第5話
その出来事から、自分の気持ちを言うこと、ココロを伝えることが怖くなった私は常に敬語を使うようになった。友達になった子が居ても、どこか距離を取り、遊びに誘うこともトラウマとなっていた。
そして、中学の同級生が誰も来ないであろうこの高校へ進学したのだ。
高校こそは平穏な生活を送ろうと心に誓ったのに……!なぜか真谷くんが私に付き纏ってくるのですが……!?
ーある教室移動の時ー
「ほらー行くぞー」
「かなっちー?早く早く!」
「あ、はーい!待って下さい!」
立ちあがろうとした私の肩を誰かが叩く。振り返るとそこにあったのは……
「きゃ、キャーー!蜘蛛!?」
「ハハハッひっかかってやんの」
真谷くんが私におもちゃの蜘蛛を差し出したのだ。
「し、真谷くんやめて下さいね?びっくりしますので」
本当は「私、蜘蛛苦手なんだけど!?やめてくれない!?」ぐらい言いたかったけど、ココロをぶつけない……。よし、ちゃんと冷静に返答できた。だけどイタズラしてきた本人は、私の言葉が気に入らなかったのかチッと舌打ちをして教室を出て行った。訳がわからなかったけどとりあえず待ってくれている2人のところに行った。
「お待たせしました。行きましょうか」
すると2人がポカンとしながらこっちを見て
「いつからあんなに仲良くなったの?」
と聞いてきた。
それには思わず……
「仲良くなんかありません!!」
私の絶叫が響いた。
それ以外にもなぜか絡んでくる真谷くん。
その地獄の日々は2週間ほど続いた。
ーある日の授業中ー
腕を横からつつかれた。ここ2週間ほどの経験から誰の仕業か分かりきっている。ついに授業中までやり始めたのか……。いつも寝ているのに起きたと思ったら、人にちょっかいかけてくるとはどんな性格をしているんだ……。
そう思って授業に集中している、つまり無視しているとまたつつかれる。
それでも無視する。
それを繰り返していると
「おい!真谷!珍しく起きてると思ったら何してんだ!」
先生が注意をした。内心、よしよしこれで絡まれない……!と喜んでいると
「すみませんー今日は真面目に授業を受けようと思ったんですけど、これまでの板書写してないんで沢谷さんに写真撮らせてもらおうとしたら、ノートを見せてくれないんですよー」
……は?え、まって、その言い方じゃあまるで私が意地悪してるみたいに聞こえるじゃない!
「ち、違います!そんなつもりは!」
「あーもーいいから。沢谷は座る。んで、ノートを真谷に見せてやれ」
「はーい」
「はい……」
真谷くんの方を見ると得意げな笑みを浮かべている。
ゆりちゃんと真麻ちゃんが心配そうにこっちを見ていた。大丈夫とうなずくと真谷くんを睨んでから前を向いた。
「ノートです。勘違いしてごめんなさい」
先生に言われたと通りにノートを見せる。
私がそう言った瞬間、笑みは引っ込んでしまった。まるで求めていた答えが貰えなかったとでも言いたいような顔だ。
「サンキュ」
目を合わせることなく、淡々と写真を撮り前を向いてしまった。今までなら、またいじってきたりしそうなのに……今までとは違う対応でとても驚いた。彼は一体何がしたいの……?
ーその日の放課後ー
帰ろうとした私は彼に呼び止められた。
「なんでだ……?」
「え?」
「なんでこの2週間1回も俺に怒らないんだ?」
「怒ってますよ?やめて下さいと何度も言いました」
「あんなの怒ってるうちに入らねぇだろーが」
真谷くんはこの2週間、ずっと私を怒らせようとしていた……?
「何故ですか?何故、私を怒らせたかったのですか?」
「自分の気持ちを曝けさせるには……怒らせるのが1番だと思ったから……」
え……?
「私の気持ちを……?」
「お前が自分の気持ち隠して過ごしてんの、見てられないっつーか……前みたいに自分の気持ちハッキリ言えば良いのにって思ったから……」
前みたいに……?私は真谷くんと高校入学後に出会ったので、あの頃の私は知らないはず……。
「私を知っているんですか……?」
私の問いには答えず、スマホを取り出し3分ほどいじると立ち上がり歩き出した。
「着いてこいよ」
それだけ言うと行ってしまった。
私は仕方なく彼の後を追った……。
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