第30話 魔剣士が──
「……っ」
「
「ちっ!」
さっきまで余裕ぶっていた表情も、俺が無考破の
「なんなんだ……なんなんだ、さっきからァァァァァァ!!!」
「うおっ!」
そんな怒りが頂点に達したのだろう、突然奴は叫び、同時に魔力の波動を放った。俺はそれを真正面から受けてしまい、ダメージはなかったがそれでも後ろに強制的に下がらざるおえなかった。
「……なんで、なんでこれほどまぐれが起きるんだ……!?おかしいだろう……!?何故なんだァアアアア!!!!!」
そして勇者の剣にこれまで以上の尋常じゃないほどの魔力が流れ始めた。これが放たれたら下手したらこのダンジョンが消えるんじゃ……!
「「思考加速っっっ!!!」」
俺たちは同時に思考をもう一度加速させ、そして身体強化を施した。
「無考──」
「遅い!」
そしてすぐに俺は勇者の思考加速を解除しようとしたが、それよりも早く勇者が動き始めた。
「お前には恨みなどないが、それでも……僕の行手を阻むのならば──我に宿る、無限の闇を……数百年に及ぶ我が恨みを喰らえ!!デスホール・ビッグバン!!」
「っっっ!!!」
そう奴が叫び、剣を横薙ぎした瞬間、一つの小さな先が見えないほど黒い球が出現した。
「ははははははは!!!!!これで……この国全てを飲み込んでやる!!!!」
「ふざけるなあああああ!!!」
周りを吸い込みながら膨らんでいく殺戮の塊を前に高笑いする勇者。その姿はまさに魔王そのものだった。魔王を殺した張本人が魔王みたいになるなんてどんな冗談だ。
(……くそっ、一体どうすれば……もういっそ、これを壊すしか……ないっ!)
俺は刀を握る力を強めた。
「もう、この国は……この世界は終わりだアアアア!!!!さらばだゼン──いや!リオンッッッ!!!僕はこのデスホール・ビッグバンと共にこの世界を壊し尽くしてやる!!!ははあはははハハハハハああはははは!!!!」
その言葉と狂ったような笑いを最後に、奴の体が黒い球体に取り込まれ、消えてしまった。
「……チッ」
もうすぐ、このダンジョンもこの黒い球体に飲み込まれるのだろう。が、その前に俺が飲み込まれ、死んでしまう。
「……それだけは絶対に駄目だ。俺は、勇者に勝つ男だ」
諦めない。その想い一つで、俺はこの黒い球体と対峙する。
「……置き土産が凶悪すぎるんだよ、あのクソ勇者……──やってやる」
俺は懐からとっておいたポーションを取り出し一気に飲み、切れかけていた魔力を回復させる。
「ついでにっと」
そしてもう一つ。これはできれば使いたくなかったが、こうなって仕舞えば仕方がない。
「んむ」
俺はそれを口に含み、そして飲み込んだ。
「っ!!」
瞬間強烈な痛みが全身を走るが、それもすぐになくなった。と同時に内側から湧き上がる魔力。
これは一般では中毒性がある為違法とされる薬だが、用法さえ守ればその中毒性はないにも等しい、冒険者の間で言われている7つの暗黙の了解の一つだ。
「──よし」
体の内で荒れ狂う魔力を無理矢理統制させ、まずは思考加速を施す。
その瞬間世界から色が消える。前までは10秒しか持たなかったが今の俺なら1分以上持つだろう。持たなかった理由が魔力の少なさと熟練度にあったからな。それが今では両方達成している。
それと同時に身体強化も施した。いつも以上に体を強化しなければ最悪自分が放った技で死んでしまうからだ。
今から放つ技は刀教本の中でも極技と呼ばれる刀の使い手が達人と呼ばれるまでに成長して初めて放てる技で、それを無理矢理放とうとしている。
恐ろしいが、同時に楽しみでもあった。
一体俺がどこまで強くなったのか、その指標となるからだ。
死んだら俺はまだまだだった。かろうじて生きていたら、達人ではないがそれでも最初に比べたら十分近づいた。そう言えるからな。
「──さぁ……っ、やるか」
俺は目を閉じ、静かに青眼の構えを取って刀の切っ先を黒い球体の中心に向ける。腕が少しだけ震え、狙いが定まっていないが……それでも。
「っ!」
身体強化を更に一段階上げ、その震えを強制的に止めようとした。が、まだ震えが止まらない。
恐怖している……?いや──
「……行こう」
俺は今度こそ黒い球体に真っ直ぐ目を向け、そして──重心を下に下げた。
「──輪廻回廻」
瞬間、俺の姿はそれのそばまで来て──
吸い込まれそうになるのを喰いしばりながら、淡い水色に光る刀を振るった────。
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