第12話 秋終わり馬肥ゆ―4

 ラタジーレは、王宮での出来事を話し始めた――


 馬の市中日なかび

 新馬の買い付け状況を、報告する会議の場に国王以下関係者が集まった。さすがに王宮では王子も体を清潔にし、正装にて参加している。


「何っ! 一頭も見つからなかっただと!」

 エスターの報告に、顔つきが厳しくなるアルサーク国王オリギフ・アルサーク。


「ハッ、申し訳ありません王様。三日間のすべての競売場の鑑定を<特能鑑定士>総出で行いましたが、走力と持久力合わせて星八つの馬はいませんでした」

 玉座前の赤絨毯の両側に並ぶ殿下たちの末席で、右腕を胸に当て頭を下げるエスター。

 国王は、その報告を聞いて溜め息をつく。


「まぁ仕方ないか、運もあるからのう。エスター楽にせよ、馬のリストをここへ!」

 小性が王に馬のリストを手渡した。


「リストにある100頭すべてが走力星五で、持久力星二が最高か? 今年は足の速い馬ばかりが競売にかけられたのだな?」


「はい、その様です」

(ふう、何とか乗り切れそうだ)

 エスターは胸を撫で下ろす。

 

 しかし、それを聞いていたオラクスウェル王子が口をはさんだ。


「ふむ確かに競売ではそうだったかも知れんが、会場全体で見れば走力と持久力合わせて星八つの馬はいたのではないか? 現にラタジーレ隊長は200頭以上の持久力と機動力に優れた馬を買い入れたと聞く」

 その王子の話に、『ギョッ』とするエスターと、喜ぶ国王。


「何っそれは本当か!! よし! 今から第三騎馬隊の厩舎に行くぞ! オラクスウェル、エスター案内せよ」

 急遽ラタジールの買付けた馬を見に行くことになった王子とエスター。

 得意顔の王子と渋い顔のエスターを先頭に、王に大臣までがぞろぞろと第三騎馬隊の厩舎に向かう。


 そして急に呼びつけられ、慌ててやって来たラタジーレに、一番良い馬を出させた国王は、エスターにその馬の公開鑑定するように命を下した。


――公開鑑定――

 通常<特能鑑定士>の心の中だけで公開はされない鑑定結果を、鑑定した物の上にその結果が三分間表示し、誰にでも結果が見えるようにしたスキル鑑定士特有の魔法である。


 王命は断れず、公開鑑定をしたエスター。

 その鑑定をした馬の上には走力星三、持久力星五、頑強さ星五、馬力星五という走力と持久力の合算で星八だけでなく、頑強と馬力も高い評価が出現。合算で、なんと! 十八個の星が現れた。


「こっこれは!! 過去に遡っても十本の指に入る優馬ではないか! エスターこれはどういうことだ!?」

 国王がエスターを𠮟りつける。


 驚きで声が出ないエスター。国王はすぐさまラタジーレに事情を聞き、リサンがかかわっていることを突き止めると、ラタジーレに指示を出した。


「良いかラタジーレ。リサンに頼んで走力と持久力合わせて星八の馬を探させよ。もし、リサンが受けなかったら第三騎馬隊長の新馬は、我と近衛の新馬と交換するからな!」

 国王はそう言い付けて厩舎から出ていく。王子や臣下たちもそれに続く中、取り残されたエスターとラタジーレは、呆然ぼうぜんと見送るしかなかった。





「――という事なんだ。たびたび無理を言って悪いがリサン殿、なんとかならんか?」

 国王から渡された交換リストを手渡すラタジーレ、渋々とリストを貰うリサンは、明らかに嫌そうな顔をしている。

 しかし、リストを確認したリサンの目の色が変わった。


「正直言うと嫌ですが、あなたに買う馬を教えた私にも、少しは責任がありそうです。その分は働くとしましょう」


「おお。では今から馬を見に行こう。減ったとは言えまだ千頭ほどはいるだろう百は無理でも五十くらいは何とかなるのではないか?」

 ラタジールは楽観的に考えているようだが、リサンは首を振って否定する。


「無理ですよ。さすがに良い馬はもういません。それよりも、急いで行くところが出来ました」


「は? それはどこですか?」

 リサンからの突然の提案に、間の抜けた顔で質問するラタジーレ。


「とにかくついて来て下さい。急ぎますよ」

 リサンは答えず、引いていた馬にヒラリと乗って駆けだした。


「ちょっと! リサン殿待って!」

 慌てて自分の馬に乗り追いかけるラタジーレ。二人は会場を後にし、王都方面に馬を走らせた。

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