不思議の国アメリカ
私は長いアメリカ生活の中を一冊のノートを抱えて生きてき来ました。このノートには偶然に見たもの、教えられた事、悲しい出来事、涙が溢れそうなお話、そして行く先々で聞いた下らないジョークと沢山の思い出が詰まっています。この中に有るいくつかのお話しを冗談話と共にご紹介致します。どうぞ腹を抱えながら涙を浮かべてお読みください。
これはロスアンジェルスで実際に有ったお話です。移民局の入国カウンターの前に数十名の中国人らしき女性が並び入国審査を待っています。よく見ますとその全員が妊娠しているらしく皆お腹が大きいのです。入国審査管が調べてみるとこの人達は中国からアメリカに来た旅行者には間違いないのですが、子供を米国で出産するためのツアーに参加して来た人達です。このツアー航空運賃、宿泊料金、交通費、病院費用、出産費用と全てがインクルーデッドのスペシャルマタニティツアーと呼ばれる出産斡旋のツアーなのです。アメリカに居る中国人が考え出した新しいビジネスで、最初の内は少人数で目立たなかったのですが、中国国内でも噂が広がり多くの希望者が申し込みをはじめました。馬鹿ですね〜、お腹の大きい中国女性が30 人も並んでいればおかしいと気づくのは当然でしょう、 結局斡旋業者は御用となりこの手のツアーは全てキャンセルとなりました。さすが中国人色々なビジネスを考えますね、、、。
皆様はこのカリフォルニアにもカジノが有るのはご存知ですか?ノルマンディー、今のラッキーレディバイスクール、モロンゴ、パチャンガ、ペントハウスの他 10 件以上の賭博場が有るのです。ラスベガスとの違いはゲーム1回に付き1〜2ドルの参加料が取られます。賭博場の規模にもよりますが殆どのカジノにはスロットマシンは有りません。ゲームは主にカード、ブラックジャックとポーカーが主になります。お客は世界各国からでは無く、近所のおじちゃんおばちゃん、その周辺に住むローカルの人達です。今でも忘れられない思い出が2つ有ります。その日はお店の従業員と2人で出かけました。ゲームを始めると勢い良く勝ち始めましたが私の友人はあまり付いていませんでした。二人が一緒に勝てばもっと楽しいのでしょうがそれが博打です。こんな時は勝っている人が負けている人にお金を融通すればいいのですが博打を知る人同士の貸し借りが始まると勝っている人まで付きが落ち込む事がよく有ります。ですから我々はそれを分かっているのでめったにお金の貸し借りはしないのです。「僕そろそろ帰りたいんですけど、タクシー代を貸して頂けますか?」考えれば彼の家は私の所より2倍も遠い所です。ゲンを担いで「俺の車を持っていけよ。」と言うと「ゲーリーさんはどうするんですか?」「俺は調子がいいし家も俺の方が近いから俺がタクシーで帰るよ」といい、彼に車のキーを渡しました。ツキというのはおかしなものです。彼が帰った途端たちまち負け始めたのです。2−3時間が経過する。(まずい、タクシーどころでは無くなってきた)所持金は底をつきついに最後の5ドルになってしまいました。「これだけは取っておかないと」仕方無しにカジノを出て歩き始めた。今は朝の6時です。(お腹すいたな〜)見るとすぐ横に小さなメキシカンレストランがあります。朝食$2ドル、トルティーヤ、ビーンズ、チキン。私の考えはこのカジノの近くに知人がいましたから、9時になったら彼に電話して送って貰うつもりでした。とりあえず電話代だけ有ればいいや、と思い空かした腹を抱え店に飛び込みました。「ブエノスディアス」普段はあまり食べないトルティーヤと煮た豆が美味しい。朝食が終わりまた歩き出した。時刻は未だ7時です。友人を起こすのは8時過ぎまで待たなくてはいけないと思い、また歩き始めました。博打明けの朝は疲れているものです。特に負けたあとは疲れも倍増です。今度はのどが渇いてきます。パパママストアーに入って水を買います。 75 セントを払った後は所持金$2,25 です。やがて8時が過ぎたので友人に電話をしました。
