第7話 元三枚片ヒレ二十枚―3

「おや? 様じゃないですか? どうされました?」

 いきなりの王子ラクスの訪問に、少し驚くリサンと不思議そうな顔のナルフ。


「『どうされました?』じゃない! 山小屋に行っても居ないから、何かあったんじゃないかなと思ったんだぞ?」


「いや、それはご心配をかけました。この通りピンピンしております」

 少し憤慨するラクスに、くるっと回って元気アピールするリサン。

 その様子に『ハア』と溜息を吐いて、横にいるナルフに視線をむけるラクス。


「ところで、その者は誰だ?」


「彼ですか? 彼はナルフと言って、『エイヒレ』を作っている仲間です」


「何! 『エイヒレ』だと!?」

 ラクスは、ナルフが持っている木箱を凝視した。そして、その箱に手を伸ばした時、リサンが『パシンッ』と手を叩き落とす。


「イタッ! 何をする、リサン!」


「それは、こちらのセリフです。卸の商品に手を出すのは許しません」


「これだけあるんだ、チョットぐらい良いだろうが? 『エイヒレ』に目がないんだ私は!」

 ラクスが再び手を伸ばし、そこをリサンに阻止される。業を煮やしてラクスが吠えた。


「ぐぬぬ、ケチめ! わかった金を払えばよかろう! その箱を金貨二枚で買い取る!」


「おお! 市場価格としては正解ですが、残念! この箱は卸業者に売約済なのです。業者と懇意こんいになる為にも必要なので、やっぱり売れません」

 そう言うとリサンはナルフから箱を奪い、すばやく梱包してしまった。


 『ガックリ』と肩を落とすラクス。

 そんな二人の『品物を取り合う』様子を見たナルフは、『本当に売れるんだ!』と内心『ホッ』とした。

 そして、気づかれないように胸を撫でおろしたのであった。




 ~次の日~

 朝からリサンとナルフは、一泊二日の王都への旅路を歩いていた。


 あの後、リサンが『次はラクス様の分を取り置きます』と約束し、ラクスをなだめて帰した。ナルフはラクスの事を一目みてチンピラだと思ったのだが、リサンに貴族だと紹介され、とても驚く。しかし、『確かにチンピラなら金貨を出さないだろう』と納得した。


 道中の宿代はリサンが支払い担当になった。『エイヒレ』の代金を分ける時に、その宿代分を、リサンの分け前に加える事になっている。

 道中は基本歩くだけ、暇である。そうなると『品物が高く売れるハズだから安心』と思っていても、やはり普通の庶民である。ちょっと足が出ないか心配になる。

 ナルフは道中、頭の中で何回も計算をした。


(市場価格『エイヒレ』二百枚を金貨二枚と言っていたから、卸ではその半分金貨一枚として銀貨六十枚!、銅貨なら三千枚だ! スゴイ儲けだがリサンさんの指導料と場所代を考えると自分の取り分は銀貨二十五枚いや、二十枚くらいか、復路は木賃宿で良いと言ってたから一人銀貨一枚。利益は低く見積もっても、銀貨約十八枚か、うん。何回考えても大丈夫だ。漁師をやめてこれだけで生活できるな)


 食事中も、寝床の中でも、考えたナルフが『ホッ』とするのは何回目だろうか? いつの間にかナルフの目の前に、王都城門が見えていた。


 河川を天然の堀として、河口の三角州に堅牢な壁と大きく丈夫な門に守られた王都アルター。その城門前でリサンとナルフが列に並んでいる。


「あ、あなたはリサン様? なぜ、この一般の入場列に並んでいるのですか!? さあ、先に手続きしますのでこちらに!」

 リサンの顔を覚えていた門番が、貴族官僚用の入場口に案内しようとする。リサンは、それを断った。


「いや、私はもう王宮を辞した身だ。只の一般人だから気にしないでくれ」


「うっ、しかしですね、王子様より便宜をはかるよう連絡が来ておりまして……」


 それでも『いやいい、気にしないでくれ』とリサンが突っぱねると、王子令とは言え、さすがの門番も引き下がった。


 それを隣で驚いていたナルフ。

 しかし、リサンに口止めされれば、うなづくしかなく無言で列に並び続ける。

 その後、二人は無事城門を通り抜け、賑やかな王都メインストリートに出た。

 しかし、王都観光に来た訳ではない二人は、すぐ王都外壁側の路地に入り王都城下南側にある目的の店を目指す。


 そして、何事もなく干物卸店<北の保存食>の前に着いたのであった。










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