第15話 ギルド登録行く? やめとく。



「んじゃ改めてギルドに行こうか」


【コメント】

:まーた始まったよ

:負けず嫌いが過ぎるよランちゃん

:ドアマンを呼べ!

@モヒカン:今度こそ役に立ってみせる!

:俺が開けに行こう

@パンダ野郎:ギルド内でスタンバってました!!

:まだいたのか役立たズww


 なにやらコメントがざわめいているがご安心。


「大丈夫だってお前ら。ちゃんとステチェックしたお陰でどうすれば良かったかわかったから」


 噴水広場近くだけあってすぐに目的地前だよ。アサルトドアまであと10メートルってところだ。


 それじゃ早速……行こうか。


 勢いをつけるために助走をっ!


「うおおぉぉっ──」


 正解はぁあああっ!!


「──たぁああああああっ!!」


 勢いつけてドアに全体重を乗せた拳と魔法を叩き込むべっ…しっ!!


──ドガンッ!!


 どう…っ!?


──ザァァァァ……


 …………おうふ、またまた死に戻り。


 えっ、どゆこと?


ログ表示いつもの



[プレイヤー:ランは魔闘術・ウォータを発動。

 冒険者ギルド:スイングドアへの攻撃により骨折ダメージ発生。

 プレイヤー:ランのHPが全損。

 蘇生手段無し、リスポーンポイントへ即時転送し...]



 貧弱種族舐めてたわ。


 硬いの殴ったらそりゃ痛いよね。でも死因がお手々が痛くて死亡とかどんだけヨワヨワなのさ?


 おかげで視聴者も草に埋もれてるわ。


「はぁ……しゃーないから配信見てる誰かギルド入るためにドア開けてー」


 まさかドアひとつに介助要請する羽目になる…ん?


──ピロンッ♪


 なんだ?……運営から全体へのお知らせメッセージだ。なんだろ……



[件名:修正のお知らせ


 演出のために重厚感のある重量級オブジェクトにしていた一部施設の扉が重くて開けられない事象が確認されましたので修正しました。

 以降は各プレイヤー毎に少し重く感じる重さで開けられるようになります。


                AGO運営より]



「遅っせぇよっ!!」


 これ完全に運営サイドに見られてるよね? 監視対象になってね?

 公式配信者ってそういう意味だっけ……?


 ま…まぁいい! とにかくこれでギルドに入れるようになったんだから行くぞっ!




 なーんて意気込んでギルド前に来たわけだけど、入りたくねぇな…………


 違うのよ? 登録したくないとか受付で人と話すのが怖いとかそんなんじゃないのよ?

 たださぁ…なーんか嫌な気配を発してるっていうか、ギルドのドアが消失してるっていうか……


 うん、答えはわかってるのよ。なんやかんやで俺がドアをアサルトしちゃったんだろうよ。


「さて、視聴者の皆。メッセージ通りなら運営の手が入ったおかげで俺もギルドに出入りできるようになったワケだ。

 それはつまり、ムキになってドアに再挑戦する理由が無くなったに他ならない」


 言葉を連ねるごとにコメントが、視聴者たちがなぜかギルド行きを熱望していくな。


 あとムキになってる自覚あったのかコメはどういうことだ? あれだけやって無自覚のヤツがいるものかよ。ただ走り出したら止まれないだけだっての。


「だからな、俺は思うわけよ。本当にこのまま入っていいのだろうか? ってな。

 だってそうだろう? 俺は今しがたドアに負けたんだ、例えそれが相討ちだったとしても、たかがドア相手に死に戻りさせられた事実は消えない。それは負けと言っても過言じゃないだろ?

 敗因は俺が圧倒的に弱かったからだ。

 そんな俺が冒険者になる? それは先達冒険者に対して失礼としか思えないんだ。

 だからこそ俺はもっと強くなってからここへ訪れるべ「いいから早く入りますよー」……へっ??」


 決意表明逃亡理由語ってたら背後から脇に腕突っ込まれてヌイグルミ抱っこされたでござる。


 声からして女性かな? どうせなら早めに言い訳を打ち切っ…じゃなくて!!


「だっ、誰えぇっ?!?!」


 謎の女性?の拘束を解こうとジタバタ足掻いてみるも、ゆったりとしたホールドなのに小揺るぎもせず、見かけ以上に力が強い!

 あっ、これも貧弱種族のせいか。やはり修行の旅…でもなくてっ!!


「ちょっなんで抱き付きっ?! なにする気っ!?」


 ゆっくりと歩き出…いや遅っっっっそ!! えっ、なにこの遅さ??

