第29話 魔剣士が過去の仲間と対峙したら

「ふっ!」


「いいね!」


 互いの剣がぶつかり合い、そして弾かれる。


「前よりも強くなってるね。やっぱ、僕が作ったダンジョンを攻略したからかな?」


「確かにそうかもな」


「でも、やっぱり僕には及ばない」


「何を言って──っ!?」


 俺は命の危険を感じ、咄嗟に後ろに下がった。その瞬間、さっきまで俺がいた場所に何かが打ち込まれた。


「……糸?」


「そ、魔力糸さ。これが僕本来の戦い方」


 そう言って彼が腕を横に振るった瞬間、俺に向けて何本もの糸が押し寄せてきた。しかもその一本一本が空気に溶けてしまいそうなほど細いため見てから避けるのは困難だった。


「暴圧斬!!」


 故に斬るしかなかった。それも、刃こぼれしない為に細い糸に対して垂直に入るように、刃の傾きを数ミリ単位で調整しないといけない。


(だが……今の俺なら……!)


 俺には確信があった。刃こぼれせず、なおかつ斬った瞬間奴に肉薄できる。その腕が、俺にはあると。


「はっ!」


「なんだと!?」


 俺は迫り来る糸を全て一刀両断すると、そのまま足に力を込めて駆け出した。


「まさか斬るなんて思わなかったけど、そんなまぐれが二度も起きるわけがないっっ!!」


「っ!」


 さっきよりも数を増やした凶悪な糸が俺の体を突き刺さんと猛スピードで迫ってきた。


 加えて──


「滅魔斬!」


 魔王にとどめを刺した、勇者の技である滅魔斬を放ってきた。


「容赦がなくなったなぁ!」


「まぐれの可能性を少しでも叩き潰すんなら、このくらいしなきゃね!」


「だがなぁ──」


 俺は脳に魔力を流す。そして同時に身体強化を全身にかけ、この止まった世界でも十分に動けるようにする。


 目の前には止まったままの勇者。思考を加速させているだけなので本当に時が止まっているわけではないのだが、相手が思考を加速させ、それに合うように動かない限り、俺は好きなように動くことができる。






「──へぇ」


「っ!?」





 まぁ……そりゃそうだよなぁ。俺ができてこいつにできない道理はない。こいつは常に俺の先を行っているのだから。


「リオンもできるようになったんだ、これ。でもさ、何秒持つんだろうね」


「……言ってろ」


 俺は止まった世界の中で勇者と切り結び続けた。だが、そんな無限とも思われる斬り合いの中で、恐れていた事態が起こってしまった。


「っ!?」


「お、そろそろ限界が来たようだね。それじゃあ終わらせよっか」


「ま……だ……俺はっ……」


「さよなら」


「っ!」


 迫り来る勇者の剣を前に、俺は最後の力を振り絞り、刀を振るった。そして──





「────は?」




 斬った。




 ──




 パリンッ!とガラスが割れたような音と共に世界に色が戻った。その瞬間止まっていた勇者の攻撃が俺に迫っていたので、避けつつ後ろに下がった。


「……どう言うことだ……?何故、僕の思考加速まで解除されているんだ……?」


「はぁ……はぁ……ふぅー……」


 俺は息を整える。そして顔を上げてみれば、奴の顔は驚愕で満ちていた。


 さっきとは違い、これはできるとは思っていなかった。だってこれはただ魔法を斬るというのとはわけが違う。例えるなら、ゴブリンの体を傷つけずにゴブリンの心臓を微塵切りにするのと同じだからだ。もしかしたらそれよりも難しいかもしれない。


 体に、それも人体の中で一番大事な脳に刻まれた魔法を斬る。


 俺が振るった刀と奴の頭はかなり離れていたし、現に俺も奴の腕を斬らんとしていた。が、俺が魔力を過剰に流し込んでいた。だからこんなことができたんだと思う。……全ては予想でしかないが。


「……なんなんだ、さっきから。まぐればかり……!」


「……掴んだ」


 そしてさっきの一振りで俺は完全にそれの仕方を掴んでいた。対思考加速専用技で、長らくお世話になった刀教本に載っていた技──






 ────無考破を。



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