第23話 ギルドの外へ



「おい、チビ助がぐったりしているが何かしたのか?」


 何事もなかったかのように床から起き上がってきたけど、やっぱり元気そう……というか無傷だな、もう一人の化け物ギルマスも。


「お外に出るの邪魔しちゃったからイジケちゃったかなぁ〜?」


 そりゃイジケるよ、イジケますとも。


 想像を超えてやろうと必死で記憶探って犬の真似までしたのに、今じゃ丁寧に抱き上げられ立派なワンコ扱いですからね。


「あの、降ろしてほしいです」


 もう話終わらさな出られない魔王スタイルなのはわかったから、せめてワンコ抱っこはやめて。


「もうワンちゃんごっこはいいの?」


 やりたくてやってるワケじゃないわい。


 おう、尻から手ぇ離して……そうそうゆっくり…っと、良かったぁちゃんと解放してくれて。狂っててもそれくらいの分別はあったか。


 また抱き上げられたら敵わんからちょっと気持ち離れておこか。

 あのワケのわからん速さで俺を連れ動ける相手には無意味だろうけどさ……ぶっちゃけ怖いのよ。


「それでなんでまだランは出ちゃダメなんです? ギルマスさんが残りのドアの修理費払ってくれるなら問題ないですよね?」


「そうね、それは認めるわ」


 あん? もう借金がないのは認めたのか、これはギルマスが体を張って説得したおかげかな?


 でもそれならなんで出るの許してくんないの??


「でもね、それだとダメなの……。

 だってやっと巡ってきた放置依頼ドブさらいを押し付けられる子が来たのよっ?!

 それなのに何っ!? 一箇所も掃除することなく帰っちゃうとかありえないでしょっ!!」


 おっ…おぉ……期待させといてそれを裏切ったみたいな心境なのかな……?


 いやでも……これって、プライベートな事で大やらかししたくらい感情あらわにしてねぇか?

 これただの仕事で滞ったモノへ向ける感情じゃないと思うんすけど……そんなに受付の仕事に入れ込んでるの?

 

「だから……ね? ランちゃんは、やってくれるよね? わたしの頼み、聞いてくれる……よね??」


 アカン、感情がヤバい方向に振れ始めよったぞ?


 おいおい、そんな俯きがちにフラついて近寄って来るなよ。なんでドブさらいの話からホラー展開へ傾き始めんだよ……


 あ? ちょっと、なに緩慢な動きで手を伸ばして…ヤベっ!? これ掴まれたらアカンやつやっ! 


「たっ…助けてギルマスさんっ!!」


 ちょっとぉぉおっ!? ぼっ、傍観してねぇでさっさと止めれギルマスっ!


 背中見せるの怖えぇから後ずさりして逃げてんのに距離が開かんのよっ!?

 緩急つけてフェイント入れても距離が変わらんのはいつでもヤレるからおちょくりタイム入ってるなっ?!


 こいつ青髪意外と冷静だぞっ!


「そろそろ止まれ、本気で嫌がられてるぞ」


 よっ、良かったぁ……ギルマスが止めに動いてくれたわ。


 肩掴んで止めたけど、それを振り払わないってことは追いかけっこはお終い。って事でいいんだよな?


「……前に進めないから放しなさい、ランちゃんを説得してる最中なのよ」


 ……よく見たら青髪さんプルプル震えてるや。力では勝てないから振り払わないけど、進もうとはしてる状態か?

 そうまで諦める気がないのかよ、そのまま肩を掴み続けてくれよギルマス。


 それにしてもあの追いかけっこ、制限時間内になにかしない依頼を受けないと掴まれて、何処かに連れてかれるとかのイベントだったのか?

 でもその何処かが掃除現場で、ドブの掃除を強要するというガッカリホラーイベントかな?


「おい、様子がおかしいがどうした? そこまでしてやらせるようなことじゃないだろ」


 まったくだよ。そんなモン俺じゃなくても出来るんだから他当たってくれよ。


「…………のよ」


 えっ、なんて?


「家の側のドブが臭いのよっ! 窓を開けると臭いが入ってきちゃうからこの3ヶ月窓は閉めっぱなしよっ!!」


 The知らんがなシリーズ。


 なんなんこいつら? ギルマスの悩み娘に好かれない青髪さんの悩みドブ臭ハウスも知らんよ。


「本当にそんな理由で……? そんなに気になるなら自分で掃除したらどうだ?」


 勝手に人の物飲むようなおっさんでも呆れるんだな。

 けどギルマスの言う通りだよ、自分でやってくれ。


「臭いのが嫌だって言ってるのにやるわけないでしょ? それに汚いし。だからランちゃんにやってもらおうと説得しようとしてたんじゃない」


 えぇぇ……なにその理由は?

