第10話 魔剣士が戦いを終えたら

 「……」


 俺は静かに、灰となっていく合成獣キメラの死体を眺める。今回の戦いは反省点が多すぎた。何度も死線をくぐり抜けてきたが、この一年でその感覚が鈍っていたのだろう。これからはもっと気をつけなければならないと、そう戒めた。


 「……終わったね」


 「ああ。ようやくこれで、依頼達成だ」


 「はぁああぁぁぁぁあ……疲れたぁ」


 そう言ってベリアはフラフラと地面に座ってしまった。俺もそれに釣られて思わず座りそうになったがなんとか持ち堪えて、合成獣キメラの消えた跡へと向かう。

 そして中央に何やら二つの光る何かが見えた。俺はその場所へと向かい、その二つを手に取る。

 

 紫色に光る涙のような石……おっさんの言っていた特徴とぴったり当てはまる。これが悪魔の雫デビルズライか。


 「二つもドロップしたのか……」


 「え!?二つも!?すっご!!」


 まさか二つドロップするとは思わなかったベリアはかなり驚いた表情でこっちを見ていた。かく言う俺も、まさか二つドロップするとは思わずため息を吐いてしまった。


 「でもこれ売ってもあんま金になんないんだよなぁ……」


 そう、この新緑のダンジョンのボスでドロップするこのアイテムの利用価値はそんなに無く、一部のコレクターにしか需要がない。


 まぁ、ここでドロップするアイテムのほとんどが未だ解明できていないものばかりだと言うのが原因で、ちゃんと売ろうとしてもいくつかの公的機関を介して出ないと売ることができないのだ。


 しかし、なんで鍛冶屋のおっさんはこれを欲しがってたんだろうか。


 「新緑のダンジョン……さっさとダンジョンコアをぶっ壊した方がいいんじゃ……?」


 「で、でもそれはダメだと思うよ!?」


 と、俺がボソッと口にしたことに何故か慌ただしく反応したベリアに少しだけ疑問を抱いたが、気にせずその理由を聞いてみることにした。


 「だって、もし仮にダンジョンコアを壊したらさ……領主様が飛んできそうじゃない?そしたら面倒じゃん?」


 「……なるほど。それもそうか」


 確かに、ダンジョンを攻略した際にダンジョンコアを壊すか否かはその当事者に任されているが、もしそのダンジョンが街の事業とかに深く関係していたのならば、もし壊した際には重罪になる恐れがある。


 でもこのダンジョンが街を潤しているわけでもないし、逆に魔物が溢れそうになりそうだし、ここでこのダンジョンは壊した方が良さそうに思えるのだが……彼女の意見はどうやら違うようだった。


 「このダンジョンのコア壊したとて、また生まれるでしょ?どうせ」


 「……まぁ、魔の森だしなぁ」


 ここの森が保有する魔力を舐めてはいけない。ここにダンジョンがあるからいいものの、もしこのダンジョンがなくなってしまったら魔の森の別の場所にダンジョンができる可能性がある、と彼女は言いたいわけだ。


 また新しくわからない場所にできた時また探すのが面倒だということなのだ。


 「……そっちの方が危険なのか」


 「でしょでしょ!だからさ、もうお目当てのもんは手に入れたんだからさ、帰ろうよ。疲れたし」

 

 「……はいはい。そうだな。まぁ、金になるようなもんは多少手に入ったしな」


 「そうそう。全部私の収納魔術にしまってあるけど」


 「お前、持ち逃げすんなよ?半分くらいやるから」


 「分かってるって」


 俺たちは十分に休憩した後、ダンジョン最奥にある宝箱の中身を取って帰還するための石板に乗って、地上へと戻った。


 「あ、やっべ……すぐに帰ろう」


 「……そうだね」


 そして転移先で目の前にいたハイウルフを避けてさっさと魔の森から脱するべく、全速力で森の中を駆けた。






 「ほい、約束のやつ」


 俺は着いてすぐに鍛冶屋のおっさんのところへと出向き、言われていた悪魔の雫デビルズライを渡した。


 「おう。あんがとな。これで正式にその刀、いや、妖刀武蔵はお前さんのもんだ。メンテとかはきたらしてやるよ。ただし、金はとるがな」


 「そんな金取るのなんざ当たり前だろ。何言ってんだ」


 「お前さん、これに目をつけてメンテも無料にしろとかいいそうだったな」


 「んなことはしねえよ」


 少しは期待したけど。

 そして俺の手にはもう一つの悪魔の雫デビルズライがあったがそれはどうするのか聞いてみると、


 「それはお前さんにやるよ。いつか必要になる時が来ると思うからな。ま、そんなのは勘なのだがな。ガハハハハハ!!!」


 「勘って……」


 「俺の勘は結構当たるんだぜ?この前の闘技大会の優勝者だって勘で当たって儲かったからな」


 「……」


 俺はなんとも言えない気持ちでおっさんのことを見た。一気に俺の中でこの人は残念な人という印象が植え付けられた。

 そんな風に思っていることに気付いたのかは知らないが、おっさんはバツが悪そうな顔になってから、誤魔化すように言った。


 俺は気まずい空気を変えるため、話題を変えることにした。


 「そういえば、この妖刀ってどういう意味なんだ?」


 「あん……?」


 そう聞くとおっさんは少しだけ考えるような仕草をした後、静かに口を開いた。


 「そりゃあ、その方がカッコよくないか?」


 「……期待して損したぜ」


 もっと深い意味とか、隠された力がある、とか期待したんだが……それがこの目の前のおっさんによってあっさりと砕け散ってしまった。


 俺は一言悪態をついてからこの鍛冶屋を出たのだった。








 


 それから二週間後。俺はC級のクエストをいくつかこなしながら酒を飲むという、前とほとんど変わらない生活……いや、一つだけ違った。

 それは、毎朝刀を素振りすることを始めたのだ。


 合成獣キメラ戦での心の揺れは刃までも揺るがせていたのだ。あの、空中で奴の首を斬ろうとした時、焦らずに冷静だったら、もっと抵抗感なく斬れたはずだ。もしかしたら、それで倒せたのかもしれない。


 しかし俺はあの時焦って刃を鈍らせた。それがあの失態に繋がったのだから、俺の精神の未熟さを思い知らされた気分だった。まだあの時ベリアの方が冷静に状況を俯瞰して見ていた。


 「ふぅ……」


 俺は今、刀教本に載ってあった基礎中の基礎、精神統一を完全にマスターすべくこうして朝に素振りを行っている。

 いつでも落ち着けられるように。そしてもう二度と、そばにいる人を危険に──って、何考えてんだろうな、俺は。



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 明日はストックが減ってきたのと思った以上に☆が増えなくなってきて萎え始めてきたので休みます。

 次回の更新は明後日の17:00です。

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