第11話 魔剣士がまたダンジョンに向かったら
一年も経てばここにも探しに来るのかなと思っており、実際に来たが、その時俺は街の外にいた。
そんなんだから、もう俺を探そうとしている人はかなり少なくなっている。いいニュースだ。
そんな俺は今、あの時の後悔を思い出しながら自分に足りない部分を探りつつ去年と変わらず妖刀武蔵で素振りをしていた。
なんでそれで素振りをしているのかと言うと、この街には木でできた刀──木刀が存在していないのだ。鍛冶屋のおっさんに作るよう頼んでは見たものの、返事はいいものではなかった。
なのでこうして鞘に納めたこの刀で素振りをしているわけだ。
そんな俺は近々、また新緑のダンジョンに行こうと考えている。理由は
あの戦いは結果的に勝ったはいいものの、いろんな課題を俺に与えてくれた。言うならば、試合に勝って勝負に負けた、みたいな。
俺が先に進むために、今度はべリアの力を借りず、
それに、一年も刀と向き合って、刀の為に酒を我慢し、刀を振るう上で必要のない雑念を払い、刀を持っている時とそうでない時の集中のスイッチを自分の中で作ったりと、いろんな修行をしたのだ。ちょっとは成長したかどうか見てみたいという願望もある。
「……よし」
今回は一人なので、前よりかは速くダンジョンを攻略できるはず……休まずにボス部屋まで行くのならば。体力だったら勇者パーティにいた頃に二日以上ぶっ通しで戦ったりしてたので走るだけなら5日くらい行けるはずだ。しかし魔力が圧倒的に足りない。なので今回はどうしても野宿をするしかない。
こう考えると、道中野宿をする場合に限って、やっぱりソロってキツイんだなと痛感してしまう。
そして準備を終えた俺はその次の日には街を出て、新緑のダンジョンへと向かい始めていた。そして前よりも速いペースで進むこと6時間。俺は既にダンジョンの入り口の前まで来ていた。
「……さっさと行ってボス部屋前で休むか」
俺は身体強化をかけて、食料などを入れたバックを背負って一気に駆け出した。
周りの景色が一気に変わっていく。より速くしっかりと走れるようにと、ここに来る前とは違い今度は暗い中でも視界を確保できるように、身体強化を重点的に足と目にかけている。
二層への階段を見つけたのはダンジョンに入ってから2時間くらいが経ってからだった。前とは違って俺は臆せずに前に進んでいく。そして目の前に広がってきたのは前と同じ風景。
初めて見た時のような感動はなかった。これも一人でいることの弊害なのだろうか、と不意に思ってしまった。何故だろうか。
一人でいることはスラムにいた時は当たり前だったのに、少しだけ寂しいと思ってしまう自分がいる。
俺はそんな自分の感情を一旦無視して先へ進む。
流れる景色を気にすることなく先へと進んで、2時間後。
「みっけ」
三層への階段へとたどり着いた。ここまでは順調。だが、魔力がかなり心許なかった。
「これ以上使っちゃうと欠乏症で死ぬな」
魔力切れで死ぬなんてことは冒険者にはよくあることだからな。
「休も」
と言うわけで、今日はここでテントを貼ることにした。1日で三層まで来れたのはかなりペースが早いと見ていいだろう。
魔物対策は……あ、魔術があった。
最近身体強化しか使ってこなかったので魔術の存在を忘れかけていた。もう身体強化は魔術として認識していなかったし。
「取り敢えず落とし穴っと。後は、ここら辺にトラップとして炎柱の魔術式書いと……いや」
俺は寝ている間周囲を守るために魔術を使おうとして、やめた。
魔術は身体強化しか使わないと決めた。それを曲げてしまえば、刀を極めることができない。
「……うん。よし、後は飯食って寝るか。酒飲みてぇ〜……」
俺はさっさと飯を食べてから体を休ませるべく、すぐに寝たのだった。
二日目。
運良く魔物に襲われなかった俺はテントを片付け、軽く朝飯を食べてから身体強化を目と足に重点的にかけて昨日と同じようにダンジョンの中を駆けた。
昨日とは違って今日は最初からダンジョンの中なので魔力にも余裕がある。故に昨日よりも進めるだろう。
そして順調にどんどん階層を降りていき、今日はなんと八層まで行くことができた。
そのまま九層に行こうとしたが突如俺の道に割り込んできた魔物と戦闘になり魔力を使ってしまい九層に行く分の魔力がなくなってしまったのだ。
仕方なく今日は断念してここで野宿することにした。
三日目。
今日はさっさと十層に行って休むために片付けてからすぐに駆け出した。そしてこのダンジョンに入ってから一番の速さで駆け抜ける。
なんだか入る前よりも身体強化の効率が上がっている気がする。視界もよりはっきりと見える気がするし。
そして走ること3時間。ようやくボス部屋の前まで辿り着くことができた。俺はさっさとテントを貼ってから刀の手入れをする。斬れ味が悪くならないように、念入りに。
「……うん、よし」
どこかやり残しがないか確認し終わったら、そのまま立って素振りを始める。
そしてふと気づく。さっき身体強化を目にやったが、もしそれを脳にかけたらどうなるのだろうか、と。
試しにちょっとだけ脳にかけてみる。
「っ!?」
その瞬間全身から入ってくる数多の情報が俺の頭に入ってきて、脳に負荷をかけた。それに体が耐えられなかったのか、鼻血が出てきた。
俺は鼻血をすぐに処理をしてから、さっきのことを考える。
脳を強化したその瞬間見えた光景はまるで別の世界だった。全てが色褪せ、止まったかのように見えたその世界こそ、俺が刀を極める上で目指すべき世界なのかもしれないと思った。
あれをしっかりと制御できるようになったら俺はもっと先へ行けるのではないのか、と。しかしそう考えて、俺は一体何の為に刀を極めようとしているのかと考えてしまった。
俺が目指しているもの……最初はスラムから抜け出すために冒険者になった。なった後はとにかく名声と金を手に入れてちゃんとした生活を手に入れるためにソロでB級になった。勇者パーティに誘われた時は……これも名声のため、だっけ。でも途中から仲間を死なせないために変わった気がする。
そして冤罪で指名手配された後は……とにかく逃げるため。生き残るため。それだけのために俺は強くなろうとした。
強くなるために行動し始めた時はいつも何かしらの理由があった。
しかし今回は?何もない。それが答えだった。大切なものを守るため、と言うのが一瞬頭の中に浮かんできたが、何故それが出てきたのか俺自身もよくわからなかったのですぐに頭の中から捨てた。
強さを渇望している理由。刀を極めようとしている理由。何も考えずに強くなろうとしたってなんの意味もないし、強くなれない。
「強くなる理由……か」
もしかしたら、今回のソロでの
俺はそんな淡い希望を見出していた。
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