第17話 ようやく冒険者──



 暇潰しに視聴者と戯れて列の消化を待つこと数分。


「次の方どう、あっ……」


 ようやく俺の番が回ってきた。

 どうやら先ほど助けた幼女が来たと青髪受付嬢さんも気付いたようだ。


 とにかくまずは礼を、と前に出ようとしたがここで問題発生。

 受付嬢とを隔てる間のカウンター、めっちゃ高いんです。俺が並んで立てばデコが見えるくらいしか顔が出ないんですよ。


 うんそうだね、140センチもない幼女の背が低すぎるだけだね。

 もしかしたら130前半くらいしかないのかも?


 それより拷問から助け出してくれた礼をしようってのに、顔を見せずにってのは失礼だよな?


 なら一歩引いた今の位置で言おうか、それならカウンター下を見て何かしてる青髪受付嬢さんの視界にも入るだろ。


 実際に用事冒険者登録もあることだし、タイミング逃すとお礼を言う機会を失うこともあるからここは先手必勝で。


「あの! さっきは凶悪ゴリラの悪臭会から助けてくれてありがとです、おねーさんっ!」


 最後にペコリとお辞儀をして相手のリアクションを待っていると──。


──ガコッガタンッ!


 頭の先の方から物音がした。


 それに反応して顔を上げると、カウンターに先ほどまで無かった小さな箱のような物が……


「はいっ、踏み台を使ってね!」


 全然違ったわ、俺に気付いたとかじゃなくてチビッ子が来たと気付いただけだこれ。

 チビ襲来に気付いて収納式の踏み台出す操作してただけだわ、あの青髪受付嬢さん。


 そんなギミックがギルドカウンターに仕込まれてたんだね、それならチビッ子も安心だ。

 ファンタジーバリアフリーかな? プレイアブルじゃない背の低い種族への配慮ってとこか。


 ……さて、そんなギミックがあるなんて当然知らなかった俺は、つい今しがたフライング礼しちゃったワケだけど。


 …………この状況で前に出るの?


 並んでたんだから出ないワケにはいかない。それは当然だ。

 けど礼を言われた事への反応は一切ない。恐らくギミック操作に意識を取られ、俺の礼なんぞ耳に入ってなかったんだろう。


 つまり何が言いたいかといえば……めっちゃ恥ずいですっ!!


 渾身の幼女らしさ溢れる全身使った大振りペコリで決まったぁっ! なーんて考えてたのに相手聞いてなかったんだよっ?!


 俺と彼女の二人きりならよかったっ! 仕切り直せばいいだけだからねっ!

 けどここは周囲にプレイヤーもNPCも沢山いるしなんならバッチリ目撃されてるよっ!!


 しかも相手に礼が伝わってないとしっかりバレてあちこちからクスクス笑われてるしっ!


 …………逃げたい。


 けどここで逃げたら周りのヤツや視聴者になんて…


【コメント】

:恥ずかしがってる顔も可愛いぞw

:顔真っ赤じゃーんwww

:これも切り抜き決定ww

:エルフ耳も赤くなるんだな

:相手にだけ全力のお礼スルーされて今どんな気持ちwwww

:渾身の幼女ロールの結果www

:踏み台出たよー、もう一回最初からお礼言おうねーww

:握手会と悪臭会かけたと受付嬢に伝わらないだろうから次はやめとこうな?

:コメ返しで幼女ロールをしないばかりにこんなことに…これからは俺たちにも幼女ロールしていこうな?


 もう無駄だわ、既に弄り隊結成された後だったわ。しかも全力で演じたの見抜かれてるし。

 つーか切り抜きて、しかも〈これも〉ってことはすでに切り抜かれとるやないか。


 どうしてこうなった…………

 少なくともこっちAGO内での対応だけ幼女ロールしてるせいではないけどなっ!


「あの……どうかしたの?」


 アカン、青髪受付嬢さん待たせ過ぎて困らせてるわ。


 この程度の想定外が起こったくらいで動じていては視聴者の格好のオモチャになるだけ!


 ムッッチャ気まずいが誠意見せたろやないかいっ! 当たって砕けろじゃあっ!


 ずんずんカウンターに近寄り踏み台を登って、からの大きく吸ってぇぇぇ……


「さっきは凶悪ゴリラの悪臭会から助けてくれてありがとですっ、おねーさんっ!!!!」


 ちゃんとリプ礼ではっきり伝えたるわっ!

 この俺の溢れんばかりの感謝の気持ちいっっっぱいのお礼の言葉っ! バッチリ届いたろうよっ!!


 なんせギルドホールに木霊してんだからよ。

 なんか「誰が凶悪ゴリラだっ!」ってのが遠くから聞こえるけど、そんなのよりどうよ?


