7.
僕はメタトロンの撃った射線を割って扉を開き、銃弾をその中へ入るようにする。
そしてウリエルの至近距離で出口を開く。彼はそれを認識できたようだが、やはりかわす暇はなかったようだ。
銃撃の雨をまともに受けたウリエルは胴体から血を吹き出して倒れた。
「き……貴様」
メタトロンは激昂し言葉にならない叫び声を上げながら銃を乱射するが、冷静さを欠いた状態では当たるものも当たらない。
走って銃撃を避けながらメタトロンに接近し、籠手を銃に変え彼の足を狙う。
当たれば御の字だと思っていたが、二発ほど命中。メタトロンは痛みにうめき銃撃が止む。
その隙に目前まで近づき、自動小銃をつかみ銃口をそらし持ち手に膝蹴りを入れる。
それでも離さなかったので肘めがけて蹴りを入れるとようやく力が抜け、小銃を奪い取った。
適当に小銃を放り投げ、正拳で殴りかかるがまだ余力を残していたのか、メタトロンは受け止めた。
足を入れ替え回転しながら裏拳の要領で肘打ちを入れるが、それも受け止められた。
両腕をつかまれ、磔のような格好にされる。
が、こうなれば後はどうとでもできるので、両手の籠手を刀に変形する。
いつものように逆手持ちで変形したので、切先がメタトロンに深々と突き刺さったことがわかった。
僕はそれを上向きに手首をスナップし、メタトロンの胴体を切り裂く。
彼は僕の腕を離して、そのまま倒れ込んだ。
振り向いて確認すると胴体が凹のような形で二分割されていた。
刀を元に戻し、刃についていた血がその場に浮き上がり地面へ滴り落ちる。
僕は側廊に避難させていた
「怪我はないか」
「……ええ、はい」
「すまなかった。どうやら僕のホログラフィック・パネルから位置情報が割れたらしい。君のも危険だろう。電源は切ったほうが安全だ」
居場所が相手に知られた原因はそれが真っ先に挙げられるだろう。もっとも、この情報氾濫社会では、どこからどう漏れてもおかしくない。
「……あれ、死んでるんですか」
「ああ……手加減する余裕もなかった。それに生かしておいても危険なだけだ。殺したほうが安全だろう」
いってから、気づく。未夜世が何を考えていたのか、何に怒っていたのか。
「人を言い訳に使わないでよ……」
「……何だって」
彼女は小さな声でいった。最初は聞こえなかったが、次の台詞は鼓膜が痛むほどの声量だった。
「あなたが人を殺すのを私のせいにしないでよ!」
率直にいえば、驚いた。僕はそんなことをいわれると思っていなかったからだ。
「人殺しなんて正しくないことを誰かのせいにして正当化しないでよ。自分で自分の行動に理由が与えられないなら初めから助けようとしないでよ。あんたみたいに正義も貫けないやつが私を守ろうとしないでよ」
「未夜、世……」
僕は彼女に手を伸ばす。だが、この手は彼女に拒絶される。払いのけられた右手の痛みが、熱い。
「触らないで。気持ち悪い……」
瞬間、僕の中の何か大切なものが壊れる音が聞こえた。
朽ち果てた柱で支えていた張りぼての城が、ついに折れて崩れ去る。長い間支えていたそれが心にのしかかり、僕の砂づくりの土台を打ち砕いていく。最初から空虚な洞だけがそこにあったかのように、僕のすべてが失われていった。
「……そうか」
僕はいった。
「すぐに逃げるといい。できるだけ遠くに。後はすべて僕が引き受ける。組織は裏切りを許さない。だから僕を追うほうが優先度が高いはずだ。君のほうはうまくごまかせるだろう」
未夜世が生き残るために必要と思われることを伝えて、僕は撃ち抜かれ取手すら残っていないドアから教会を後にした。
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