 俺もイヤじゃそんなモン。そもそも泥かき出す力あんのかも怪しい不適格な人選もいいところやぞ。


 てか清掃箇所っていくつかある中から選ぶはずだけど、受付で紹介からの誘導で自分ち周辺を真っ先にやらせる気だったのか?


「だから、ね? 家の周りだけでも代わりにやってくれないかな、お願いよランちゃん」


 そういやさっきペット飼い犬として家に連れ込んで掃除させようってのは、内だけじゃなくてドブのこと含めだったんかな?

 冗談抜きで自分でやるの嫌なんだな。


 けど、首をふーりふーりお断りよ。


 今までのやりとりで誰が気持ちよく頷けるん? ヤダよ。


「そっ…そんなぁ〜っ!! うぅぅ……家を買ったばかりなのにぃ……。4ヶ月前に何度も下見したときは臭くなかったのに、なんで……」


 これまた変なところをリアルに作ったなぁ、物件のトラブルまで起こるのか。

 ご愁傷さまな…ん? 4ヶ月前ってβテスト期間だな。


 それに3ヶ月前ってβテストが終わった頃か? その頃はテスターの誰かが掃除……いや流石に終わってすぐに臭うってことは普通ないよな?

 とにかくこの3ヶ月間やってくれるプレイヤーが存在せず、NPC冒険者は依頼を受けずで清掃されてないのか。


 うーん……これがもし青髪さんがイベントキャラならそういう状況を作る自らドブを掃除しないように仕組まれてる……のかな?


 AGOは誰かが発生させたイベントでも手順を踏めば他の人にも発生するものから、再発生なしの最初にフラグを踏んだ人のみという早いもの勝ちのイベントなんてのもあるらしいからな。

 青髪さんの場合は再発生が定期的なイベントで、それのフラグキャラだからそれに関連した原因も復活。なんてのもあり得るのかも?


 もしこの想像通りだとしたら、こっちプレイヤーの行動に影響される世界ゲームだからこそ、その割りを食って可哀想な役割ドブ臭ハウス押し付けられたんだろうな。


 同情で1回くらい掃除してやっても……とは思わなくもない。

 けど借金で言いなりにして〜ってイベントだからなぁ、懲罰的に作業させて後はポイッってされそうだし、やっぱりやりたくはないな。


「……もう暴れそうにないな。一応こいつは押さえておくから行っていいぞ」


 ん、いいのギルマス? それじゃ申し訳ないけど失礼して……あっ。


「あの、もう借金は返済済みだから街の外には出られるです?」


 そうだよ、街の外に出られないから金策の手段が限られてこんな話になったんだから聞いとかなね。


 …………ほぼ自業自得だけど。


「うん? なんで街の外に出られるかなど……。こいつ青髪にそう言われたのか?」


 うんそうだよ、ノータイムこっくりで頷き返すよ。


「そうか……。安心しろ、数十万オーラム程度の少額で街の中に閉じ込めるような措置はしてない。だから普通に出られるぞ。

 そのくらいなら外でさっさと稼がせに行かせたほうが早く返せるからな」


 苦い顔してどうし…うっ? うん…………えっ、それ嘘なの?


 詫びの品まで売り払ってなんとかしようとしなくても、外で狩ってきた素材売って返すのができたの……?


 いやまぁ…結果的には全アイテム失ったけど、ギルマスが残りの借金払ってくれるきっかけになって、むしろ早く返済が済んだからいいんだけどさ……


「オレはこれからこいつ青髪と話をせねばならんからここで失礼するぞ」


 ……あっ、うん。どうぞどうぞ。


 頷いた辺りから様子おかしかったもんなギルマス。存分に話ししてやってくれや。


「うぅぅ……ぅあっ!? ちょっ、なにっ?! なんでわたしを担いでるのよゴリラっ!?」


「なんだ、聞いてなかったのか。後で理由をしっかり教えてやるから黙ってろ」


 なんだろう……さっきまでNPCとはいえ青髪さんに同情してたのになぁ…………


「いいから降ろしなさいよっ! 嫁と子供に有ること無いこと言い触らさ──」


 ああも元気に騒がれると1回くらい、なんて考えてたのが馬鹿らしくなってきたわ。


 とっととギルドの外に行こっと。


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