2. High Hopes

1.

 遊園地で、姉と一緒にいる。僕はいろいろなアトラクションに目が惹かれ、ひとりであちこち動き回っていた。そのうち、姉とはぐれていることに気づく。僕が泣いていると、姉が笑いながら現れた。どこに行っていたのか訊いても答えてくれない。だけど、僕は姉が一緒にいてくれるだけで安心できた。

 ずいぶん昔の夢を見たような気がする。姉と最後に遊園地に行ったのはいつだろうか。もうわからない。

「今日の依頼は一件だ。終わったら報告して上がれ。それと……」

 ボスのデスクの前で、仕事の命令を受けていた。ボスは続ける。

「例の我々を調べ回っている不審人物の件だが、今日片がつく。資料に添付しておいたから、その場所には近づくな」

 僕の“能力”は空間をある程度自由に移動できる。だから使い方次第では、ある場所にいる人を数十キロメートル離れた場所に送り込むこともできる。それも一瞬のうちに。送る場所は僕のさじ加減なので、例の不審人物を始末する場所の近くに送り込むなという指示だ。

「了解」

 命令を受けてボスの部屋から出る。

 事務所を出ようと一階に降りて、通路を歩いているとラファエルが話しかけてきた。

「ねえ、ガブリエル。これ見てほしいのだけど」

 そういって見せてきたホログラフィック・パネル(注・この世界におけるスマートフォンのこと)の画面には、昨日僕と未夜世みよせが男に襲われた場面が映っていた。

“扉”を開き、その中を通って男が転ぶ場面までしっかりと記録されているようだ。

「これ、まずいんじゃないかしら。普通の人には『固識の路ゼルプスト』の“能力”は見えないんだし。ただでさえ私たちの仕事は面が割れたらまずいのに、こんなふうに目立ったら大問題よ」

固識の路ゼルプスト』。私たちのような特殊な“能力”を持つ人間の総称。この『エイブラハム』という組織は、所属するメンバー全員が、『固識の路ゼルプスト』である。

 そして、『固識の路ゼルプスト』の”能力”は普通の人間に知覚することはできない。これは”能力”を持つものの間では常識であり、『固識の路ゼルプスト』が表に出ない理由でもある。

 ”能力”は普通の人間からはただの異常としか映らず、ゆえに迫害される。そうして能力者はお互いの身を守るために能力者同士で集まって組織を作るのが常態化している。

 ラファエルがいいたいのは、こうして人間に“能力”を使っているところを見られたのでは、組織にまで危険が及ぶ、ということだろう。

 見たところこの動画が上げられている SNS ではあまり拡散されている、というわけでもないようだ。しかし何かのはずみで一気に拡散することもある。

 僕は、ラファエルがあえてこのことを伝えてきた意図を捉えかねていた。

「何がいいたい」

「まあ、私の仕事柄こういうのをチェックするのも業務のうちだし。私のほうで始末してもいいけど、代わりに条件があるの」

「……条件?」

 僕はラファエルのいったことを繰り返した。

 彼女はショートボブのブロンドヘアを揺らしながら、笑顔でいった。

「今日、私とご飯に行かない?」

 どんな条件が出るのかと身構えていたが、思わずため息をついた。

 だが、断るわけにもいかない。僕はいった。

「……わかった。詳細はメッセージで送ってくれ。僕は仕事の時間だ」

 ラファエルは返事に対して明るい表情を浮かべて、いった。

「わかったわ! すっごく楽しみ。約束よ!」

 やはりこの人はわからない。

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