第6話

「どこに行くんですか?」

「着いて来れば分かる」

そう言ってどこに行くかは教えてくれない。

だけど、私の歩幅に合わせて歩いて来れているのは分かる。そういう優しさを持ち合わせているならどこに行くのか教えてくれたっていいじゃないか、と内心愚痴っていると、私の家からも割と近いカフェに着いた。

「ここですか?」

店内にさっさと入ってしまった彼の方へ歩いて行くとそこに居たのは……




「花音ちゃん……?」




高校の制服に身を包んだ花音ちゃんだった……。

「どうして……」

すると

「久しぶり……香奈ちゃん。聖夜からちゃんと話した方が良いって助言を貰ってね。話し合う場を作ってもらったの」

理解出来ずにいる私に香奈ちゃんはそう告げた。

「え……2人は知り合い……?」

「いとこだよ」

俺は向こうにいる、と離れた席に行ってしまった。

思わぬ繋がりに驚いて動かないでいると、花音ちゃんと2人きりになった。

その瞬間……

「ごめんなさい」

花音ちゃんは私に頭を下げた。

「許してもらおうなんて思ってない。それでも、どうしても中学の頃のこと謝りたくて」

あの頃、全く私に目を合わせなかった花音ちゃんが私の瞳を見つめている。

席を立とうと思っていたけど、彼女の目を見て話を聞いてみようと思った。私自身、あのトラウマと決着を付けるためにも。

「私に話って……?」

「あの時、香奈ちゃんが言ってたでしょ……事情をちゃんと知りたいって。それをちゃんと説明したい」

そうして、花音ちゃんはあの時起こったことを彼女の目線で教えてくれた。


「中2のクラス替えで私は元々仲良かったメンバーと同じクラスになれてつるんでた。それがあの3人。そしてクラスにはグループに入れずに困ってた香奈ちゃんがいた。女子がグループ作り始めても1人でいたあなたを見て、私がうちのグループに入れてあげない?って提案したの。みんなは反対してたんだけど、ハブくのは可哀想だねってなって香奈ちゃんに声をかけた」

私がグループに入れたのは花音ちゃんが提案してくれたからなんだ……。一応、学校生活の上で1人きりっていうのも大変だから、どこかに入りたかったんだけど、仲良い子が居なくて困ってたんだよね……。

「香奈ちゃんがうちのグループに入っても、元々仲良かったからって理由で、香奈ちゃん抜きで遊ぶことがまあまああったの。だけど香奈ちゃんを誘うこともあったし別に良いかなって思ってた。だけど、遊ぼうとしてたタイミングで体調が悪くなったり、部活が入ったりで香奈ちゃんと遊ぶタイミングを見失ってしまった。そしていつからか誘うこともしなくなった。良くないことだって分かってても、3人に私まで誘われなくなるんじゃないかって怖くて黙ってた」

そうだ……春のうちは遊ぼうとよく声をかけてくれたけど、タイミングが合わなくて実際には遊びに行かなかった……。だからだんだん誘われなくなってたんだ……。

「そして、香奈ちゃんのことをグループから追い出そうとみんながしたきっかけが起こった。香奈ちゃん抜きで遊んでいた帰り道に日向くんが入ってたサッカー部の試合会場の前を通ったの。早希たちに言われて、試合が終わるのを待ち伏せて彼に告白した。」

……え?えーー!?花音ちゃん告白してたの?し、知らなかった……。

「じゃ、じゃあ付き合ってたの?」

「ううん。フラれた」

え?こ、このかわいい花音ちゃんを日向くん、振ったの!?

衝撃を受けているとさらに衝撃的なことを言われた。

「日向くんが好きだったのは、香奈ちゃんだったんだよ。」

……はい?

「え、な、何言ってんの?私、日向くんとろくに話したことないよ。必要事項ぐらいで!」

「日向くん、一年の頃から香奈ちゃんのこと好きだったんだって。友達から責められて泣きそうだったクラスメイトを助けたのを見た時から。みんな見て見ぬ振りしてたのに、香奈ちゃんが『そんなことして何が楽しいの!?』って庇ってるのを見てなんて優しい子なんだろうって思ったんだって」

そういえば……一年の頃、そんなことあった気がする……あの時廊下に日向くん居たのか……。

「フラれて私が泣いてたら、早希たちが駆け寄ってきてから話したの。日向くんの好きな人は香奈ちゃんだってって。いつから日向くんが香奈ちゃん好きだったか話さなかったからみんな香奈ちゃんが私が好きなの知ってて日向くんに近寄ったんじゃないかって勘違いしてしまったの。」

もしかしてですけど、あの時責められたのってそういうことだったんですか!?

「そして私も、昔から好きだったのに……って香奈ちゃんに嫉妬して訂正しなかった。そしたら、あんな大事になっちゃって……。だけど香奈ちゃん庇ったらみんなと居られなくなるかもって思ったら行動出来なくて、みんなに合わせてた。その内、香奈ちゃんの自分の気持ちハッキリ言うところとか性格まで悪口言うようになったけど、ずっと罪悪感がありながら合わせてた」

そこまで言うと立ち上がって私の前まで来た。

「私がグループに入れたのに、ずっと嫌な思いさせてごめんなさい。謝るのも私の自己満足なのかもしれないけど……謝らせて下さい」

ごめんなさい。そうもう一回言って頭を下げた。

許せない。そんなことでって思う。だからこそ……

「顔を上げて、花音ちゃん」

私はこのトラウマを乗り越えたい。

「私は今後も謝られたとしても花音ちゃんたちを許すつもりはない。だけど、あの時知れなかった事情を知れたのは嬉しかった。だから、ありがとう」

そう言って微笑んだ。

花音ちゃんはもう一度頭を下げると、真谷くんに近づいてお礼を言って店を去った。

すると、真谷くんが近づいてきた。

「花音はな、俺がお前と同じ学校って知って俺に頼んできたんだよ。お前が昔みたいに本音を言って過ごせてるのか、あれがトラウマになってるか知りたいって」

花音ちゃんが座っていた席に座った。

「事情を聞いて俺にできることないかなーって思って思いついたのがアレだった。ごめんな」

2週間嫌な思いもした……。だけど、お陰で乗り越えられた気がする。

「ありがとう。ようやくトラウマを乗り越えられた。」

その言葉に真谷くんが驚く。

「え……お前敬語……」

「自分の気持ち言うの怖かった。だから敬語使ってた。だけど、もう過去に囚われずに今を楽しみたい。だから敬語はやめる」

「良いんじゃね。花音からお前の中学時代の話聞いてて、そっちの方がお前らしいと思ってたし」

そうして、私たちは笑い合った。


花音ちゃんの話を聞いて、トラウマを克服できた。だって、あんな理由でされたことを今でもうじうじ考えるなんてバカらしいでしょ。

私は私らしく過ごしたい。

最近私が感じてたこの気持ちを行動に移すキッカケになった。

だから……ありがとう、花音ちゃん、真谷くん。

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