「トシ!カジノですっからかんになった。悪いけど家まで送ってくれないか?」と言うと、「ああ良いよ」と言うので、待ち合わせ場所を決めてその場所に向かった。電話代は 35 セント残金は$1,90 です。でも迎えに来てくれると思っていたので心配はしていませんでした。 待ち合わせ場所についたが彼はまだ来ていません。暫く待ちますがまだ彼の姿は見えません。もう一度電話してみましたが誰も出ません。この頃は携帯電もない時代です。ノーアンサーで受話器を置いたのですがお金が戻ってきません。電話器を叩いていると通りすがりの人が私がきっとコインを盗もうとしていると勘違いして私を睨みつけてます。仕方なく彼を待つ事にしましたが彼は一向に現れません。電話のコインが戻らなかったので残金は$$1,65。もう一度かけてみようと思い違う 電話機を探すのですが見当たりません。遠くに見える公衆電話まで行きコインを入れると今度はうんともすんとも言わないので受話器を置きましたがまたもコインは出てきません。 アメリカの公衆電話はだいたいこれが普通です。悪いガキやホームレスがコインを盗もうとカネのハンガーや針金のようなものを突っ込むので手がつけられません。これで私の残額は$1,30。暫く待っても彼は現れません。だんだん心細くなってきました、仕方なくまた歩き始めましたがどの方向に行けばいいかも定かでは有りません。車を貸した彼は昼間他でアルバイトをしていますがどの店か知りませんので連絡のつけようも無いのです。
「そうだ高速道路の横を歩こう。そこならきっと道を間違える心配もない。」と思い入口から入り歩き始めました。時間はそろそろ昼に近くなりますが他に方法もなく、もう一度トシに電話したいのですが高速には緊急用の電話しか有りませんし近くにも公衆電話は見当たりませんでした。私はただひたすらあるきました。時には力無く時にはトボトボと。すると誰かが後ろから声をかけてきます。「おい小銭をくれないか?」「ごめんなさいお金はありません」と云うと「25 セントのコインでもいい」と言うので$1,05 有れば電話は掛けられると思い 25 セントを恵んで上げました。本当は私のほうが恵んで貰いたいのです。「君は此処で何しているのか?」と聞きますとこの高速の下に有るトンネルで寝泊まりしているので「君も来るなら案内してあげる」と親切に言って来ました。有り難いお話ですが私はまだプロのホームレスでは有りません。 ところで皆さんは高速の横を歩いたことが有りますか?怖いですね〜車はビュンビュン来るしポリスに見つかれば家に帰れなくなります。此処では私はヤクザではないですからきっと皆にもイジメられるでしょう。だいぶ来たようですがロスの空港まではだいぶ掛かるようです。私の住まいとお店からでもカジノまでは高速で飛ばして一時間以上も掛かる結構な距離なのです家に電話してもいいが美香は運転しないし、きっと怒られるのが関の山だろう。それにこんな惨めな姿も見せたくない。
時刻はすでに午後5時を回っていました。とにかく歩き続けエアーポートまで行ければ何とかなるだろうと思いただひたすら歩いた。だんだんあたりも薄暗くなって来ます。お腹もペコペコです。陽が落ちた暗い高速の横を歩いているとまるで未知の世界に居るみたいです。未知の世界に行ってみたい方は是非一度お試しください。午後7時 10 分過ぎやっと空港の側のマクドナルドに到着しました。登山家が山の頂上に登りついた気分でしょうか?早速お店に電話すると私の車で先に帰らせた従業員の彼が電話に出ました。まるで遭難した人が生きていることを確認した時のような気分です。「悪い。空港の入り口のマックに居るから迎えに来てください」「ゲーリーさん空港で何しているんですか?」訳を説明すると「今すぐ行きます」といって電話は切れました。私は何と 13 時間も歩いたのです。彼が到着しました。「頼む。お腹がペコペコだからハンバーガーを食べさせてくれ!」「えっ何も食べてないんですか?」「はい所持金は1ドルしかありません」ハンバーガーを2つ、コークと一緒に流し込む。「生き返った〜」私がアメリカに来てハンバーガーがこんなに美味しいことを発見した初めての経験でした。覚えておいて下さい、これがハンバーガーを美味しくいただく新しい方法です、、、
