第13話 ドアはドア
────どこでもドアなんて、無かった。
扉を開くと真っ白な光の壁があるだけだった。
顔だけ突っ込んでも眩しいだけで、なんにも見えない聞こえない無の空間。
その中に潜り込むと目を焼くほどの光を浴びせられ、目を閉じると雑然とした音と匂いが感じられるようになった。
そして目を開くと親の顔より見た噴水。もちろん本日の対面時間、回数だが。
急いで振り返っても広場があるだけで、ピンクのドアも消失していく瞬間も一切なかった。
つまりこれは、ドアというワンクッションを挟んだ──ただの転移だ。
「…………いや何のためっ!?」
それならそのままパッと転移してくれよ!
文句を言いに戻ろうにも既に不可能。何故ならただただ普通の転移だから。
まったく、変に期待を煽るようなドアから帰らせといてのこの仕打ち。
むしろ暴走犬よりこの件にこそ謝罪を要求したいわ。
こうなったらギルドのドア思いっきりバーン開けしてやっ…ん? あ、そうだった。
「そういやお前らまだ居るんだっけ」
【コメント】
:ランちゃん酷い
:さっきの叫びはナニ??
@犬塚✓:ランちゃんひどいっすよー
:俺らのこと…もう忘れちまったのか?
:RP忘れてんぞー今さらだけどww
:なんか変なのがいて草w
:一人だけ酷いの意味が違うwww
:ちょっと待てなんでモデレーターに??
:ハッキングもできる天才犬だからね
:石渡さーん!またやらかしが増えたよー!
なんか元凶みたいな名前が見えたような……いや気のせいだな。変なマーク付きだったような気がしたが気のせいったら気のせいだ。
それより応接室で配信継続するって言っといて、あの場だけ配信してる気になってたわ。
配信切ってないんだからそりゃまだ続いてるよな。
これからは配信してくんだし、コメントの相手してやった方が良いか?
……良いんだろうな、公式配信者になったからには。
何やったら良いかはわからんけど、邪魔さえなければ返事くらいするか。移動の暇潰しにもなるし。
ギルド目指しつつコメント返してくかな。上から適当に、えーっと。
「んー、酷いって言われても配信でやりたいこともないし、成り行きで配信続けてるだけだからなぁ。正直お前らの事なんぞ知らんしどうでもいいからな。しょうがないね」
なんか批難のコメントがちらほら。
そんなことより次いこか。
「そんで次は叫んでたことね、あれはドア経由の転移にツッコミ入れてただけ。どこでもドアのフリしてただの転移とか酷いよね?」
…………意外。まさかの賛同者ゼロ。
このロマンを理解しない奴らの家に宇宙から栗饅頭が降り注ぎますように。
「まぁいいや、次は……アール、ピー? それを忘れる……あっ、ロールプレイか」
そういや今幼女なんだった。
なんやかんや石渡さんとの話は緊張してたからなぁ、それが終わってかなり気が抜けてたのもあるが、対面してなら目線の違いですぐに気付けるのに……。
コメントが見易い位置にあるせいで意識から外れてたわ。
どうしよ、今からでも幼女ロール再開するか?
けど直接対面してないんだから見た目で何も起こらんやん? 最悪コメント閉じればいいんだし。
よし、素でいこう。
「幼女ロールな、あれはこの見た目で今の口調だと面倒そうだからやってただけだからな。というわけで俺の邪魔をする存在になり得ないお前らにはやらないことに決定!」
幼女だからって誰しもが媚売ると思うなよ? コメントで喚いてるアホ共。
なーにが幼女がなに言ってんだ?だよ、俺は高校生だっての。
無視して次のトークテーマに…ん? 行き先訊ねるコメントがあるな。
「どこ向かってるかそういや言ってなかったね。行き先は冒険者ギルドだよ、まだ登録してないから詫びアイテム貰うついでに行くつもりだよ」
いくら気にかける気がないっつっても、行き先決まってるなら伝えるくらいはやらないとな。これから気を付けよ。
……って、は?
【コメント】
:冒険者ギルドは噴水広場の北側目の前のデカい建物だよー!
:もしかして:方向音痴
:やっぱり西の草原行ってたのは行き先間違えてたかww
:迷いなく進んでたのにどんどん離れていってるぞい
:この先、道なりに進むと職人ギルドです
マジで??
…………この可愛いだの笑われる以外ほぼ煽り一色に染まっていくコメント欄を見るに、俺……またやっちゃいました?
いっ…いやっまだだっ! まだ建て直せるはずっ!!
「あっ、あー間違えたわー。そうっ、行きたかったのは職人っ!! 職人ギルドの方ねっ! 夜は生産活動したかったんだよなー!!」
【コメント】
:ハッキリと詫びアイテム貰いに行くって言ってるんだよなぁ
:顔真っ赤にして誤魔化そうとしても可愛いだけだぞ!
:配布アイテムの受け取りは冒険者ギルドのみな訳で
:素直じゃないランちゃんかわ(からせた)いいよ!
「あーもうっ! わかった間違えた間違えましたよ間違えましたともっ!! だからもう弄るなよっ!」
あかん、まだまだめっちゃ弄ってくるやん。配信やめたろか?
まぁこうして行き先間違い教えてくれたし、今回は許してやるか。
ところで変なとこにカッコいれてるのは、わからせたい…か? 何をわからせたいんだ??
地理か? 別に方向音痴じゃないのになぁ。せいぜい地図を見ずに口伝えで行くとお初の場所に辿り着けたことがない程度なのに。
まぁいいや、とにかく広場戻るぞ!
アホほど視聴者に弄られ、言い返すこと数分。
「ここがギルドか……デカいな」
なんで気がつかなかったと言わんばかりの、見上げるほどドデカい敷地の3階建ての建物に剣と盾のロゴマークの吊り看板。
そしてその看板の下に連なってぶら下がる、樽と泡の吹き出したジョッキの看板。
誰がどう見ても冒険者ギルドと併設の酒場とありありと主張してるね。
なんで気付かなかったんだろ? 周りまったく見てないからか。
初見の視聴者もいるようで、ここがギルドかーとかデカ!とか、こんな分かりやすいのに道に迷うヤツおる??とか。……最後のは煽りだな。
居るよっ! 俺だよチクショウっ!
ゴチャゴチャ煩いのは無視してとにかく入るっ!……ってあれ?
「ギルドのドア、ノブ無いじゃん」
西洋風の街並みに引戸はないだろうし、第一窪みもないから引くことも出来そうにない。
それならスイングドアなんだろうけど、さっきから軽く触れたり押したりしても微動だにしな……えっ? これスイングドアなのコメントさん??
スイングドアって軽く押し開けれるもんじゃないの……? まぁ本気で押せば開くか。
「ふっ! ふんんっ!!…………嘘やろ?」
確かにスイングドアらしく、ちゃんと開く作りになってるのは全力で押したらちょっと動いたから理解した。
理解できないのは重すぎてドアが少し隙間ができる程度にしか開けないことだ。
既に経験済みなプレイヤーの視聴者もこのドアは重いってコメントをくれている。……大部分は非力だの可愛いだの初のドアに挫折するプレイヤーだの冒険者の道は閉ざされただの好き勝手なコメントだけど。
いいじゃねぇか……やってやるよ。
これくらいの距離で良いか。よし!
「たの…っ!」
──ドンッ!!
「もおおおぉ!!」
ギルドに入っ──。
──バンッ!「うぼあっ!!?」
……入ったと思ったが、結局噴水前だったわ。
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