 ……あれ? 反応が返ってこないどころか目をキツく閉じて耳押さえたまんま動かないな、青髪さん。


 恩人とはいえそれはどうなん?

 どう思うよ視聴者ど…えっ、うるさすぎ? 子どもの甲高い声に耳やられた? やけくそで叫ぶなアホっ子…誰がアホっ子じゃっ! もっぺん叫んだろかっ?!


 はぁ…………いやしかし、どうするよこれ。収拾どうつけ…ん?


「いっ、いきなりなんなのっ!? 耳がキーンっておかしくなったじゃないっ!!」


 おっ、よかった~リアクション返してくれたよ。

 つか青髪さんもしっかり耳やられてるね、音量調節バグって大声になってるよ。

 あっ、じゃなくて怒ってるのか。


 ……って呑気に見てないでっ違う違うのっ! 怒らせたいんじゃないの!


「あのあのっごめんなさいですっ!! あの臭悪な拷問ゴリラから助けてもらったお礼が言いたかったんですっ!」


「ひっ!? あ…そっ、そう? わかったわ……」


 よし、ちゃんと嫌がらせじゃなく謝意を伝えたかったとわかってもらえたな!


 俺が喋り出したときの悲鳴とか、耳押さえようと頭に手を持っていこうとしたとか、なんか府に落ちてなさそうなのが気になったけど伝わればええんよ。

 気持ちが大事なんだよ、気持ちが。


「あっ、あぁ! さっきあのゴリラに絡まれてた子か。お礼なんていいわよ、本当にゴリラの鳴き声がギルド中に響き渡って鬱陶しいから黙らせただけなんだから」「ぶふぁっ!」


 ……嘘やん。全っっっっ然認識されてなかったんか、俺?


 あのときは呼吸出来ずで意識朦朧としてたから、どれだけ喧しかったか知らんし。

 そういやすぐに青髪さん去っていったような……えっ、マジでお礼言い損ですか?


 いっ、いやでもっ! 結果として助けられたことには違いないんだし感謝するのは当たり前だよなっ!


 たとえそれでいらん赤っ恥かこうと、弄りコメが降り注ごう…と……ダメだ、どう自分を誤魔化してもお礼言い損が頭から離れん。

 不意に思い出し悶えさせられるヤツや。うーあー奇声発してまうわ絶対。


 それもこれも全部コメントのせいだな。どいつもこいつも草生やしやがってよ……


 あと俺の後ろに並んでるヤツ。完全に状況理解してるからって吹き出して笑いやがったことは忘れんぞ? あとでイワしたるかんな。


「それでゴリラの事でお礼を言いに来てくれただけなのかな、他に何か用事があったりする?」


 つーか俺が言うことじゃないけどさ、ギルド職員な青髪さんゴリラゴリラ言ってるけど、あんなの悪臭ゴリラでもここのトップじゃないの? あれがギルマスっつー情報は嘘だった……?


 まぁあれがギルマスでもギルドの飼いゴリラでもどっちでもいいな、話進めよ。


「あのっ、ギルド登録お願いします!」


 さぁサクサクやっちゃって~…ん? どしたよ、しゃがみこんで? なんか手続きに必要なモン足元にでも…


「はい、りょー…かいっ!」


──ドスンッ!


「うおっ!」


 なっ、なんだ……? そこそこデカい箱いきなりカウンターに置いて…あっ、これが登録に必要なのか。


「えーと、この箱てっぺんの真ん中辺りの窪みまで手が届く…かな? 届きそうならそのまま手を置いてね」


 明らかに俺の頭上にある見えない部分だから詳細に教えてくれたけどさ、手を伸ばせば届くに決まってるだろうがよ。


 そこそこデカいっつっても30センチ四方の箱だし、踏み台も使ってるんだから、そんなもん出来…背伸びすればギリギリいけるわ。


 つーかこれ登録手続きに必要な道具? そんなもんカウンターに置きっぱなし…あっ、登録にしか使わないし邪魔だから普段降ろしてんのか。


 普通ならスタート直後に登録するだろうし、時間的にも新規登録が落ち着いた頃に俺が来ちゃったからまた引っ張り出す羽目になったのかも?

 なんかごめんよ、真っ昼間からやってるのに今さら登録しに来て。


 まぁそれはいいや、それで? その後はどうすればいいんだろ。


「うん、届いてるね。それじゃあ手を置いたままじっとしててね」


 ほいほい、待ってりゃいいのね。


 ん? 青髪さんの方からなんか音が……あ、こっちから見えないだけで反対側の側面にでも箱の操作パネルみたいなの付いて…


──ジジッ…パンッ!!


「ヒギャアッッ!?!?」


_________________________

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 これからしばらくは一日一話投稿のつもりでしたが、次の話がほぼ説明回なので次話は今日24日の昼12時に投稿します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る