このお話は私と美香がレストランを始める前のお話です。美香は真面目で働き者ですし甲斐性の有るとても優しい人ですが、教師のように大変に厳しい一面も有ります。まあ私の様にだらしない人間にはそれぐらいが丁度いいのかもしれません。一方私は夜遊びやプレイボーイの真似事からは足を洗ったものの、次の仕事までの期間ただフリーターのような状態でした。お酒は飲みませんので月に何度かカジノに行く事ぐらいがその時の唯一の楽しみでした。よく人はギャンブルをストレス解消といいますが、それは嘘だと思います。 何故ならもし負けた時それが本当に解消になるのかと言えばむしろストレスを抱える事になります。本当はただ好きだから行くのです。私はよく美香を誘いましたが彼女は賭け事を一切しません。彼女の考え方は博打で儲けたお金はいわば負けた人からの恨みのお金だという考えです。ギャンブルは勝つより負ける方がいい、負ければ己の毒が消されるというのです。もし勝った時はそのお金は振舞いなさい。そうすれば少しでもまた毒を吐き出せると言います。その日はとにかく付いていた。たかが5百ドルぐらいの持ち金で始めたのですが、誰が来ようが何をやっても負けないのです。一緒に座っているプレーヤーがどんどん潰れていき席を立ちます。ついている時はエネルギーが湧き出てきますから2日間通しで家にも帰らずでした。こんなふうに書きますと奥様連合会の方からバッシングを受けそうですが、いや受けますが、もう時効で有りますのでお許し下さい。心から反省しております。やがてゲームが終わり、持ち金を勘定すると1万5千ドルの現金が手元に有りました。
私はどなたかのようなビッグプレーヤーでは有りませんので5百ドルがこれだけのお金に化ければ本望で有ります。お札を丸めポケットに詰め込み家に帰りました。ドアーを開けると美香が怖い顔をして呆れて立っています。私は即座に1万ドルを差し出しました「これ取っておけ!」カッコイイ(誰も言わないので自分で言ってます)。美香が「これどうしたの?」「今日はとてもついていたんだ
」そして美香が以前欲しがっていたルイ・ヴィトンのバッグのことを思い出し「今日ビバリーヒルズで以前美香が欲しがっていたバッグをプレゼントするよ。」「えっいいの?」「勿論だよ」すぐにお店に出かけバッグを買って小さな幸せのひとときを分け合いました。「俺、今日もカジノに行って来る。今はついているから負ける気はしないので今日も勝ったら今度は何が欲しい?」「ブルガリの時計?」「よし、俺に任せろ!」といってカジノに出掛けました。持ち金は5千ドルです。顔見知りのディーラーが「お〜また来たのか?」ものの一時間でした。持ち金は全て消えて行きました。悔しくてたまりません。賭け事は勝てばもっとしたくなり負ければ取り返したくなる。「アイム カミングバック」と言って家に戻りました。美香は不在です。箪笥の引き出しを開けるとあの1万ドルが私を見つめている。「よし、リベンジだ」と札束を掴みすぐにカジノに向かった。そしてその1万ドルはまた見事に一時間あまりでなくなった。 カジノのディーラーが「ゲーリーさん、勝ったら此処に戻って来ては駄目ですよ!博打は必ず負けますから」ディラーが言うのだから間違いはないだろう。ここに来ている人はみな同じ博打中毒です。毎日のように入り浸る旦那様をワイフが「あんた!」と怒鳴ってくるのをよく見かける。カジノにのめりこんでいる女性はというと、男性には全く興味がなく博打が恋人になっています。もし勝っているとこんな女性が必ず何か言って来ますが、人に興味が有るのでは無くお恵みが目当てなのです。さて美香さんですが、あの1万ドル、最初から渡してなければ紛失感は無いが一旦渡したのだから怒るのは当然。「すいませんごめんなさい」もう少しで追い出される所でした。美香さん苦労をかけて申し訳ありません!皆様も覚えておいて下さい。博打のお金は恨みのお金でございます。
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