第7話
そんな訳であくまでも休憩として外出することになった夫と私。夫一人で外出させても問題ないとは思うのですが、私が見張っていないとどこでも原稿をやり始めてしまいそうな気がしてなりません。
「なんだかこうやって並んで歩くのもいいね」
「そうですか? いつも一緒にいるじゃないですか」
「ふふっ、それとはまた違うんだよ」
夫はなんだか楽しそうな顔で話している。
「家で君といる分には家族という感じなのだけれど、こうやって外で歩いていると夫婦という感じがするんだよ」
「そんなに違いがありますか?」
「あるとも!」
ここ最近で一番なのではというくらいの元気な返事が返ってきました。
「家に家族がいるのは当然だろう? ただ外に出てまでわざわざ隣に並んで歩いているなんて、よほど夫婦らしいじゃないか」
「外に出ても常に一緒にいるとは限りませんよ?」
「別に並んで歩いていなければ夫婦ではないという訳ではないよ。たとえ離れていても夫婦であるという事実は変わらないからね」
あまり首を突っ込むと面倒な気のする話題でしたので、夫が嬉しそうにしているうちに黙っておくことにしました。あくまでも夫を休憩させることが目的でしたからね。
「休憩はともかく、君とこうやって出かけるのはかなり久しぶりな気がするね。一緒に出かけるのはいつ以来だったかな?」
「もしかすると初詣──いえ、春に桜を見に行ったのが最後ですね」
「そうか、あれが最後か。随分懐かしく感じるねぇ」
「誰かさんが家から出ないからです。私はいつでも行ってもいいんですよ?」
「いやぁ、原稿のことを考えるとどうしてもね」
それは私も分かっているつもりです。ですから特に小言など言わずに今日まで過ごしてきました。
以前述べた通り、一緒に生活していて大切にしていただいているという感覚がはっきりとあります。ですから多少不満や寂しさがあってもある程度我慢が効きくのでしょう。
「君としてはもっと出かけたりしたいかい?」
「私ですか? そうですね、可能であればもう少し出かけられるといいかとは思いますが……」
あまり夫に甘えてはいけないような気がして、わざとはっきりとは言い切らないようにしました。私は仕事の邪魔をしたい訳ではないのですから。
「そうか、それなら意識して増やしてもいいのかもしれないね。きっとちょっとした取材にもなるだろうし」
「それならいいのですが、仕事に支障が出てしまうのであれば無理しなくても……」
「何を言っているんだい。あくまでも私は君が一番だからね。自分の好きな仕事をしていることには間違いはないけれど、君との生活を守るためにしているということでもあるんだよ」
夫にしては珍しく、強めの語気を使って話しています。余程はっきりと否定しておきたかったのでしょう。
「だから、どうしても原稿制作で忙しい時は出掛けられなくなってしまうんだけどね。もしかしたら今と頻度はそんなに変わらないかもしれないけれど、そんな感じでどうだい?」
「……私は貴方がそれで良いというのなら構いませんよ」
「そうか、それじゃあそうしようか。不満があったらいつでも言ってくれて良いからね」
不満なんてそんなにありませんよ。むしろ世間一般からしたら大切にされすぎているのではとも思います。
「ところで、私たちはこれからどこへ向かうんだい?」
「特に決めてはいませんよ。ただフラフラと歩き回るだけです」
「ふむ。それならせっかく外へ出たことだし何か食べてから帰ろうか。帰ってから君に作らせてしまうのは酷だからね」
「分かりました。ただ和食以外にしてくださいね? 今夜は和食のつもりで食材を買ってきてしまったので」
「分かったよ」
こうして私たちは、夕ご飯のお店を探しながら散歩を続けていくのでした。
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