第13話 秋終わり馬肥ゆ―5

 ダタール・ハリの会場から北に五キロ。河口の三角州の中央にあるアルサーク城を円で囲むように街が広がる王都アルター。

 その外側を高い壁が囲み、壁の東西に堅牢な城門が備えられている。さらに外側は川に守られ、さながら天然の堀のようである。

 

 リサン達は、中洲を中継する橋を渡り、東門からラタジーレの先導で王都に入った。


「リサン殿。向かうのは第二騎馬隊の厩舎でしたな?」

 道中どこに向かうか聞いていたラタジーレだったが、念のためリサンに確認する。


「ええ<槍騎兵>の所です。確かラタジーレ殿の兄上が隊長をされているハズですよね」


「ええ、そうなんですが、あまり会いたくはないですな」

 頭をかくラタジーレ。

 どうやらラタジーレは兄を苦手としているらしい。


「まぁ、そう言わず。これは第二騎馬隊にとって、良い話ですから」

 そのように話していると、王宮裏手左側にある<槍騎兵>の隊舎と騎馬厩舎が見えて来た。


「では、交換馬のリストを渡しますので、そのまま隊長室に届けてください」

 ラタジーレに国王側の交換馬リストを渡し、ラタジーレの兄であるチャタニール・ロック隊長に新馬の交換を願い出るように頼んだ。

 そして、リサン自身は騎馬厩舎に向かい、厩舎到着と同時に馬降りて、馬房を一つ一つ見始めた。


 それから少し経って、リサンがあらかた馬を見終わったころ、チャタニール隊長がラタジーレと共にやって来た。


「確かにリサン殿だ。ラタよ? お前、本当の事も言うのだな?」


「仕事中だ。嘘を言う訳がないだろ。全くいつまでも子供扱いして、これだから会いたくなかったんだ」

 そんなムクれるラタジーレの頬を、両手で挟み込むチャタニール。


「ぶふぅっ! 何すんだよ兄さん!」


「ほら! すぐムクれる! 俺から見たらまだまだ子供さ。いくつ離れていると思ってるんだよ」

 ラタジーレは二十五歳、チャタニールは四十歳とリサンは聞いている。十五も離れていれば確かに子供のように思うかもしれない。


「仲が良いですね」

 このまま兄弟二人だけの時間が続く事を恐れたリサンは、二人に声をかけた。


「リサン殿そんなこと――」

 

「そう仲がいいのだよ。すまんなリサン殿。兄弟だけの世界に入ってしまった」

 否定しようとする弟の言葉を遮り、しっかり仲良さアピールをする兄チャタニール。憮然とするラタジーレ。『ここでスルーしないと危険だ』とリサンは強引に本題の話に移った。


「チャタニール殿、交換馬のリストは見てもらえましたか?」


「ん? ああ! 見せてもらった。どれも走力星五ののすばらしい馬だ。持久力も星一ではなく星二もある。頑強さも四~五あるし、<槍騎兵>として馬として最高だ! でもいいのか? このリストの馬より、良い新馬は我が厩舎にはおらんぞ?」

 心配そうに尋ねるチャタニール。


「いえ心配ご無用です。<槍騎兵>として良い馬でなくても、偵察や伝令が主な仕事の第三騎馬隊<軽騎兵>に必要な馬は沢山います。これがリストです」

 厩舎に来てから、二人が来るまでの、その短い時間で書き上げたリサンのリストには、すでに百頭の馬の名前が書きこまれていた――


~<槍騎兵>と<軽騎兵>について~


 そもそも<槍騎兵>と<軽騎兵>の必要とする馬の能力は全く逆である。反対に王の<近衛兵>と<軽騎兵>は似ている。

 <近衛兵>は王の安全のため機動力と持久力の高い馬が欲しい。

 <槍騎兵>は集団突撃の威力を上げる為、走力の高い馬しかも同等の走力をそろえたい。

 <軽騎兵>は偵察や伝令の為、長距離移動の持久力と機動力が必要。だから今回王から押し付けられた走力の高い馬を有用としている第二騎馬隊に渡し、代わりに必要としない持久力の高い馬をもらう。


 特能鑑定士が集めた『走力星五の馬を<槍騎兵>が断るわけがない』とリサンは考えたのである。



 ――リストをもう一度、見直したチャタニールが、顔を上げた。


「よし良いだろう交換成立だ!」


「ほ、本当か! 兄さん!」

 チャタニールの答えに喜ぶラタジーレ。


「ああ、本当さ。でも、これはお前の為じゃない。ちゃんと交換条件が合致したからだ。リサン殿に礼を言うのだな」

 そう言ってリサンを見るチャタニール。すぐさまリサンの手を取るラタジーレ。


「ありがとう! さすがリサン殿だ。何とかしてくれた! ささっ、今夜は祝いだ! おごりますぞ!」

 手を『ブンブン』上下に振って喜ぶラタジーレに、リサンは心の中でつぶやく。

(早くナルフに馬を届けたいのだがな、こりゃあすんなり返してくれそうもないな)


 『ハァ』と溜息をつくリサンなのであった。

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