第28話 魔剣士が真相を聞いたら
「……なるほどな」
「やっぱり、読んだんだね……あれを。ってことは会ったのかな?彼に」
「……そうだな。あいつは忘れてたぞ。お前のことを。最後には思い出していたが」
「そりゃそうだろうね。忘れさせたんだから」
俺には、目の前にいる彼が前まで一緒に冒険し、協力して魔王を討伐した彼とは思えなかった。それほどまでに俺の記憶にある彼と乖離していたのだ。
「なぁ」
「ん?」
だがこの際だ、俺があの日記を読んで感じた違和感を解消してもらおう。日記を書いた人物がこいつだと分かった瞬間感じた違和感を。
「俺には、お前がどうしても村が野盗に壊滅させられただけで国ごと恨むとは思わなかったんだが。実際はどうだったんだ?」
「……あぁ、そんなことか」
そう言うと彼はまるで俺を馬鹿にするように笑ってから持っていた鞄からあるものを取り出した。
「これだよ」
「……手紙?」
「そう」
はい、と言って彼は俺に手渡ししてきたので俺はそれを手に取り、書いてある内容を確認する。
「……」
「これがね、偶然見つかったんだよ。野盗の長を殺した時に」
「……なるほどな。だがなぁ……これだけだったら別に国ごと恨まなくても」
「ハハッ、やっぱり君もそう言うんだね」
俺が見た手紙。そこには貴族が野盗の長に送ったのだろう指示書のような内容のものが書かれていた。
それに対し俺の本音を言うと、さっきみたいに馬鹿にしたような笑みを浮かべ、今度はまた別のものを取り出した。
「……指輪?」
「そうだよ」
「……お前、何歳の時に村が滅んだ?」
「ハハッ、ようやく気づいたんだね。彼はこれを見せても気づかなかったけど。答えは18歳だよ」
18歳……成人してから二年が経った時に村を滅ぼされたのか。まぁ、これくらいあれば国を恨むにしては十分……なのか?
いや、よく思い返してみればこいつが最初に恨み始めた相手は指示した貴族か。最終的に国を恨むことになったが、元の思いはそれだった。
そしたらその貴族は国の中枢を担っているやつだった……だから国を恨み始めた、ってところか。あくまで予想でしかないが、目の前にいる彼の表情を見ればそれが正解だと言うことがすぐに分かった。
「僕はね、あの村が好きだったんだ。気の合う隣人に優しい大人たち──そして、生涯愛するはずだった、今でも忘れない、大好きだった彼女。その全てを奪われた。最初は貴族だけ殺せばいいかなって思ってたんだ。でもね、その貴族は結局国の中枢を担っていたにもかかわらず下っ端だった。ってことはもっと上がいる。それにね、僕のいた村以外にも野盗を仕向けていたらしくてね。幸い協力者はいっぱいいたさ。その結果がこれ」
そう言って彼は両手を大きく広げる。まるで自分の功績を自慢する、幼い子供のように。
今の彼は笑っていた。その笑みは今まで見たことのないような、純粋な笑みだった。
「僕はまだこの国を恨んでいる。僕が生きていた時代からどれほど時が経とうとも。ずっと、恨み続ける。それが僕の生きがいなんだ」
そして彼は勇者の時に使っていた、彼の象徴とも呼べる光り輝く剣を鞘から抜いた。そして前まで後ろから見ていた、彼が剣を構える姿を今度は正面から見る。
「別にね、あの日記を読まれたからって何も問題ないんだけど、けどさ、今のゼンの目を見れば分かるよ。僕を止める気だって。だったら、戦うしかないよね」
「……ゼン、か。懐かしいな。その名で呼ばれるのは。知らずにそう俺を呼んだのか、それとも知っていてそう呼んだのか、まぁどうでもいいが今の俺の名前はリオンだ。間違えるな」
「ごめんごめん。でもしょうがないじゃないか。それで慣れてるんだから」
「確かに。だが次から間違えるなよ。ま、果たして次があるかは分からんが」
俺は刀を鞘からゆっくり引き抜いた。ついさっき研いだばかりの刃が勇者の剣によって鈍く銀色に光った。
しかしその光は突如消えてしまった。
「教えてあげるよ。僕の本当の戦い方を」
そして勇者は剣に魔力を込め始めた。直後。
「……黒い」
「これが僕の本当の勇者の剣だよ」
「なるほどな」
どこかで聞いた……魔力の色は人の人格を示す、と。白に近い色であればあるほど純粋で、裏表のないいい人。逆に黒ならば──
「リオンは信じるかい?魔力は人を示すって定説」
「……今まで信じてなかったが、この瞬間から信じたくなったな」
「それはそれは。なんかごめんね?」
「いいさ。これで心置きなく斬れる。冒険している中で気づいてたと思うが、俺、一度お前に勝ってみたかったんだよな」
「知ってるよ、そんなこと。じゃあやってみなよ。できないと思うけど」
そして俺は一度深呼吸し、駆け引きなぞいらないとばかりに、一気に勇者との距離を縮めた。
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