第16話 ギルドで説教? いいえ、拷問です。



 俺が連行されたのは冒険者ギルド入り口から普通なら徒歩1分くらいの、間仕切りされただけのギルドの一角が目的地だった。


 謎のパンダ女に運び込まれるまで5分、厳つい髭の大男(毛量多め体毛マシマシ)に引き渡されて20分。


「ったく、もう扉が重いからって壊すんじゃねえぞチビ助?」


 疲れ切った俺は返事をするのも億劫と頷き返しておいた。


 先のコメントにあった〈下手人〉の意味をぶっ壊したドア(留め具の部材が壊れただけで原型まま)の残骸を前に、正座でガッツリ教え込ま説教された俺はようやく解放され、おっさんが去っていくのを黙って見送った。



 名前も知らぬ髭のおっさんの説教を聞き流しつつ眺めていたコメントによると、おっさんは冒険者ギルドのギルマスらしい。


 だからこんなにゴリゴリしいのか。という感想をうっかり漏らしていたようで、それがおっさんの琴線に触れて愚痴に流れてしまったのが不幸の始まりだった。


 ざっくり言えば俺と同じくらいの娘さんが近寄ってこない、懐いてくれない。ゴリラはそんなに嫌か?

 と、檻越しに見物するだけならともかく家にゴリラが居るのは嫌に決まってるだろ。なことを呟きながら俺ににじり寄ってきた。


 ここまでだったら問題はなかった。

 だがこの場に来た時から感じていたとあることが、おっさんとの距離が近くなったことでより鮮明に、それも強烈なインパクトをもって真実を教えてくれたのだ。


 ギルマスのおっさんは、ものすごく──獣臭い。


 持ち込まれた獣系素材の臭いが漂っているのかと思っていたが、これまでに経験したことのない刺激を伴う獣臭は確実にただ一人、このおっさんから放たれている。

 例えとして適切かはわからないが、動物園の動物全ての獣臭を一身に請け負ったような、さながら一人動物園といったスメルだ。


 これでよく懐かない程度で済んでるな娘さん。

 俺なんて近寄られたら全身ピリピリ痛むし、鼻は殴られたようにジンジンと鈍痛がするし、喉や肺も焼けるような痛みや嘔吐感に襲われ喉や胸を掻きむしり、涙ポロポロ流しせ倒して呼吸もままならず、終いにはピクピク痙攣してたってのに。


 にしても痛みは制限されてるはずなのに、えげつないほど苦しかったなぁ。

 あの痛みは強制ログアウトさせられてもおかしくなかったんじゃないか?


 ホントあれでよく死に戻りしなかったな、というかこここそ死に戻るタイミングだろ。つーかむしろ死に戻らせてよっ!


 っと、話がズレたがともかく。

 そりゃ娘さんも近寄らんわ、最臭生物兵器ゴリラと一緒に生活してるだけでも奇跡だよ。もう娘さんの臭気センサーぶっ壊れてるよ。


 そんなワケで「くっ…くちゃ…い……」って死ぬに死ねない拷問受けて、つい本音漏らしちゃっても俺悪くないよね?


 けどギルマスのおっさんってばNPCなのに本気でショックを受けてよ、さめざめ泣いてんのに喚き散らして問うてくんのよ。

 床でのたうち回ってる俺をガッチリ掴み起こして、ガックンガックン揺さぶりながら、どう臭い?抱き上げる術はないか?とかな。


 あれはここがゲームの世界で、相手が架空の存在だと忘れさせるくらい迫真の泣きと臭いだったね。

 まさかこんなのでAGOの超技術体験することになると思わんかったよ。


 そんなこんなで悶え苦しんでいると、説教から大きく逸れてると気付いたのか青髪の女性ギルド職員が来てくれた。

 その青髪の女性は「鬱陶しいっ!」と、斧の刃の側面でギルマスの頭をどついておっさんにツッコミ入れて引き離し、軌道修正していってくれた。


 斧をハリセン感覚でぶん回して殴る姿に、ここがゲームの世界だと再認識させてくれたわ。

 後でツッコミ入れてくれた女の人にお礼言っとこ。


 その後立て直しはしたけど意気消沈したおっさんの説教とも呼べない話がグダグダ続き、それがついさっき終わった。


 もっともなんで説教されたかなんて覚えてないがな。残骸の前でやってたんだし、たぶんその事だろ。

 とにかくギルドを敵に回すと恐ろしい拷問ゴリラが待っているとだけ記憶したわ。



 …………さて、なぜ俺が回想なんてしているのか皆はわかるかな?


 正解は足が痺れて立てなくなったからだよ。


 おっさんが去ってからずっと、尻を突き出す形で床に顔を突っ伏してんだよ。

 もう足が痺れて体勢変えらんないの。うめき声あげるしかやれることがないのよ。


 現実なら20分の正座なんてよくやってるやらされてるから耐えられたのになぁ。

 これが幼女化した影響なのか、状態異常に弱い種族だからなのかわかんないけど、この痺れは現実と全く遜色ないね。


 そんなとこ全っ然再現してほしくなかったけどな!


 それにしても…なんだろ、常軌を逸した刺激臭とかその臭いにやられて身体の異常反応とか、ここに来て俺だけ別角度からの最新超技術の要らん再現を体験してばっかな気がするんだけど?


 まぁなんにせよ回想してる間に少しは足の痺れが抜けて感覚が戻ってきたし、そろそろ登録しに受付へ行くか。



 そんなわけでヒョコヒョコ痺れの残る足で受付開始カウンターに向かっている、のだが……凄く注目されてるな。話しかけられるワケでもないから別に良いけどさ。


 しかしなんでこんなに見られてんだろ? ギルドのドアぶっ壊したからか。

 おまけに牛歩パンダ女に運ばれてるのもまざまざと見せつけていったから余計に、だな。


 ふむ……


「あのメスパンダ、一発殴っとくか」


【コメント】

:久々に口開いたと思ったらまーた碌でもないこと言い出したよこの幼女

:連行役俺じゃなくてよかったー!

:連れていってたらご褒美が貰えてたのかチクショウ!!

:ドアパンされても庇って説教で済むようにしたのに殴られそうで草ww

:そのパンダも説教される原因の一つだから仕方ないね

:あれには関わらない方がいいぞ

:パンダと絡むと面倒なことになるからやめとけ

:いいから冒険者登録しなよ?


 関わらない方がいい? つーか説教の原因って…おっとそうだった、パンダと遊ぶを殴る前に登録せんとな。


 えーと、登録はどこの受付でもいいのかな?


 んー……それっぽい登録用窓口は無さそうだしどこか適当に…あっ、さっきツッコミ入れてくれた女性の窓口あるじゃん。


 あの人受付嬢だったんだ。他より人が並んでるし人気があるのかな。

 いつもなら列の短いところに並ぶけど、ついでにお礼言っておきたいしあそこでいいか。


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