第十一話「朝のひととき」
ふと目が覚めた。
窓から日の光が差している。
どうやら朝になったようだ。
なんだか頭が痛い。
昨日はハンナが寝静まったあと、僕も一人でウイスキーを一本空ける程度にはお酒を飲んでいたからそれのせいだろう。
いくら美味しい年代物のウイスキーだったとはいえ、飲みすぎてしまったのは反省しなければならない。
昨日はハンナに飲みすぎを指摘したが、僕も人のことは言えないなと思った。
そして、ふと思い出す。
そういえば昨日、ハンナは最後、僕になんて言おうとしたのだろうか?
ハンナが途中で寝てしまって聞き取れなかったが、あれは何か重要なことを言おうとしていた気がする。
あのあとハンナを二階の客室に寝かせ、一人でウイスキーを飲みながらハンナが何を言おうとしていたのか考えてみたが結局分からず、僕は一人自室のベッドでもんもんとしながら眠りについたのである。
ちなみに僕の自室はハンナを運んだ客室と同じで、ギルドの二階に存在する。
宿に泊まっていたらお金がかかってしまうので、ギルドに住むことにしたのである。
つまり、この部屋はギルドマスター室兼僕の私室というわけだ。
僕の部屋はギルドマスター室というにはかなり手狭で、部屋に置いている私物が多く、物置のようになっている。
まあ、この部屋は寝るときくらいにしか使わないから狭くても問題ないだろう。
さて。
段々と目が覚めてきたし、そろそろ起きるか。
昨日のことはもう忘れよう。
ハンナも酔っていたし、あまり詮索するのも悪いだろう。
そう思ってベッドから出ようと腕を横に伸ばしたとき、手が何かにぶつかった。
手のひらに丁度フィットする、柔らかくて弾力がある何か。
触り心地が良くて思わず揉んでしまう。
一体何の感触だろう?
昨日寝る前にベッドに何かを置いた記憶は無いが、酔っぱらっている間に何か置いたのだろうか。
その柔らかい物が何なのか確認するため、僕は毛布を勢いよく剥いだ。
「んっ……んっ……」
毛布を剥ぐと、隣には僕に胸を揉まれて変な声を出しているハンナが寝そべっていた。
僕はその光景を見た瞬間、反射的にハンナの胸から手を離す。
「は、ハンナ!?」
僕が声を荒げて叫ぶと、ハンナはゆっくりと目を開いた。
「むにゃむにゃ……ん?
あ、コット、おはよ~」
ハンナは呑気にあくびをしながらにこりと笑って僕に挨拶する。
寝そべっているため、着ている白のワンピースが少しはだけていて、もう少しで胸が全て見えてしまいそうである。
そんな可愛らしいハンナの笑顔とセクシーな恰好にドキドキする胸を抑えながら、僕は口を開く。
「ぼ、僕は昨日、ハンナを客室に寝かせたはずなんだけど!?
なんで僕のベッドで寝てるの!?」
うーんと少し考えるハンナ。
そして、結論がでたのか僕の方を笑顔で見る。
「分からないや。
気づいたらコットの隣で寝てた!」
そんな無邪気なハンナの笑顔を見て、僕はため息をつくのだった。
ハンナは僕が男だって認識しているのだろうか。
いくら幼馴染とはいえ、若い男女が付き合ってもないのに一緒のベッドで寝るのはまずいだろう。
「まあ、昔はコットと毎日一緒に寝てたんだし、別にいいんじゃない?」
ベッドの上で起き上がり、伸びをするハンナ。
ハンナは僕と同じベッドで寝ることを全く気にしていない様子だ。
「昔って何年前の話だと思って……」
ハンナの言葉に突っ込みかけたところで、僕は違和感に気づいて口を閉じる。
何だかギルドの外が騒がしい。
まるで誰かを呼んでいるような声が聞こえてくるので、僕は耳を澄ます。
「おーーーーい!
まだやってないのかーーー!!」
「銀貨一枚持ってきたぞーーーー!
早く術をかけてくれーーー!」
「ハンナちゃーん!
治療してくれーーーー!」
僕は急いでベッドから飛び起き、窓際へと走り寄る。
窓を開くと、ギルドの入口には長蛇の列ができていた。
一体何人いるのだろうか。
軽く見積もっても五十人くらいはいそうだ。
おそらく昨日の東区の街での活動によって、ホワイトワークスならハンナの神聖術を銀貨一枚で受けられるという噂が一晩で一気に東区の街中に広がったのだろう。
しかしまさか、こんなに多くの人が集まるとは思っていなかった。
それだけ神聖術を受けたいが受けられない一般市民は多くいたということだろうか。
設定料金を銀貨一枚にしたのは成功だったのかもしれない。
「あ、見ろ!
窓から誰か出てきたぞ!
あの兄ちゃん、確かホワイトワークスのギルドマスターのコットだ!」
「おい、ギルドマスター!!
ハンナちゃんの治療を受けさせてくれーー!!」
列の中の何人かに見つかってしまった。
よく見れば重傷の患者もいるようなので、できるだけ早く対応した方がいいだろう。
「しょ、少々お待ちください!」
僕は慌てて窓を閉じてハンナの方を振り返る。
すると、ハンナはベッドを降りて腕を組みながら立っていた。
「仕事ね?」
ハンナは既に状況を理解している様子。
僕は首を縦に振った。
「起きたばかりで申し訳ないけど、いけそう?」
僕が聞くと、ハンナはニコリと笑った。
「もちろん!
その代わり、美味しい朝ご飯作っておいてね!」
そう言って、ハンナは僕の部屋を出て一階へと向かった。
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