌底突きをする。
ウッ……ホ……。
レッドコングは息が出来ないのか、声にならない声をあげながらふっ飛ばされた。
そして地面をゴロゴロと転がり、回転が終わるとピタリと動かなくなる。
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