第5話 魔剣士が刀を使ってみたら

 「今日からそれはお前さんのだ。好きに持っていけ。但し、悪魔の雫デビルズライを持ってこなければ、衛兵に訴えるからな」


 「分かっているさ。それくらい」


 「後、言いそびれたが、身体強化の魔術くらいなら使っても問題ないはずじゃぞ」


 「は!?おまっ、それは先に言ってくれよ!」


 「但し、呼吸するように使えることが前提だがな」


 「……」


 俺はそう言われて、加えて言おうとしていた文句を飲み込んだ。魔術を呼吸するように使う、と言うのはかなり難しい芸当で、それが出来るようになれば他の魔術師よりも二歩三歩進んでいる事になる為、皆それを目指して日々精進している。

 が、それでできるようになる人はほんの一握り。魔術階級を一級から一段に上がるよりも難しい。

 呼吸するようにできるってことは、それほど魔術と向き合ってるからとも言えるからな。

 魔術を使うほとんどの人は戦闘や日々の生活のためでしか使うことはない。宮廷魔術師などの専門家や、魔女は別だが、全魔術師はそのになりたいのだ。


 「呼吸するように身体強化、か。まぁ、昔それを目標にしてた時期もあったし、もう一度頑張ってみようかな」


 「少しは試し切りしてきたらどうだ。メンテナンスの方法などはその後に教えよう」


 「分かった。色々ありがとう」


 「何。悪魔の雫デビルズライが手に入るんだ。それくらいやるさ」


 「てか、その悪魔の雫デビルズライってなんなんだ?」


 「ん?ただの素材だ。気にすんな」


 「特徴とかは?」


 「その時に言う」


 「分かった」


 俺はそう言って、刀を手に店を出たのだった。




***


 「──、──────」


 「ふん、お主には恩があったが故、したまでじゃよ」


 「────。──────?」


 「お安い御用じゃ。それくらいならな。あやつが悪魔の雫デビルズライを手に入れた際にもう一度……今のお前さんを知るものはこの街にはいないのだから、こうやって隠れてないで来い」


 「────。──」


 「またの。最優の」


 そう彼が言うと、一人の気配が店から消えた。

 そして店の主であるドワーフは、静かに息を吐いたのだった。







 「──いつだって緊張するのぅ。は」


***




 俺は店を出てすぐにいつもの草原に来ていた。俺はそのまま奥へと進みながら静かに刀を鞘から抜いた。


 「ぶっつけ本番は無理だろうし、ここで軽く素振りでもするか」


 俺はおっさんから教えてもらった、正眼の構えをとる。

 目を瞑り、高ぶる感情を鎮める。





 深呼吸。





 精神統一を終え、俺は静かに目を開く。そしてゆっくりと刀を振り上げ、その動作を確かめるように、静かに振り下ろす。

 刀をより効率よく極めるには、この素振りとあとは実践だとおっさんは言っていた。俺に実戦はまだ早い気がするし、何より身体強化を自然とできる用にならないといけない。まだまだその域には達していないが、これでも一段の壁を越えた魔術師だ。絶対に物にしてみせる。

 

 俺は気を取り直して素振りに集中する。雑念はいらない。ただただゆっくりと、刃の通りがブレないように。

 と、俺が動きを確認しながら素振りすること10分が経った時、そいつは現れた。


 「ギャギャギャ!!」


 「……ゴブリンか。それも3体。試し切りには丁度いい」


 俺はゴブリンに向けて正眼の構えをとる。そして一直線に奴らのうちの1体に突っ込み、斜め上から一気に振り下ろした。


 「ギャっ!?」


 刃の通りが少し悪く、最後あたりが力ずくになってしまった。つまり斬っている途中からブレたのだろう。しかし最初なんてそういうもんだ。うまくいくわけがない。


 俺はそう自分の中で反省を終え、すぐに残りの2体に目を向ける。

 今度こそ。


 「フッ!」


 俺は一呼吸で奴らの目の前まで移動し、そのうちの1体の首を刎ねる。今度はブレずに刃が通った。


 そして俺は斬った際の感触に驚いた。まるで抵抗がなかったのだ。バターのようにスッと、ゴブリンの首を刎ねることができた。


 「……全ては技量、か。これを当たり前、いや、これ以上を当たり前にしなければ」


 俺は残る1体に目を向ける。するとやつは俺の眼光に慄いたのか、逃げるそぶりを見せた。


 「逃すものか」


 俺は瞬時に先回りして奴の胴を横一文字に真っ直ぐ斬り、上半身と下半身を分離させた。

 ゴブリンは悲鳴をあげることなく絶命した。


 「………」


 俺はおっさんから貰った手拭で刀に付着した血を拭き取り鞘に納めた後、そのゴブリンの死体を眺める。正確にはその切り口だが。

 目に魔力を流して一時的に視力を上げる。そうして改めて死んだゴブリンの傷口見ると、やはり少しだけブレていた。どうやら斬る最中、少しだけ刃の通りがずれているようだった。


 「よし」


 改善点が見つかった。俺は鞘からさっき納めたばかりの刀を抜き、さっきのように正眼の構えをとる。


 そしてまたゆっくりと素振りをする。さっき失敗した箇所を念入りに。


 「……っ」


 しかし最後までそこだけ直ることはなかった。途中またゴブリンがやってきて、そこでまた刀を振るったが、また少しだけブレてしまった。どうやらこれは魔剣士時代の頃からあった癖なのだろう。これを正すのはかなり厳しそうだ。


 「……面白い」


 だが俺の心に住み着いた昂揚感が消えることはなかった。


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 明日は17:00に第6話、18:00に第7話を投稿します。

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