第11話 秋終わり馬肥ゆ―3

 ダタール・ハリの会期も終盤となり、あと三日となった頃、リサンはもう一度会場を訪れた。

 数多の馬売り人達が連れて来た馬の群れは、今や劇的に数を減らし、売れ残った馬を必死に売ろうとする馬売り人が、広い会場に点々と見えるだけだ。


 ダタール・ハリが終了すれば、売れ残った馬をどうするか悩むことになる。連れて帰っても越冬させる場所もカイバも無いから売るしかない。売れなければ最悪、馬肉の選択さえあるのだ。

 リサンはそんな買い手市場で、掘り出しものを探そうとしている。

 

 実は『エイヒレ』の販売が順調なナルフから、荷運び用の馬を『一頭買ってきてもらえませんか?』と頼まれたのだ。資金は大金貨一枚。

 

 駄馬でも大金貨二枚はするので普通なら買えないが、この終盤の会場なら安売りする馬が出る。 


『何とか買える』と考えて、馬と値段を次々に見ていく。


『あっリサンさん! こんにちは』そんなリサンに声を掛けたきたのは、一頭の馬を引いてきた商人のロウ。


「おっ、中々の馬を見つけたね」

リサンはロウの馬を見て頷き、褒めた。


「はいっ! リサン様に教えてもらった通り選びました。見映え悪いですが、そのおかげでとても安く買えました。本当にありがとうございます!」

 商人ロウが腰を折って頭を下げた。


「いやいや、選んだのはロウだから。あなたの手柄ですよ」

 そう言ってリサンはロウの馬に近づく。


「よーし、よしいい子だ。うん、気性は良い。確かに見た目は小さくて貧弱に見えるが、足腰はしっかりしている。大金貨15枚の価値はある」

 そのリサンの声に驚いたのは、商人の娘のフェリだ。


「ええっ! この馬売れ残りで金貨一枚だったんだよ?」

 

「ほう? 金貨一枚? それは良い買い物だ。私も急がないと。なんせ私も金貨一枚で馬を手に入れる約束をしたのでね」

 リサンは『ニッコリ』と娘に笑った。

 

「ああ! リサン様お急ぎでしたか! 引き留めてすみません。ほらフェリ! 行くぞ!」

 ロウはフェリに『帰るぞ』とうながす。


「ええっ。もう少し話をしたいのに!」

 フェリは渋るがロウに強く引っぱられ、去っていった。リサンも引き留めはせず、商人親子を見送りながら、懐から購入予定馬を書いた紙を取り出した。


 そして、そのリスト一番上の馬と馬売人の名を黒く塗りつぶす。


「ロウやるなぁ」

 リサンは一言感心し、別の方向に歩き始めた。

 




三十分後


一頭の馬を引いて歩くリサン。そこに同じく馬を引いたラタジーレ第三騎馬隊長

がやってきた。


「おおっ! リサン殿やっと会えました!」


「ああラタジーレ殿ですか。どうですか? 馬はそろいましたか?」


「それはもう! 二百五頭すんなり買付け出来ましたぞ!……すべてはリサン殿のおかげですな! ガハハハッ」

 ラタジーレは大きく笑うと、リサンの肩を『ポン』とたたいた。

 嫌な予感がしたリサン。


「それは良かった。では先を急ぎますので失礼」

 会釈しその場を去ろうとするが、ラタジーレは肩から手を離さない。


「申し訳ないが、リサン殿に王様からの伝言を預かっている。もう少しお付き合い願えぬだろうか?」

 『ニイッ』と笑うラタジーレにリサンは眉をひそめ苦い顔だ。


「ハァ……仕方ないですね。聞くだけですよ?」

 リサンはラタジーレから、『王様からの伝言』伝達を受け取る為に、突然足止めをくらうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る