第6話 元三枚片ヒレ二十枚―2

 リサンが作業小屋に来てから2時間後。

 手引き車に、大型小型合わせて三十匹程の『エイ』を持って現れた新人漁師ナルフ。


 リサンが漁村を離れた後、網元に『カス魚を売ってくる』と直訴したが、

 『売れるわけない』と網元にバカにされながらも、儲けた後に文句を言われないように手引き車一杯分の『エイ』を『銅貨三枚で買い付けてきた』と説明するナルフ。


「素晴らしい。キチンと商売する気なら大事な事だ。タダが一番怖いからね」

 リサンは大きくうなづきナルフを褒めた。


「じゃあ加工方法を教えて下さい! 始めは何をすれば良いですか?」

 ナルフが教えを乞う。


「そうだな。今の時期はまだ涼しいから良いが、いずれ暑い時にも加工する時が来る。夏場は、先に塩水が出来てないといけないんだ。だから先に塩水を作ろう。持ってきた海水を大鍋で沸騰させ冷ますよ」


「はい!」

 ナルフは返事して、かまどに用意した大鍋に海水を注ぐ。リサンはかまどに火を入れた。


「では、その間に次、ヌメリを取るためヒレの部分をタワシでこすろう。ヌメリが取れると、ヒレの部分の色が濃く変わるから切り取ってくれ。これなら手早く出来るハズだ。大型は三等分、中型は二等分にするんだ」

 リサンは『スイッ、スイッ』っと『エイ』をすばやく動かし、ヒレを二枚胴体から切り離して見せた。


「なるほど!」

 マネして作業を始めるナルフ。『北浜の漁師は切り身加工しない』と、網元が言っていたが、『出来ないのは網元だけなんじゃなかろうか?』と思うほど、ナルフの手さばきは良い。


「ナルフいいね! それが出来たら。切り分けたヒレを、海水を煮沸し冷ました塩水につけておくんだが、今回は塩水がまだだ。時間は後、二時間ぐらいかかるから。まず、『エイ』の処理だけ先に終わらせようか」


「あ! ナルホド。これが『今は涼しいから、まだ良いが』って言ってた理由ですね? 時間が経つと『カス魚』は身が臭くなるからか……」


 ナルフが感心し、何度もうなづく。


「そう。暑い時だと放置すると臭いがきつくなるからね。今の時期だからこそ、塩水が出来るまで放置出来る。本来は塩水を先に作って保管しておくんだ」

 こうして、リサンとナルフは作業を本格的に開始した。




 ~作業途中~

 廃棄箱に捨てられていく『エイ』の胴体を見つめるナルフ。


「この胴体は、何も使わないのですか?」

 ナルフは不思議そうに、リサンに聞いた。


「ああ、胴体の切り身を冷温保管して食べる地域もあるが、スゴイ臭いで、その地域でも一部の者しか食べないとがある」

 何か思い出したのか、顔をしかめるリサン。


「へえ? どんな臭いか嗅いでみたいです」

 興味がありそうなナルフ。


「ハハッ やめといたほうがいい。鼻が曲がるぞ?」

 その忠告を、聞いていないのか、捨てられたエイの胴体をジッと見つめるナルフ。


「ん、なんだ? 今、悪寒が走ったな?」

 実はこの何気ない会話が、後に事件を起こす事をリサンはまだ知らない。




 そんな事もありながら、一時間ほどかかって大型小型三十匹程の『エイ』をさばき終え、二百枚のエイヒレが出来た。

 そして一時間後、冷ました塩水を小分けにした樽に入れ、『ヒレ』を小分けにして入れる。そしてさらに一時間待ってから、取り出して乾燥室に運んだ。


「うお! スゴイ!」

 ナルフが感嘆かんたんの声をあげたその部屋には、外の水車を利用した送風機と大量の除湿草が詰められた乾燥箱が置かれていた。

 その部屋にロープを張り、『ヒレ』を一枚一枚吊るしていく二人。


「これは、時間がかかりますね」

 『ヒレ』を吊るしながら顔が曇るナルフ。


「ああ、でもここで手を抜けばロクなものが出来ないぞ。丁寧にいこう」

 吊るした『ヒレ』が均等間隔で並ぶように注意するリサン。


 二百枚の『ヒレ』を、その後二時間かけて吊るした二人。それから、さらに一週間天候に合わせて風量と乾燥箱の数を調整し、ついに干した『エイヒレ』が完成した。


「これが『エイヒレ』……これ本当に高く売れるのですか?」

 木箱に詰められた『エイヒレ』の見た目の貧弱さから、顔に疑問符が浮かぶナルフ。


「ああ大丈夫だ。これは高値で売れる」

 自信ありのリサン。


「まあ、元鑑定士のリサン様が言うのですから、間違いないのでしょうけど……」

 不安な、ナルフ。


「お~い。リサン居るか?」

 そこに突然、王子ラクスがやってきた――

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