 俺を荷物持ってるからって子供の足より遅くなるなんてあるか?


 何か遅く歩く理由があるのかは知らないがそれはおいといて。既に力では勝てないと悟り抵抗は諦め、あなたのお手元の幼女はぐったり脱力モードですよ。

 だけど誰がこんなことをしているのかは確認しようと拘束している女性?を見上げるとそこには……


「いや、誰だよ?」


 マジで知らん相手やん。デコが赤いけど全くもって見知らぬ人ですやん。


 見上げる顔からチラ見えする頭部の耳からして獣人系なのはわかったが、AGO内の知り合いなんて石渡さん管理者を除けば、噴水広場に落ちたときに助け起こしてくれた女性プレイヤーくらいだけど、あの人は人族系の顔の横に耳のついた種族だったはず。


 えぇ……初対面で事件の香り? 拐かしの実行犯かしら……GMコールしと──。


「んふふっ、やっと捕まえることが出来たよーランちゃーん・・・・・・


 ひぇっ!? あっ頭にスリスリ頬擦りするな犯罪者っ! って、なんで名前を……? まっ…まさか、犯人は……視聴者?


 名前知ってるって、そういうこと……だよな?


「…………ランは、悲しいです。視聴者さんから犯罪者が出てしまうなんて……」


 草しか生やさない性根の腐ったバカだけど、気は良い奴らだと思ってたのに……

 持ち運びに便利なコンパクトボディなばかりにこのような蛮行を…………


 思考操作でメニューを開き、GMコールのボタンに指をそっと伸ば──


「へっ……あっ!? ああああ違います違いますーっ!! わたしは誘拐犯じゃないですよ! ランちゃんを連れてきて欲しいって言われたからそうしてるだけですよーっ!!」


 ──したところで指を止めた。


 というかブンブン振り回されて中断させられた。


「つっ、連れてきて……欲しい?」


「そっそうですっわたしは頼まれてっ! あっいや頼まれたワケじゃないけどぉ…えーあー……とっ、とにかくランちゃんを探してるから連れてきてくれってっ! ホント! ホントなんです信じてぇーっ!!」


 ラン舞の勢いがすぐに弱まったのでどうにか気になった言葉を聞き返したが、未だ興奮しているのか肝心なこと以前に情報が全く増えずさっぱりわからない。


 しかしこの慌て様、本当に誘拐犯ではないのかもしれないが連れてきて欲しいとはいったい?


 俺の交友関係なんて現地人NPCとは未接触、プレイヤーで知り合った人なんて片手どころか指一本で足りる。それも関係が薄い相手噴水広場で会った女性だ。


 ならその相手も配信の視聴者か?


 なおも要領を得ない説明を続ける獣人女性は無視してコメントを確認すると──。


【コメント】

:笹の代わりにランちゃん持ってんじゃねえよキョドり誘拐パンダ

:足おっそww

:いつかやると思ってた

:ランちゃん逃げてー!寄生パンダから逃げてー!!

:犯人捜しを口実に接触を図ろうとはさすがパンダ汚い!

:ランちゃん売っといて図々しく寄生しようとしてんだろ真っ黒パンダ?

:あのままドアパンで落ちておけば良かったパンダ第一位!

:現実のパンダは癒し系だがAGOのパンダは卑しい毛玉だ

:おい子泣きパンダ、超重量お荷物を子供に背負わせようとすんな

:下手人を引き渡してポイント稼ぎか腹黒パンダ?


 …………パンダ?


 パンダってあの不人気?種族のパンダ? そういやさっきギルド向かう前にもコメントで名前を見かけたような?


 もしかしてこの女の人がその…いや確かパンダ野郎って名前だった……はず。

 女性が名乗るような名前じゃないだろうし、なら種族があのハズレアで有名なパンダなのかこの人?


 つーか視聴者たちのコメントがなーんかこの人を知ってる感あるモノばかりだな。もしかして有名人?


 なんにしろ、こっちでも誰のところに連れてかれるのかの情報がなかったな……一部不穏なコメントがあったけど。


 はぁ……こうなったら仕方ない。逃げられそうもないし大人しく連れてかれることにするか。


「もうなんでもいいからどこにでも連れてって」


「あっ、はっ…はいっ!」


 気勢の良い返事を返して再び進み出したパンダ女。


 ……………………にしても歩くの遅ぇな。


 ようやくギルドの入り口前なのになんか立ち止まってるし、どんだけゆっくりなんだよ?

 せめて俺を探してるって人が近くにいると良いなぁ。この分だと何分かかるかわかったもんじゃねぇわ。


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